88 / 95
第一章 船に乗る
船に乗る8
しおりを挟む******
リシャーナは海底へ向かってひたすら潜っていた。エリスが攫われてから時間がたっている。人間は改定へ潜っていけば、水圧に耐えきれなくなる。それだけではなく、息ができなくて死んでしまう。
――早く見つけないと。
そう思いながらリシャーナは潜っていく。周りにはいつの間にかウミヘビが集まり始めているが、リシャーナが気にすることはなかった。
潜り続けて3分ほどがたった頃、リシャーナは漸く目的のものを見つけた。しかし、それはその場に止まっており、まるで誰かが追いかけてくるのを待っていたようにも見える。その様子を見てリシャーナは不思議に思ったようだが、今はエリスを助けることが優先だと思い止まっているイカに近づいて行く。
「エリスを返してもらえないかしら? 人間は酸素がなければ死んでしまうのよ。……近くにあなたの主人がいるんでしょ? 聞いているんでしょ? このイカを殺されたくなかったら、エリスを放しなさい!!」
リシャーナが水中でも言葉を発することができるのは、ゼグロウミヘビの血が混ざっているからだ。まだ意識のあったエリスが、口元を両手で覆いながら驚いたようにリシャーナを見ていた。エリスも知らなかったのだ。
「解放しないのなら、手加減はしない!!」
そう言うとリシャーナの首の後ろにある鱗が体や頬に広がり始めた。それは、リシャーナが力を使おうとしているために広がっているのだ。リシャーナは今まで一度も力を使おうとしたことはない。誰かに鱗に覆われた姿を見られたくなかったからだ。
それだけではない。リシャーナの力はウミヘビを強制的に操ることのできるもの。たとえ、ウミヘビが嫌だと思っていても関係なく操るためリシャーナはできるだけ使いたくないのだ。
しかし、今は手段を選んでいる場合ではない。それにリシャーナにはわかっていた。周りに集まっているウミヘビ達が協力してくれるということを。
「お願い。エリスを捕らえている触手を攻撃して、エリスを助けて」
静かな声で言ったリシャーナの目は赤くなっていた。そして、リシャーナの周りにいたウミヘビ達が言葉を聞いて触手へと向かって行く。
毒をもつウミヘビも中にはいる。ウミヘビ達が大きく口を開け噛みつこうとした時、イカはエリスから触手を放した。
ウミヘビ達は以下の側から離れず様子を見ており、リシャーナはエリスの腕を掴んで引き寄せた。まだ意識はあるようだが、意識を手放すのも時間の問題だろう。
「いい判断ね。もしもエリスを放さなかったら、どうなっていたか……ね」
何もいない方向を見て言うリシャーナにエリスは疑問に思ったようだったが、いい加減酸素が吸いたくなり右手でリシャーナの服を軽く引っ張った。
それだけで何を言いたいのかを理解したリシャーナは一度頷くと海面へ向かって泳ぎだした。ウミヘビ達はイカの側に止まり続けてついてくることはなかった。
しかしリシャーナは知っている。2人が海面へ出たと同時にイカは海底へと潜って行ったことを。止まっていたウミヘビが教えてくれたのだ。水中にいたウミヘビの言葉はリシャーナに届いていた。
――それなら、あのイカの主人だかも一緒に潜ったのかしら? そのうちあったら一言文句を言ってあげなくちゃね。
そう思いながら、リシャーナは船から投げ渡されたロープに繋がれた浮き輪を受け取った。
*
無事船に戻ったエリスは小さく息を吐いた。濡れた服を着替えなくてはいけないが、怪我もなく戻れたことに安心したのだ。
そして、戻ったエリスを心配する黒麒とは違い、龍はリシャーナを見て固まっていた。エリスを助けに行く前と見た目が異なっていれば驚くのも仕方がないだろう。
「力を使ったのよ」
龍の様子に気がついて答えたリシャーナに、ゆっくりと目を閉じてから龍は口を開いた。
「クウォーターだったもんな」
力を使えば、人間よりもゼグロウミヘビの血が強くなるから鱗で覆われるのだろうとリシャーナの言葉に龍は納得した。
「目も赤いけど、治るのか?」
「目は1時間くらいで戻るわ。鱗は明日には消えるから心配ないわよ」
その言葉に龍は「そうか」と頷いた。手に持っているリシャーナのマフラーとバッグを渡し、エリスの元に向かおうとした時、壁に腕を組み凭れ掛かっているブランがいることに気がついた。
いつからそこにいたのか龍にはわからなかった。しかし、黙って龍達を見ているブランの様子に龍はエリスの元に向かおうとしていた足を止めた。
それによりどうやらブランは、龍に見られていると気がついたようだ。目を合わせると口元に笑みを浮かべて右手を軽く上げると船内へと入って行った。
騒ぎに気がついて様子を見に来たのかもしれないが、龍は何故か騒ぎに気がついて様子を見にきたわけではないと思っていた。
ブランとはこの船に乗っている時だけしか関わることはないだろう。だから気にしても仕方がないのだ。
龍は横を通りエリスの元へと向かうリシャーナの後ろに続いてエリスの元へと歩き出した。
船員からタオルを受け取った黒麒がエリスとリシャーナに手渡す様子を見ながら龍は、エリスとリシャーナが無事戻ったことに漸く安堵したのだった。立っていることしかできなかった。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる