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第七章 日常へ

日常へ5

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 エリス達が家へ近づくと、丁度家の前から馬車が出ようとするところだった。しかし、乗っていた人物がエリス達が帰宅したことに気がつくと、馬車を下りた。下りてきたのはアレースだった。
 そして、馬車に馭者として乗っていたのはエードだった。アレースがエードに何かを告げると、一度頷いてエードは馬車を走らせた。残ったアレースは、家の鍵が開くのを待っているようだ。
 小さく溜め息を吐いたエリスに、黒麒は微笑んで扉に近づいて鍵を開いた。先にエリスが家の中に入り、白美、黒麒、アレースと続いた。龍はツェルンアイと白龍を先に入れて、最後に中に入ると扉を閉めて鍵をかけた。誰も入ってこないとは思うが、一応用心して鍵をかけたのだ。国王が一般住宅にいるのだから、用心しないはずがない。
 龍がリビングに入ると、それぞれがソファーに座っており、黒麒が飲み物をテーブルに並べているところだった。珍しくソファーに座っている悠鳥は、何故かアレースの隣にいた。
 そして、アレースの正面にはエリスが座っており、右隣にはツェルンアイが座っている。どうやら自己紹介をしていたらしく、アレースが身分証明書を用意すると言っているところだった。
「それで、どうしてアレースはエードと一緒に帰らなかったの?」
「合鍵で家に入って、アイスを持って行くのには自分で鍵を開けたのに、帰ってきたら開けてもらうまで待ってるなんてね」
「……本当、何でついさっきのことを知ってるんだ? もしかして、もう1人のお前がどこかにいるとかか?」
「さあね」
 それだけを答えて、リシャーナは黒麒がテーブルに置いたアイスコーヒーを飲んだ。リシャーナが言う通り、アレースはアイスを取るために合鍵で一度エリスの自宅に入った。
 しかし、エリスたちが帰宅したときは合鍵を使わなかった。それは、この家に住んでいる者が鍵を開いた方が良いだろうと思ったからだ。
 そして、アレースがエードと一緒に城へ帰宅しなかったのには理由があった。アレースはエリスの左隣に座っている白龍へと視線を向けた。
「用事があってな。まず一つは、白龍に」
「僕?」
 左隣に座るツェルンアイが黒麒から渡されたジュースが入ったコップを、白龍に渡した時に言われ、白龍は両手でコップを持って首を傾げた。
 アレースが自分に用事があるとは思っていなかったのだろう。それは白龍だけではなく、全員が思っていたことだった。
「そう、白龍に用事だ。雨乞いをしたの、覚えてるか?」
「うん! お歌、歌った」
 白竜が誘拐される前に、龍が頼まれていた雨乞いを村人に許可をもらい白龍にしてもらったのだ。雨乞いが成功したのかはわからないが、龍は『水龍』のようなものを見たのを思い出した。
 あれが本当に『水龍』だったのかはわからないが、もしも『水龍』であれば白龍の雨乞いの歌を聴いていたことになる。アレースが白龍に用事というのだから、雨乞いに関係することだろうとは誰もが思った。
 黒麒が立ったままの龍にもアイスコーヒーの入ったカップを渡すと、カップ片手に白美の隣へと座った。龍も1人だけ立っていたのだが、話が長くなるかもわからないと考えて、アレースの隣に静かに座った。
「白龍が戻ったら話そうと思ってたんだ。雨乞いをしてから3日後に雨が降るようになったらしい。時々連絡がくるが 、作物には害がない量雨がよく降るらしい」
「それって、白龍ちゃんの雨乞いが成功したってことだよね」
「そうね、成功したってことでしょうね」
「良かったの」
「うん!」
 正面に座る悠鳥に言われ、白龍は大きく頷いた。初めて自分の力で、他の人の役にたったことが嬉しかったのだろう。
 雨乞いをした村で、雨が降ってから2週間か3週間すると、ヴェルオウルでも雨が降り始めるとアレースは続けた。そのことから、ヴェルオウルでもそろそろ雨が降るということになる。
 雨が降れば水不足の心配もなくなる。それだけではなく、家庭菜園をしている人ならば、水不足であれば育てているものの心配もしなくてはいけないが、雨が降れば取り合えず安心だろう。
「それと、もう一つ用事があるんだ」
「……なによ、姿勢を正しちゃって」
 真剣な眼差しをして、姿勢を正して言ったアレースに、エリスは首を傾げた。アレースはエリスがいる時に、姿勢を正すことも真剣な眼差しになることもあまりないのだ。
 だから、真剣な眼差しをするアレースに、エリスは何かあったのかと思った。また誰かが、ヴェルリオ王国に攻撃をしようとしているのか。それとも、両親に何かがあったのか
 しかし、アレースが言ったのはエリスが思っていたこととは違うものではあったが、驚くものだった。驚いたのはエリスだけではなく、龍達もだ。
「実は、悠鳥と結婚することになった。子供も生まれる予定だ」
 そう言われて、驚かない者はいないだろう。まだ幼い白龍や、ここに来たばかりのツェルンアイは驚かなくても仕方がない。だが、ここにいる誰よりも多くのことを知っているリシャーナですら驚いている。
「いつ、そんなに進展したのかって聞きたいけれど……私たちが大変なことに首を突っ込んでいる時に何をしてるのよ」
「何って……ナニ?」
「歯を食いしばりなさい……」
 白龍を取り戻すために、スレイの屋敷で戦ったりと大変だったのだ。アレースもガヴィランから何があったのかと話は聞いているだろう。
 だから、どれだけ大変だったのかは知っているはずなのだ。それなのに、アレースは半笑いで答えたのだ。エリスだって、そんなアレースを見たら怒ってしまうだろう。
 ソファーから立ち上がり、右手を握るエリスを見てテーブルの下にいたユキがテーブルとエリスの間に座るが、彼女にエリスを止めることはできない。
 本気で殴るつもりでいるエリスを見て、いくら兄妹といっても現国王を殴るのは駄目だろうと思った龍は、持っていたカップをテーブルに置いて立ち上がった。もしも本当にエリスが殴ったら、アレースに届く前に受け止めようと考えたのだ。
 だが、そんな心配はいらなかったようで 、エリスの右隣に座っていたリシャーナが肩を掴んでソファーに座らせた。エリスも抵抗すること無く大人しく座ったことから、頭の中では殴ったらそれこそ大変なことになるかもしれないと考えていたのかもしれない。
「とても失礼なことを聞きますが、悠鳥さんは子供を生むことができるのですか?」
「たしか『不死鳥』って、炎の中に飛び込んで生まれ変わるんだよね。そう考えると、『不死鳥』が子供を生んだって聞かないし、本にも載ってないよね。……悠姉、子供生めるの?」
「それは妾にもわからぬ。ただ生むのならば子供ではなく卵じゃろう」
「卵?」
 白美が言うように、『不死鳥』は子孫を残さないのだ。自分自身が生まれ変わる。そのため、悠鳥本人もわからなかったのだ。悠鳥も子供を生んだことがなければ、他の『不死鳥』に会って話しをしたこともない。
 それどころか、自分以外の『不死鳥』を見たこともないのだ。ヴェルリオ王国に住む前は、他の『不死鳥』を見たという証言から追いかけてはいたが、一度も会ったことがなかった。追うから逃げるのではないか、それならばどこかに住んで他の『不死鳥』が来るのを待っていればいいと考えたが、まだ一度も見たことも会ったこともない。
 だから、他の『不死鳥』に聞きたくても聞くことができない。そのため、アレースが子供は生まれる予定とは言ったが、本当に生まれるのかもわからない。それに生むのなら子供ではなく、卵と言ったことには理由があった。しかし、龍はそれを知らないために首を傾げた。
「母親が鳥人であれば、卵を生むのじゃ。それを温めて、子供が生まれる。動物の鳥と同じじゃ」
 この世界の鳥人は、全て卵から生まれる。たとえ父親が人間であっても、母親の鳥人であれば卵から生まれるのだ。そして、卵から生まれるのは鳥人であり、人間が生まれる可能性は低いが、生まれないこともない。
 しかし、父親が鳥人で母親が人間の場合は卵を生まないためか、鳥人が生まれることはない。父親が獣人であれば、半々の確率で生まれる。
 何故獣人は生まれるのに、鳥人は生まれないのか。それはわからないが、鳥の足で怪我をするからという理由や、人よりの鳥人とされる半人半鳥が現在存在しないことに関係しているのではないかと言われている。言われているだけで、本当はわからないままだ。
「ただ、人間や獣人は子供が生まれるまでに十月十日じゃが、鳥人は卵を温めてひと月ほどで生まれるんじゃ」
「早いな」
「しかも、一つの卵から複数生まれることがある。卵は少しずつを大きくなるのじゃが、複数が生まれる場合は卵もかなり大きくなるのじゃ」
「もしも卵を生んだとして、温めるなら不死鳥の姿?」
「そうじゃな。アレースには任せられぬし……」
 隣に座るアレースを見上げて言う悠鳥と目が合ったアレースは苦笑いをした。卵がどのくらいの大きさなのかもわからない。それだけではなく、アレースは自分が温めた場合、自分の体重で卵を割ってしまう自信があった。そのため、苦笑いをしたのだ。
「……それじゃあ、悠鳥は城に住むの?」
「暫くはこのままここに住むが、アレースが他国に結婚報告をするじゃろし……もしも卵を生めば、城で温めるつもりじゃ。それでもここには、戻ってくることは多いじゃろ」
「そう。でも、悠鳥の力を借りることはできなくなるわね。……そういえば、そのピアスはどうする? アレースと結婚するのなら契約を破棄した方がいいでしょう? 元々『不死鳥』である悠鳥には必要ではないものなんだし……」
 元々『不死鳥』は魔物とは思われていなかった。そのため契約する必要はなかったのだ。だが、悠鳥はエリス達と一緒にいれば、面白いことがあるのではないかと思い契約したとも言える。
 だから、ピアスを外しても何かが起こることもない。魔物であったのなら、魔物討伐専門組織に討伐される可能性がある。それは、契約している使い魔であってもだ。
 龍は一度も会ったことはないが、魔物討伐専門組織は『ロデオ』以外にもあるのだ。全てが、『ロデオ』のような組織ではない。それでも『不死鳥』である悠鳥を討伐しようという考えはないだろう。たとえ使い魔であっても、魔物であればどのような姿をしていても討伐する彼らであったとしても。
 『不死鳥』は、このヴェルリオ王国の国旗に描かれている鳥だ。いくら魔物であれば何でも討伐するという考えを持っていたとしても、『不死鳥』を討伐する者はいない。この国では、『不死鳥』は守り神だ。もしも討伐してしまったら、死罪は免れない。
「たしかにピアスは必要ないかもしれぬ。しかし、今後離れて行動することも多くなるじゃろう。だから、つけたままでいい。そうすれば、このピアスを通じて、エリスの危機はわかるからの」
 エリスの危機がわかるだけで、遠くにいればどうすることもできない。それは、悠鳥もわかっている。ピアスをつけていれば、エリスの危機以外にも死亡した場合もすぐにわかる。
 何故なら、契約した者が死亡した時にピアスは外れるのだから。エリスは何も言わずに、突然契約を破棄するような者ではない。だから、ピアスが外れた時は死亡以外考えられないのだ。
 もしもすぐに知ることができれば、アレースに伝えることもできる。別に、アレースに伝えるためにピアスをつけたままにしたいわけではない。たとえ離れていても、エリス達の仲間だとピアスをつけていれば思えるからだ。
「そうね。……悠鳥には、アレースを守るって仕事が本格的に待っているから、私の危機がわかっても飛び出さないようにね」
「わかっておる」
「どっちかって言うと、守るのは俺の役目だと思わないか? なあ、龍」
「俺に聞かれてもな……。でも、2人ならお互いを守ることができるだろう」
 そう言いきった龍は、カップを手に取りアイスコーヒーを飲み干した。静かに音を立てずにテーブルにカップを置くと、龍はソファーからゆっくりと立ち上がった。
 ソファーから立ち上がった龍を見て、白龍はコップをテーブルに置くと急いで立ち上がった。どこかへ行くのかと思った白龍は、突然龍がいなくなってしまうと思ったのだ。
 立ち上がった龍に反応したのは白龍だけではない。全員が立ち上がった龍を見たのだ。白龍の左隣に座っていたツェルンアイは、突然立ち上がった白龍が何処かに行くかと思い、左腕を右手で掴んだ。
 不安気な顔をする白龍に気がついて、龍は安心させるために微笑んだ。これから行く場所はあるが、白龍が心配するような場所でもなければ遠い場所でもない。
「メモリア先生のところ?」
「よくわかったな、リシャーナ。俺は覚えていないが、診察料を払いにな。だから、白龍はエリス達と留守番をしていて」
「帰ってくる?」
「帰ってくるよ。そうしたら、本を買いに行こう」
「うん!」
 帰ってくると言われ、白龍は大きく頷いた。龍に「本を買いに行こう」と言われ、白龍はどんな本を買ってもらうかを考えることにした。
 龍が帰宅し、本を買いに行くときはツェルンアイも一緒に連れて行こうと白龍は考えた。この街に来たばかりのため、本を買いに行くというだけでも一緒に行動すれば、少しだけだとしても道を覚えることができるだろうと考えたのだ。
「それなら、俺も用事はすんだから帰るかな。帰ってアイスも食べたいし、帰りは龍に送ってもらってさ」
 ソファーから立ち上がりながら言ったアレースは、隣で立っている龍を見た。まさか自分がアレースを城まで送って行くとは思っていなかったのだろう。龍は驚いて目を見開いていた。
 龍はアレースを迎えに、もう一度エードが馬車に乗って戻ってくるだろうと考えていたのだ。しかし、アレースの様子を見ると迎えに来ることはないようだった。
「……獣型にはならないからな」
「背負って飛んでくれればいい」
 龍が飛んでメモリアのいる病院へ行くことはわかっていたのだろう。アレースは二度、龍の背中を叩いた。そして、悠鳥に微笑むと龍の背中を押して扉へと向かった。
 背中を押されながら、龍は扉を開いた。一度アレースは白龍に向かって手を振った。それを見て、白龍はアレースに手を振り返した。そして2人の姿が見えなくなると、玄関の鍵を開いて外へと出て行く音が聞こえた。
 その音を聞いて、黒麒はソファーから立ち上がった。テーブルに置いてあるカップを片づけるためだ。白美も一緒に片づけを手伝う。
「……とりあえず、おめでとう。アレースがずっと悠鳥に片思いをしているのは知っていたけれど、まさか悠鳥もだったなんて」
「アレースは自分が悠鳥を好きだって気がついていなかったけれど」
「そうなのよね。さすがリシャーナ。よく知ってるわね」
 リシャーナの言葉通り、アレースは自分で悠鳥に恋をしていると気がついていなかった。魔物嫌いということもあり、たとえ『不死鳥』であっても人間以外に恋をしていると認めたくなかったのかもしれない。
 アレースが悠鳥に恋をしてると気がついたのは、スカジとの戦いがあったあとだ。街も落ちつき、龍達を認めた途端に少しずつ悠鳥への思いに気がついて行った。
「悠鳥、国王様、どこ好き?」
 首を傾げて尋ねる白龍の言葉に、全員がそれは聞きたいと悠鳥へ視線を向けた。悠鳥はアレースに恋をしているようには見えなかったからだ。
 それなのに、結婚をするというのだ。それだけではなく、子供を生むかもしれないという。好きでなければ、子供を生もうという考えはないだろう。
「どこと聞かれても……なんと言うか、妾が守ってあげないといけないという思いがあっての。どこかは答えられぬが、笑っていてほしいとは思うぞ」
「笑顔が好きってことかな?」
 黙って話を聞いていたツェルンアイの呟きに、何も言わずに悠鳥は頷いた。アレースの笑顔が好きというのは嘘ではないのだ。でき出来れば、悲しまないで笑っていてほしいと白龍が誘拐されてから何度も思っていた。
 白龍がいなくなってからあまり笑うことがなくなったアレースに、悠鳥は何度も胸を痛めた。自分が笑わせることができればよかったのだが、どうしてもそれができなかった。
 だから、アレースが笑っている時はそばにいて、その笑顔を守りたいと思った。そう思ったと同時に、悠鳥は自分がアレースのことを好きだと気がついた。
 始めはよく自分を見ている、変わった男程度としかアレースを思っていなかった。だが、何度も会っているうちに守りたいと思うようになっていたのだ。女が男を守るというのは少々おかしいかもしれないが、悠鳥はそばで守りたかったのだ。
 それが、少々変わった悠鳥の初恋だった。長く生きているため、それが本当に初恋なのかはわからなかったが、記憶にないのだから初恋だろうと悠鳥は考えたのだ。
「結婚式はする?」
「いや、しないことにした。全てアレースが文章で報告するそうじゃ」
「そう……」
 アレースからの結婚報告を受け、真っ先にウェイバーが直接城へ赴くのだろうと、悠鳥の言葉を聞いてエリスは思ったが口にはしなかった。きっと悠鳥も理解しているだろうと思ったからだ。
 ウェイバーは隣国クロイズ王国の国王でありながら、よくヴェルリオ王国へと来ている。最近は忙しいのか来ることはないが、連絡はよく来るのだ。
 そんな彼がよくする話は、アレースはいつ結婚するのかということと、自分の妻子の話。余程自分の子供のことが好きなようで、同じ話しを毎回するのだ。
 ウェイバーがアレースの結婚相手が悠鳥だと知れば、喜ぶだろう。しかし、それと同時にからかってやろうと思うだろう。『不死鳥』は魔物ではないとしても、魔物嫌いが人間以外と結婚するのだから。
 エリスはアレースが人間以外と結婚しても構わなかった。結婚相手は王族となり、系図に載ることになるのだが、昔も人間以外と結婚をした国王がいたのだ。それもあって、エリスは誰と結婚しようが本人たちがよければいいと考えていた。
「ねえ、エリスちゃん」
 ソファーから立ち上がり、冷たいお茶でも飲もうと考えたエリスに白美が声をかけた。まさか声をかけられると思っていなかったエリスは、キッチンへ向かっていた足を止めて振り返った。
 何も言わずにいると、白美は一度頷いた。声をかけておきながら、言うかどうか悩んでいたようだった。
「あのね、スレイの屋敷でガヴィランにエリスちゃんは『浄化の力』が使えるかもしれないって言われたの」
「……それって、『白龍』が使えるっていう力のこと? それを、私が? 別に使えなくてもいいわ。でも、教えてくれてありがとう。一応、考えとくわ」
 白美の言葉にエリスはそう返すと、キッチンへと向かった。そこには、洗い物を終えた黒麒がいた。手を拭く黒麒の横を通り、冷蔵庫から作り置きのお茶を取り出した。
 そんなエリスに、黒麒は新しいコップを食器棚から取り出して手渡した。白美はただ黙って2人を見ていた。
 リシャーナはソファーから立ち上がると、自分の部屋へ戻るために階段を上った。ユキはテーブルの横を通り、日が当たっている窓辺へと向かい、体を横たえた。
 ソファーに座ったままでいた悠鳥は、同じくソファーに座っている白龍とツェルンアイを見た。白龍は、先ほどのエリスと白美の話を聞いて首を傾げていた。
――『浄化の力』、何? 僕、使えるの?
 使ったこともない力を使えると言われ、それは本当なのかと思ったのだ。もしもそれが使えるのなら、龍のために役立てられるなら、使えるようになりたいと思った。
「あの、ね。聞きたいこと、ある」
「教えられることなら、教えよう。それに、ツェルも読み書きや、お金のことも知らないといけないからの」
「そうだよね。うん、私に知らないことを教えて」
 街で暮らすにはお金のこともそうだが、最低でも読み書きができなくてはいけない。だが、まずは白龍の聞きたいことからだ。悠鳥が白龍の言葉を待っていると気がつき、白龍は『浄化の力』が何なのか、自分は使うことが本当にできるのかを尋ねたのだった。







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