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第7話:「あれ…?これって世にいうデートってやつじゃね…??」

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「ヒビキさん、すごいです……!あれは、なんですか!?」

「あ、あれはね~!」


 ヴェリきゅんは目を輝かせながら、気になるものを手で指して質問してくる。ヴェリきゅんは礼儀正しいから指で指したりしないのだ。できるヴェリきゅん尊い!!!

 今、ヴェリきゅんは俺のお下がりを着て、靴はサイズが合わなかったので、サンダルを履いてもらっている。

 家から外に出て、かれこれ30分経つが、既に聞かれた質問の数は10を超えていた。

……恐るべし、ヴェリきゅんの好奇心と探究心!

 外へ足を踏み出した一歩目でヴェリきゅんの世界の煉瓦道とは違う、整備された道に感嘆し。建物の多さや電柱から郵便ポストに至るまで興味を示した。もちろん、車が通った時なんて目がこぼれ落ちるんじゃないかってくらい、目を見開いていたよ。

 その度に俺は携帯で調べて、答えていた。なんか、クイズの回答者になったようで楽しかった。調べてるから自分が持ってる知識ではないんだけどね!

 そういえば、すっかり忘れていたけど、ヴェリきゅんにも携帯を買わなくてはいけない。ヴェリきゅんは現在働いていないわけだが神様曰く、大学は卒業している学歴だと仰っていたので、いずれは働かなくてはいけない。

 ヴェリきゅんがこの世界で幸せになる為に、俺はサポートすると決めているから、当分は俺のお金でヴェリきゅんを養っていけたらと思っている。推しに直接、貢げるって最高…!


「よし、着いた。ヴェリきゅん、ここが朝ごはんの時に話してた駅だよ。ここから電車という乗り物に乗って目的の駅に降りて、ショッピングモールっていうお店が集まった商業施設に行くんだ」

「お話に聞いてますけど、馬じゃなくて電気で動く乗り物って不思議で乗るのが、とっても楽しみです」


 ヴェリきゅんの世界に機関車的なものはなかったみたいだし初めての乗り物って、そりゃあワクワクするよね。

 切符を買い、ヴェリきゅんと一緒に駅のホームへ向かう。

 時間帯がラッシュを過ぎているからか、人は疎らだった。
…これなら、少しくらいヴェリきゅんがリアクションとかして、騒がしくても大丈夫かな。

 そう思っていると、電車がやってきた。
 ヴェリきゅんからすれば、大きな鉄の塊が動いていることに衝撃を受けるのもさることながら、そこそこの人が乗っていることに驚きを隠せないようだ。


「す、すごいです…!本当に動いてますし、とても大きくて、沢山の人が乗ってます!」

「ふふ、そうだね。今はラッシュ時じゃないから人が少ないけど学生とか会社員の人が乗る時間帯は、もっと人が乗り降りするからね」

「そうなのですね…!」


 電車が止まり、乗っていた人が降りたのを確認すると電車に乗ろうとした。
 しかし、ふと足元を見ると若干、電車とホームの間に隙間がある。

 ヴェリきゅんは初めて電車に乗るので、もしかしたら躓いてしまうかもしれない。

 本当に無意識だった。


「ヴェリきゅん、そこに段差があって危ないから、はい。掴まって」

「……っあ、はい!」


 手を握り、一緒に乗り込む。椅子が空いていたので、適当に目についた場所に二人で座る。

 そこで、はたと気がついた。

……手を、握っている。


「ごっ!ごめん!!さっさと離せって感じだよね!」

「い、いえ!私のために、ご親切にありがとうございます」


 少しドギマギとしながら、ヴェリきゅんと俺は言い合った。
 俺は重大な事実に動揺せざるを得なかった。

 ヴェ、ヴェリきゅんと手を握ってしまった……
 危険を回避させる為とはいえ、俺は推しと手を握ったのか。

 なんだろ、これ。心臓うるさいな。
 まるで、全力疾走をした時のような動悸。

 ヴェリきゅん、嫌じゃなかったかな。
 いつになく、ネガティブな気持ちが顔を覗かせる。

 ヴェリきゅんと目が合った。
 俺の気持ちを汲んだかのように、ヴェリきゅんは柔らかく微笑んだ。

────ドキリ。

 何故だか、わからないけれど。
 心臓がまた一つ、大きく鳴った。


「ヒビキさん!見てください、景色が物凄いスピードで動いてます!馬よりも早いですね」

「そっか。俺は慣れちゃったけど、ヴェリきゅんからしたら、とっても早く感じちゃうかもね。あ、そういえば。乗り物酔いとかは大丈夫…?気持ち悪くなってない?」

「今のところ大丈夫です!ありがとうございます」


 ヴェリきゅんがまた笑うと、周りからザワッとした空気を感じた。

 先ほどから気になっていたが、やはり電車に乗っている皆、ヴェリきゅんのことが気になるようである。

…まあ、そうだよな。
 こんなに美人でしかも俺たち日本人からみたら外国人!
 今時、外国人は珍しくないかもしれないが、ヴェリきゅんは神様の采配のおかげで日本語がペラペラである。

 そりゃ、気になっちゃうよね!ハーフかな?それとも勉強して身につけたのかな?は置いといて、とにかく美貌から目が離せたいよね!!

 わかる、わかると頷きながらヴェリきゅんの顔を盗み見る。

 電車の車窓を純粋に楽しそうに眺める姿は、一見冷たく見える美麗な顔からは想像ができないほど、あどけなく愛らしい。

 そんな尊い存在と一緒に出かけられるなんて。
 俺はなんて幸せ者なのだろう。

…一緒にでかけて、オマケにさっきは咄嗟とはいえ、手まで繋げちゃって!

……おでかけ、ラフな服装、手を繋ぐ。

………あれ?これって世にいうデートてやつじゃね…??

…………。

 おいおい、まてまて。
 杜若響よ。

 ヴェリきゅんは男の子で、今まで血の滲むような努力をしてきた本当に素晴らしい人だぞ?

 デート?俺と対等に見るなんて、何事ぞ?

 己の思考がとんでもないところに飛んでいったことにパニックになる。

 しかし、"デート"というものを意識してしまうと、何故だろう。何だか無性に、ヴェリきゅんの顔を見るのが照れ臭くて恥ずかしくなる。

…年下の男の子相手に俺はなんてことを考えているんだろう。

 そんな風に思い、少し落ち込んでいる俺に気づかず、ヴェリきゅんは楽しそうに流れる景色を見ていた。

 ふいに、こちらを向いたかと思うとヴェリきゅんは言った。


「ヒビキさん、私を連れ出してくれて…ありがとうございます」


 ゲームでも僅かに過ごしてきた時間の中でも見たことのない幸せそうな顔をしていた。

─────ドクン。

 響の顔が他人の目から見ても、わかるほどに赤く染まっていた。

 響は気がついていなかった。
 これは序章に過ぎないことを。
 これから心臓をフル活用する日々がやってくることを。

──────この時、既に気持ちに芽が出ていたことを。

 そして、響たちは知らない。

 同じ時間帯に乗車していた女子高生たちによって、"とんでもない美形二人が電車に乗っていた"や"二人の仲睦まじい姿が尊かった"とSNSでつぶやかれ、写真は載せられなかったものの、とんでもない噂になったことを。

 彼らを一目見ようと電車に乗る人間が増加し、その影響により、この経由の電車だけが謎にいつもより売り上げが上がったことで駅の関係者たちが首を傾げたことを。

 響たちは知らない。知る由もないのである。




+++



「すっ…すごいです……!」


 はい。今日一番のリアクションいただきました!

 ヴェリきゅんと俺は今、この県で一番の大型ショッピング施設へ来ていた。

 平日なのに、そこそこ人がいる。
 通り過ぎていく誰もが、ヴェリきゅんの美しさに見惚れていた。

 そんな視線からヴェリきゅんをやや隠しつつ、2人で館内を歩く。


「…まずは!布団を見に行こうか」

「そうですね、そちらから先に見に行った方がいいかもしれませんね」


 一つ一つのお店がヴェリきゅんは気になるようだ。
 あちらこちらに視線を移しては、とても楽しそうにしている。

 俺たちの近くにいる人たちは、ヴェリきゅんのことを外国人観光客とでも思っていそうだ。この感じで俺たちの耳にはペラペラな日本語でヴェリきゅんが話すわけだから、きっと驚かれるだろうな。あ、でも、日本が大好きで日本語が上手な外国人の方もいらっしゃるわけだから、不思議には思われないかもしれない。

 寝具を取り扱うお店に辿り着き、ヴェリきゅんと商品を見て回る。

 掛け布団と敷布団、そして枕。掛け布団と敷布団のカバーに枕カバー。

 そして…俺は馬鹿だから、それらの沢山の物を買って店員さんが持ってきてくれた大型カートに乗せてから重大な事実に気がついた。


「電車に乗って来たのに、どうやって持って帰るんだ。これ…俺バカすぎるだろ……」

「たしかに、どうしましょ…手で持っていくにも待ちきれませんもんね」

「そうだよねー…どうしよう。うーん、これすぐに家にパッと送れたりできたらいいのになぁ…配送頼むしかないかな……」

「パッと送る…」


 そう呟いたきり、ヴェリきゅんは黙ってしまった。

 そして、徐に人気のない場所へ案内するように俺に頼んだかと思うと二人で荷物ごと移動する。


「どうしたの?ヴェリきゅん。急に人気のない場所に案内して欲しいだなんて」

「どうしても、試してみたいことがあったんです」


 ヴェリきゅんは、真剣な顔をして手のひらを荷物の方へと突き出し、目を瞑った。

 ヴェリきゅんの口から聞き取れない言葉が聞こえてきて、手のひらと荷物全体が光り出す。

───これは、もしかして。


「魔法……?」


 俺が呆然と呟いたのと、ほぼ同時にカート以外の荷物が目の前から消える。


「よかった。治癒魔法も使えたので、もしかしたら使えるかもと思ったんですが、予想が当たっていたようです。驚かせてしまって、すみません。今のは転移魔法というもので、荷物をヒビキさんのお家まで送ったんです」

「えっ…!今のが、よくゲームとかで出てくる転移魔法…!なにそれ、ファンタジー……!」


 テンションが上がって頬に両手をやりながら、所謂いわゆるムンクの叫びみたいなポーズで俺は叫んでいた。

 ヴェリきゅんの言う通り、人気のない場所でよかった。俺たぶん、頭おかしい奴って目で見られたと思うから。あ、もちろん魔法のこともあるから人目は絶対、ダメだったけどね!


「ヴェリきゅんのチートっぷりがすごいよ…!これでいくら大きい物を買い物しても運ぶのに困らないね!」

「そうですね、もしヒビキさんが欲しいものがあれば飛ばしますので、良かったら頼ってください」


 自分に役立てることがあって嬉しいのだろうか。
 鼻息荒く、どこか自信に満ち溢れたように言うヴェリきゅんがマジで可愛すぎて辛いんだが。


「待てよ。ということは、それって人も移動できちゃったりするの?」

「そうですね。絶対に人がいないタイミングを見計らってじゃないと危ないですけど一応、人間相手にも使えますよ」

「それはすごいね…!じゃあ、電車代もかからずに一緒にまた頻繁にお買い物に来れるね」

「そう、ですね…」

「どのしたの?ヴェリきゅん」


 ハッ!もしかして、俺とそう何度も買い物になんて、行きたくないのかもしれない。俺ってばなんて傲慢なことを…!


「ごめ…っ!」

「……電車もまた乗りたいんですけど、電車にも一緒に乗ってくれますか?」


 恥ずかしそうに照れたように言う、ヴェリきゅんに俺は心臓が握り潰されるのではないかという程のきゅんを味わった。

…乗り物好きとか、可愛すぎやろ!!!!


「もちろんだよ。また電車に乗って、一緒に来ようね!」

「……はいッ!」


 荷物のことが片付いたので、俺たちはランチに来ていた。
 お昼時は過ぎていたのだが、そこそこ賑わっている。


「何、食べようか?ここはご飯を注文して注文した料理を好きな場所に座って食べるところだから気になるの全部注文してもいいし」

「いろいろあって、迷ってしまいますね…どこからもいい匂いがして迷ってしまいます……!」


 ヴェリきゅんの尊い姿にいろんなところから視線が集まっているのがわかる。わかるよ、わかる。尊いよね!美しいよね!でも…皆、見過ぎだからね!!

 結局、ヴェリきゅんは迷った挙句、卵が好きということでオムライスを注文していた。昨日の晩御飯の時といい、卵が好きなんだね。メモ、メモ。

 俺はと言うと、お肉が食べたい気分だったのでガーリックライスとカットして焼いたお肉がセットになったガッツリ系を頼んだのだった。

 いざ、実食!


「たっ…!卵がトロトロでこの茶色のでみぐらす…?ソースとすごく相性が良くて美味しいです…!」


 感動したようにヴェリきゅんは味わって食べている。
 確かに初デミグラスは感動するよね…!美味しいよね!


「よかったら、俺のも食べてみて美味しいよ」

「ありがとうございます!いただきます」

「お肉も食べていいからね」


 ちょっと遠慮がちにガーリックライスとお肉を掬うと口の中に頬張って、目を輝かせた。


「こっ…!これもすごく美味しいです…!」

「でしょ。お肉食べたい時はつい頼んじゃうんだよね」

「ヒビキさんの気持ち、すごくわかります!!」


 それから、ヴェリきゅんのススメで俺も一口もらったりしつつ、楽しい時間をフードコートで過ごし、俺たちはまた電車に揺られて帰路に着いた。

 そして、家に着いて今更ながらに、推しと間接キスしてしまった…!と悶える俺なのだった。

 そして、響たちは知らない。

 同じ時間帯にフードコートを利用していた老若男女の客たちによって、"とんでもない美形二人が食事をしていた"や"二人の仲睦まじい姿が瀕死ものだった"とSNSでつぶやかれ、写真は載せられなかったものの、とんでもない噂になったことを。

 彼らを一目見ようとショッピング施設を利用する人間が更に増加し、その影響により、イベントをやっているわけでもないのに何故かいつもより売り上げが上がったことでショッピング施設の関係者たちが首を傾げたことを。

 響たちは知らない。知る由もないのである。



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