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第29話

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「いつか、帰ってくるかもしれないじゃないですか……」

 徐々に声が小さくなっていった。
 帰ってくると信じたいのだ。どこかでか言ってこないと理解していたとしても。

「また来ます」

 そう言って頭を下げたシルフィスは、もう一度俺を見て扉を閉めようとした。
 しかし、そんなシルフィスの行動を止めたのは師匠だった。

「待ってください」

 突然そう言われたシルフィスは不思議そうに師匠を見ていた。俺もどうして止めたのかが分からず、首を傾げて師匠を見た。
 すると師匠は振り返って座っている俺を見ると、笑みを浮かべた。その笑みに嫌な予感がした。
 ときどき師匠は、いい考えとでも言うかのようにとんでもないことを言うことがある。
 今浮かべている笑みはそのときと同じだった。
 だから師匠はこれから、俺にとって良くないことを言い出すと分かった。

「リクトを連れて行ってください」
「え?」

 師匠の声にシルフィスは驚いたようだった。俺も驚きはしたけれど、声は出さなかった。
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