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第29話

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「アランの村に行く前にどうしてこちらへ?」

 アランの村に行くにはルルカの森を通ることになる。けれど、この家には立ち寄る理由はないのだ。
 立ち寄ったということは、シルフィスにとっては何か理由があるのだろう。

「リクトは帰ってきてませんか?」
「彼はもう帰ってくることはありませんよ」

 師匠は俺が死んだことにしているのだ。だからシルフィスにそう言ったのだ。それでも彼女は俺が生きていると思い続けている。俺のことをよく知っているからこそ、生きていると思っているのだ。
 もしも俺がエルザに見惚れていなかったとしたら、ここにいなかっただろう。彼女には勝てる気がしない。師匠でも勝てるかは分からない。それだけエルザは強いと思う。
 俺が帰ってきていないと知って、シルフィスは悲しそうに俯いた。それでも認めたくないシルフィスは、今後もこうやって立ち寄ることがあるのだろう。
 俺が死んだのだと納得できるまで何度も。きっとどれだけの時間が経っても彼女は納得することはないだろう。
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