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第13話:「二人の恋を見守る会」

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 まったく、世話の焼ける後輩だ。
 オレ、桃田陽介は深々と息を吐いた。

…あれは、おそらく自覚したっぽいな。

 ボディーガードの仕事をしていたオレが仕事先でたまたま麗さんに出会い仲良くなって早数年。仕事を辞める際に"よければウチへ来ない?"と誘われて今のバーで働くようになった。

 そうそう、オレって見えないって言われるけど元ボディーガードなんだよね。意外っしょ?きっかけは、朧げなんだけど…とにかく誰かを守りたいって気持ちが幼い頃から強くあって、それで目指したって感じかな。

 麗さんが手がけているバーに働かせてもらってから一年近く。麗さんが自分の憩いの場として、ほぼ趣味で経営しているバーに新人を入れると聞いた時は驚いた。

 滅多に心を開かない麗さんが、このバーに人を入れると言うことは、つまりその人は麗さんにとって、かなり気に入っている存在ということ。

 それに加え、元ボディーガードをしていたオレにその人の護衛をして欲しいと言う。わざわざ、オレをその人が住んでいる場所の近くに住まわせてまで。

 どんな人なんだろう、これは会うのが楽しみだ!と内心ワクワクしていたら。会ってビックリ。それはそれは、雑誌に載っているモデルさんよりも遥かに整った顔の外人さんが現れたではないか!

 しかも、外国の方からすれば難しいとされる日本語がペラペラに話せるし、性格は擦れていなくて誰もが愛せるキャラクター。

 こんな完璧人間いるのかよ…と思わず、宇宙の背景を背負った猫のような表情になったよね。第一声に、これは護衛必要っすわ…って思わず口に出したくらいには。

 そんなヴェリくんに、オレが心を開かないはずもなく。それはもう、急ピッチで仲良くなりましたよ!ヴェリくんは博識で話すのが楽しい、楽しい。

 まあ、そんなこんなで仲良くなったヴェリくんなのだが。彼は、見た目も頭脳も完璧で、なんでも持っている人間に実際、見えるのだが。

 本人無自覚で、めちゃくちゃ片想いをしていた。
 しかも、男性に。

 その片想いの相手の名は杜若響くん。
 オレと同い年でこれまた、ヴェリくんと同様に違う部類のイケメンくんだ。

 なぜか、本人無自覚だけど…

 どうして、彼は自分がイケメンってことに無自覚なんだろうと、同い年だったのもあって周りの友人知人に彼の名前を出して話を聞いてみて、ビックリ。

 彼はどうやら…ヴェリくんとは、また違った愛されキャラだったようだ。彼も純粋培養で気さくな所が魅力の為にめちゃくちゃ人に好かれるので、響くんがいた学校には次々にファンクラブが生まれていたそうだ。響くんがいた学校だけではなく、他校にまで。

 その中で結成された親衛隊は彼の友人を含む、それはそれは精鋭たちで、悪い影響を与えそうな人や物から、かなり守っていたらしい。なので、響くんが知らぬところで騒がれていたようだが響くん本人の前では騒ぐことができなかったので本人は自分がモテるとは露ほども思っていないのだ。

 麗さんのおかげで、そんな面白い人々と関われることになり、楽しく接していたのだが。

 ちょっと、やめてくれよ~!っていう事態が一つだけあったりした。

……それは。

 お互いがお互いにオレに嫉妬してくるのである!

 二人とも無自覚だけど、両片想いなのだ。
 それはもう、わかりやすいくらいに!

 そんな二人なのだが無自覚なくせにお互いにオレに対して、ふいに嫉妬心見せてくんの。最初は面白かったよ?でも、毎度になってみてみ?もう、お互い気づいてぇー!!ってなるよね。疲れるよねぇ…

 ヴェリくんはヴェリくんで、オレが響くんと同年代だし出身県が隣同士なのもあって、いろいろ話せることあるから話弾むじゃん?そういう時にジェラ…ってしてるし。

 響くんは響くんで、オレが護衛として送り迎えしてる時に、自分が役立たないからこそ不甲斐ないと思っているらしく口が裂けても言えないみたいだけど、ヴェリくんの護衛であるオレのポジション変わって!って思ってるのが丸わかりなのよな。

…まあ、二人の様子を見てたら可愛いから、目をつぶってあげてるけどさ。別に君たちの邪魔するつもりないから、そんなジェラジェラしなくていいのよ?って思っちゃうよね。言ってあげないけど!

 そういう経緯もあって、オレは二人が恋を自覚するのを温かく見守っていたワケだが。

 ヴェリくんが、ようやく気がついたようなので、これで少しは前に進めるだろう。

……というわけなので、オレはオレのすべきことをするかな。


「お姉さんたち、今の見たでしょ?あの二人には、入る隙がないから諦めな」

「え、入る隙って……つか、アンタ誰?」

「オレは、二人の恋を見守る会の会員ですが?」

「二人の恋って」

「もしかして……」


 呆然としていた彼女たちの頬が染まる。

 どうやら、意味を理解したらしい。


「え!?それってマジなん……!??」


 響くんに胸を押し当てていた方のお姉さんが逸早く復活し、オレに質問してきた。


「そうだよ~え。お姉さんたちって、そういうの偏見ある感じ?」

「そんなわけないっしょ!最近もドラマでやってたの観てたんだよね~」

「ウチら三人で映画化されたやつも観に行ったしね!」

「まさか、生でホンモノ見られると思ってなかったわ!」


 きゃあきゃあとお姉さんたちは、アイドルの話をする少女のように、はしゃいでいる。
 近年、そういった同性愛を謳った物語の書籍化や映像化が増えている影響だろうか。テレビでも、そういった作品を紹介することもあったりするし…お姉さんたちが受け入れてくれる感じでよかった~


「てか、さっき見守る会とか言ってたけど、それってさ…本当にそういう集まりがあったりすんの?」


 おっと。一見、胸を押し付けていたアホそうな姉ちゃんかと思いきや意外と彼女は目敏いようだ。


「よくわかったね~本当にあるのよ、そういう会。老若男女問わず会員がいるよ」


 かなりの数の会員数がいたりする。それは三桁超えるくらいにはね。何でも、SNSでかなり彼らのことが噂になってて、たまたまそれを知った麗さんがこれは何かに使えると、人を使ってその人たちにSNSで呼びかけたらしいよ。何に使えるってなったかは怖くて聞けなかったけどね!彼らを見守るファンクラブがありますけど、どうですか?って。

 麗さん曰く、このまま放置しておけば彼らを知りたがったり、求めるがあまりストーカーまたはSNSへ彼らの写真が載せられるなど事件に発展しかねないとなったらしい。それくらいの勢いがあったそうなのだ。なにそれ、こわすぎ。美形ってのも考えものだよね。
 それよりは、気持ちのガス抜きも兼ねてアイドル的な感じで見守ろう!って会を形でも作っておけば防波堤になるだろうということなのだそうだ。

 実は、今日最後のお客様だったマダムも会員だったりする。


「マジで!?めっちゃ入りたいんだけど~」

「ウチらも!」


 三人とも入る気マンマンのようだ。


「え、どうしようかな~お姉さん、胸押し当ててたくらいだし、彼を狙ってたんじゃないの?会員になるには、手出し厳禁って掟があるんだよねー」

「ないない!もうそんな気持ちないから!!あの美形二人の組み合わせ見たら、あのカップルを見てる方が目が幸せだし、最高じゃん!!!」


 他の二人も頷いている。
 熱意はホンモノっぽいし、変にここで入れなくて彼らに執着されて、下手な行動されても困るし、ここは素直に入れてあげるか。


「じゃあ、お姉さんたちを入れてあげるよ!あ、そうそう。オレは善人だから良かったけど。もうこういう、あるかどうかもわからない変な組織に簡単に入っちゃダメだからね?」

「そんなんわかってるし~!てか。変な組織とか、めっちゃ今更すぎてウケるんですけど」

「普段だったら信用しないけどねーでも、あの美形具合をさ見ちゃったら信じざるを得ないよね」

「ねー」


 お酒でハイになっていただけで、ちゃんと考えているお姉さんたちだったようだ。


「てか、お兄さんさーめっちゃノリいいよね。アタシたち、これからまだ呑む予定なんだけどさ、お兄さんもどう?」

「え!?マジ?まだ飲むの??お姉さんたち強いんだね~そうだね…二人を見守る会のこともあるし、飲みに行きますか!」

「「「イエーイ!!!」」」


 こうして、オレは飲みに行ったお酒の席でお姉さんたちと更に仲良くなり。二人の恋を見守る会の会員…もとい新たな友人を手に入れたのだった。



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