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第15話:「ヴェリきゅんだから」
しおりを挟むお世話になっております、愛錵芽久郎です。
今回、めちゃくちゃ難しいテーマすぎて時間がかかってしまいました…(汗)
本日も更新が遅れてしまい、申し訳ありませんm(__)m
ストックが切れてから楽しく毎日更新日に執筆しているのですが、時間がなさすぎて17時までに、なかなか間に合わなくなってきております…計画性が無さすぎて、すみません(汗)
最近は執筆をお休みをしたり、二日連続で更新が遅かったりとグダグダで申し訳ないです。明日は、ようやく仕事がお休みなので、たっぷり執筆していこうと思います!
こんなグダグダな愛錵ではございますが…どうか作品諸共、
温かく見守っていただけたら幸いですm(__)m
掲示板更新も恐らく、遅れます…
今日中には投稿する予定ですので、お待ちいただけたら幸いです。
どうかこちら、楽しんでいただけますように。
心を込めまして。
+++
響さんの様子がおかしい…
昨夜の響さんが女性に絡まれていた事件以降、様子が変なのだ。
あの日は疲れて寝てしまって、気がついたら布団にいたから…響さんに失礼なことをしていないはずなのに。布団までどうやって行ったか記憶はないけど多分、無意識に自分で布団に行ったのだと思う。服は外着のままだったし。
至って普通の様子ではある。
一緒にご飯を食べてくれるし、会話もしてくれる。
でも、本当にふとしたことに違和感を感じるのだ。
今までだったら普通に合っていたはずの目が合いそうになった時に動揺した様子で逸らされたり、先ほどもドレッシングを同時に取ろうとして私と手が触れて響さんが勢いよく飛び退いたりと、今まであまり見られなかった反応である。
…まあ、ドレッシングの時は私も飛び退いたんだけども。
私は無意識に失礼なことをして怒らせてしまったのだろうか?仕草や態度から、おそらく嫌われているわけではないと思うのだが…曲がりなりにも貴族だったので、人の心の機微には敏い方だから、多分…間違いないはず。
もう少し様子を見て、今後もそのような感じだったら勇気を出して聞いてみることにしよう。そして、私が何か失礼なことをしていたのだとしたら、しっかり謝ろう!
私はそう意気込むと仕事へ行く準備をして、インターホンの音からモモさんの迎えが来たのを知ると、響さんにいってきますの挨拶をしてモモさんと仕事場へと共に向かった。
その道中で、昨夜の置き去りにしたことを謝罪すると笑って許してくださった。
そして、あの後はどうしていたのかと話を聞くと、なんとあの女性たちと会話をして、その流れで飲みに行ったという。しかも飲み友達になったというではないか。
モモさんのコニュニケーション力の高さに驚きつつ、事態を丸く収めてくれたことへの感謝の気持ちを込めて、道中で立ち寄ったコンビニエンスストアにてお菓子を買い、プレゼントしたのだった。
+++
『響さん…だいすき』
「うわあああ!!!!」
俺は慌てて飛び起きると、荒い呼吸を繰り返した。
「俺は、なんつー夢を……」
ヴェリきゅんが裸エプロンのような姿で、恥ずかしそうに俺に向けて好意を伝えてくる夢。
男の願望を詰め込んだような夢にゲンナリせざるを得なかった。
「原因はわかってる…この間の出来事のせいだよな……」
珍しく居眠りをしたヴェリきゅんを運んでいる最中、寝ぼけたヴェリきゅんに言われた言葉。友人としての親愛の意味を込められたものだろう。
しかし、それでも破壊力は抜群で、あの時はリアルに呼吸も心臓も止まった。
ヴェリきゅんは、俺の首に抱きついたまま眠ってしまって、密着されていることにもドキドキするのに、あの言葉の破壊力たるや。
本当に本当に困る。
尊すぎて、愛おしすぎて。
あの言葉を聞いてから、こうして生々しい夢まで見るようになってしまった。
ヴェリきゅんに対して失礼すぎるし、俺は乙女ゲームをしている時もこういう欲や下心があってヴェリきゅんを好きだったわけじゃない。
懸命に頑張る姿や性格の良さに心惹かれたのだ。
推しに対して、えっちな目で見る人だって、もちろん大勢いるけど。俺はそういうつもりでヴェリきゅんが好きなわけじゃないのに。
俺にとって、推し=神聖なもの、だ。
他所様の推しに対する考え方は自由であっていい。
けれど……
自分が推しに対して、どう思うかは違う。
「…推しに対して邪な気持ちを抱くなんて、おかしいよ」
俺は自分自身の反応に理解できずにいた。
「あ、響さん。おはようございます」
「お、おお、おはよう。ヴェリきゅん」
着替えてからリビングへ行くと早く起きていたヴェリきゅんが朝ごはんを作ってくれていた。
「ご飯作ってもらっちゃって悪いね」
「いいんですよ!響さんには、いつもお世話になってますし!これくらいさせてください」
「そう言ってくれて有り難いよ。ヴェリきゅんのご飯好きだからさ」
「っ!あ、ありがとうございます…」
褒め言葉に照れたのか、俯き加減で頬を染めるヴェリきゅん。その姿は、たったさっきまで見ていた夢を彷彿とさせる。
思わず目を逸らして後ろを向くとヴェリきゅんの戸惑うような声音が聞こえた。
「響さん……?」
「ごめん。ちょっと、出かけてくる」
「響さん……っ!?一体、どこに…」
「ごめん、ご飯冷蔵庫入れといて。ごめん!!」
「響さん……!!」
ヴェリきゅんの声を振り切り、近くにあった家の鍵と財布を持って外へと飛び出した。
あの場にどうしても、いられなかった。ヴェリきゅんに対して沸いた、欲めいた感情が醜くて恥ずかしかったからだ。
近くのカフェに滑り込むとソファ席に案内された。
人はそこそこいて、皆が友人や家族と楽しそうにモーニングだろうか。食事をしている。
……俺は何をやっているんだろう。
せっかく、ヴェリきゅんがご飯作ってくれてたのに飛び出して、お店に入るなんて。
失礼以外の何者でもないじゃないか。
自分に嫌気がさして、深くため息をつく。
…愛おしいと思ってしまった。
今までヴェリきゅんに対して感じていた、小動物や赤ちゃんに対して向けるような柔らかな愛ではなく。
……もっともっと、熱を帯びたもの。
「俺は、ヴェリきゅんが好きなんだろうか」
いまいち、よくわからなかった。
これが好きな人に向けるような恋なのか、それともただ欲を孕んでしまった推しに対する愛なのか。
同性愛に偏見があるわけじゃないが、自分がそうか、と考えると違う気がした。
ヴェリきゅんは男の子で、俺の推しで。
俺は、俺は…
味もよく分からずにカフェのモーニングを食べ終え、ずっと頭でヴェリきゅんに対しての気持ちを考えてみたが答えは出てこない。
欲と恋を履き違えているのかもしれない。
そんな気がしてならなかった。
「アラ、珍しいわね。一人?」
声をする方へ目を向けると片喰さんがいた。
「片喰さん…!」
「ヴェリキュスは一緒じゃないのね」
「あ、えっと…はい……そうですね」
「アラ…その様子、ケンカでもしたの?」
「そんなまさか…!俺が勝手に…ッ!あっ」
「フフ、勝手にどうしたというの?」
しまった。片喰さん相手には敵わない。
なんとか、話を逸らせないかな。
「片喰さんこそ、ルメアーノ様と一緒じゃないんですか?」
「彼は偉大な方だもの。ワタクシたちと違って暇な方じゃないわ。それよりも、誤魔化されないわよ」
「や、やっぱりダメでしたか。すみません…」
「まったく。ワタクシ相手にそんな手段は通じないわ」
「仰る通りです……」
話を逸らすことに失敗し、"ついてきなさい"と俺は片喰さんの運転する車に乗せられた。ちなみに、めちゃくちゃ高級車だ。
早く戻るつもりではあったが正直、戻るには心の準備も必要だったこともあり、特に抵抗もしなかった。
しばらく走るとオシャレな店へと連れて来られた。
…ここってもしかして。
「片喰さんのお店ですか?」
「そうよ。ここなら、ゆっくりなんでも話せるでしょ」
「なんでも……」
正直、嫌な予感しかしなかった。
お店に入ると、そこは飲食店ではなく服屋さんで、それはそれはオシャレな服たちが並んでいた。
お店は休みなのか開店していないようで、片喰さんと俺しかいなかった。
そのお店の一室に辿り着くと、紅茶を出される。
香り高くて、高級だとわかる紅茶だった。
「いい香りですね」
「フフ、ルメアーノも気に入っているの。お茶菓子もあるわよ」
「あ、すみません。お構いなく」
紅茶を一口飲むと、ほっと息を吐いた。
「アンタ、さっきらしくもなく辛気臭い顔してたわよ」
「そんな顔に出てましたか…」
「ええ。ハッキリとね」
自分はやはり嘘をつくのが下手なのだと気づかされた。
「お恥ずかしい限りです…ちょっと、悩んでいることがあって」
「そうなのね。それって、何か当てていい?」
「どうぞ」
「ヴェリキュスのことでしょう?」
「そんなにぃ…!わかりやすかったですかぁ…ッ!!」
自分のわかりやすさに少なからずショックを受ける。
「ええ、わかりやすかったわ。アナタたちって本当にびっくりするくらい分かりやすいのよ」
アナタたちって俺以外に分かりやすい人がいるのだろうか。
俺がよく分からずに頭にハテナを浮かべていると、片喰さんは呆れたような顔になる。
「これは、本当に鈍ちんね……余計なお世話だけどケツを叩いてやらなくっちゃ、こんなの悠長に見守っていたら、おじいちゃんになってしまうわ」
片喰さんはブツブツと何かを呟くと、俺に向き直る。
「アナタ、ヴェリキュスが気になってるんじゃないの?」
「…!!」
さすがだ。さすがは会社を一流にするだけの力がある人。
片喰さんには俺の悩んでいることなんて何もかも、お見通しなのかもしれない。
「片喰さんには敵いませんね…その通りです。俺は、ヴェリきゅんのことが……その、好きかもしれなくて」
「そう」
「でも…この気持ちが正直どういうものなのか、がわからないんです」
「それは、どうして?」
「この気持ちは、世の中の人が人を好きになる…つまり恋に落ちた時に沸き起こる感情なのか。それとも、ただ推しのヴェリきゅんを俺がただ単に性癖が開花して、それで邪な目で見てしまうのかが、わからなくて」
「性癖が開花って……ふふ」
「あっ!ちょっと。真剣に話してるんだから、笑わないでくださいよー!」
「だって、随分と可愛らしいことを言っているから」
「可愛らしいって…」
片喰さんは、びっくりするくらい優しい顔をしていた。
「アナタは同性愛に偏見はあるの?」
「別に愛は自由だと思うので、俺は気にしませんよ」
「そう。じゃあ、自分がってなると、どう?」
「俺は…普通に女性が好きだと、思います。誰とも付き合ったことがないので、わからないですけど…でも、男性を好きになったことはないです」
「女性では好きになったことがあるの?」
「女性も…ないです」
「アラ。じゃあ、異性か同性か、どちらが好きかなんて分からないじゃないの」
「確かに、そうですね」
確かに仰る通りだ。
なんとなく、世間的な考え方で自分も当て嵌めていたが、別に俺は誰かを好きになったことなんてないじゃないか。
「ねえ、響。何を悩むことがあるの?」
「何をって…」
「アナタが戸惑っているのは、何?今まで推しだった存在を邪な目で見てしまうこと?それとも自分が男性を気になってしまったこと?」
「俺は────」
俺は、ヴェリきゅんを…
「響。もしも、モモがヴェリキュスが好きだったと言っていたら、どうする?」
その言葉を聞いた瞬間に。
ぞわりと気持ちが蠢いた。
「フフ、なんだ。分かりきったことじゃない」
片喰さんは、妖艶に微笑むと俺に言った。
「響、大切なことを言うわ。本当に愛するものを見つけた時は迷ってはダメよ。誰かに盗られても文句は言えないわ」
「俺は……」
「アナタは、きっと…女性が男性が、で人を好きになるタイプじゃないわ」
「それって…」
「本当は、よく分かっているでしょう?推しだとか関係ないんじゃない?」
乙女ゲームをプレイしていた時も思っていた。
どうして俺は、ヴェリきゅんが男性キャラなのに、こんなに惹かれるんだろうって。
悪役なのに、男の子なのに、断罪されるのに────。
「そうか。お、れは…ヴェリきゅんだから好きなのか」
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