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3.採取

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 リカルドさんに案内され、ギルドを出てすぐに右へと曲がる。私が来た方向とは逆だ。
 どこに食堂があって、服屋があるのかを教えられはしたけれど、ゲームで知っているので、頷いていただけで質問をしたりすることはなかった。
 この街は住宅が多いので、冒険者の多くが利用する場所は限られている。
 街を出て十分ほど土の道を歩いていると森が見えてきた。
 ずっとリカルドさんの背中を見ながら歩いていたため、森に入る前に【鑑定】をすることにした。森にはモンスターがいる。リカルドさんがどのくらいのレベルなのかくらい知ってもいいだろう。
 声に出すと聞かれるかもしれないので心の中で念じる。

【名前】リカルド・ラシュアン
【種族】人族
【年齢】十九歳
【武器】双剣
【レベル】二十八
【個人ランク】C
【パーティランク】C 『青い光』
【依頼記録】成功 二十三/失敗 零

 レベルは、この森のモンスターより少し高いくらいだろう。ルクスの街を拠点にしていればそれくらいのレベルになっていることは納得できる。
 ただ、驚いたことが一つだけあった。それは、すでにパーティを組んでいるということ。
 パーティは続編で組んでいたはずなのに、今現在で組んでいることには驚いた。レベルが高いことにも驚くべきなのかもしれないけれど、ゲームが始まった時すでに冒険者だったので本来はレベルが高くてもおかしいとは思わなかった。
 プレイヤーの経験のために、ゲームでは低いだけだったんだろう。
 もしかすると、すでに未来がゲームとは変わってきているのかもしれない。ゲームでの魔王の娘・アイは、父が勇者に倒されてから残った魔族に戦い方を学んでいた。
 すでにそこから違うため、もしかすると登場人物たちが本来の行動をとっていないのかもしれない。リカルドさんが今冒険者としてここにいるのも、私の行動の所為なのかもしれない。

「さて、ついたよ。ここにヒポテ草が生えているんだ」
「ありがとうございます、リカルドさん」
「そんなに畏まらなくていいよ。僕のことはリカルドって呼んでよ」

 その言葉に静かに頷いた。
 それにしても、リカルドは魔族である私に対して何も思わないのだろうか。仲間だとは言っていたけれど、本当は監視をするために案内をすると言ったのではないのか。

「ほら、これがヒポテ草だよ」

 どうして案内をしてくれたのかと尋ねようと思ったけれど、リカルドが足元にあるヒポテ草を指差し教えてくれた。
 教えてもらわなくても知ってはいたけれど、尋ねるタイミングを失い、お礼を言ってヒポテ草を採った。
 ヒポテ草の見た目はオジギソウにとても似ている。色は赤い。必要数は十本。森の奥に入らずとも、目の届く範囲にヒポテ草は生えている。
 こんなに簡単なのであれば、依頼せずに自分で採取しに来てもいいのではないのかと思うけれど、森にはモンスターが住んでいる。奥に入らないから大丈夫というわけでもない。モンスターは森から出ることもあるのだから。
 リカルドは、モンスターがいないかを警戒しているのか、周りを見ている。私も周りの気配を探りながら、ヒポテ草やツキカゲ草、リム草も採取する。【無限収納インベントリ】に入れて、必要な時に取り出せばいい。
 ツキカゲ草は解熱効果のある薬草で、リム草は体力回復に効果のある薬草だ。冒険者にとってはリム草は必要なもののため、二十本採取した。採りすぎると他の人が困ってしまうので、これ以上は採らなかった。と言っても、まだまだ数はあるので簡単には無くならないだろう。
 この森には、薬草が多く自生している。薬草が育つにはいい環境なのかもしれない。

「アイは、【無限収納インベントリ】が使えるんだね」

 そう言えば、【無限収納インベントリ】って使える人があまりいないんじゃなかったっけ。
 気にせず使っていたけれど、使えることが知られるのはあまり良くないのかもしれない。

「僕も使えるんだ。同じだね」

 無邪気に微笑むその顔は、とても幼く見えた。
 まるで仲間を見つけた子供のように見えて、小さく笑った。

「そう言えば、リカルドは私が怖くないんですか?」
「怖い?」

 今なら聞けると思った。たとえどんなことを言われようと構わない。
 魔族が怖いというのは当たり前なのだから、一番聞きたいことを質問した。

「怖くなよ」
「どうして?」
「だって、僕にはアイは普通の女の子に見えるよ」

 リカルドはそう言うとゆっくりと近づいて、髪をひと房優しく掴んだ。

「綺麗な薄紫の髪に、宝石のような碧眼。ただ角が生えているだけの女の子だよ。僕と何も変わらない。アイは普通の女の子だよ」

 その言葉に、涙が流れた。魔王の娘として生まれてから、一度も言われたことのない言葉。
 魔族だと言わず、普通の女の子だと言ってくれたリカルドの言葉が嬉しくて涙が止まらなかった。
 涙を流す私にリカルドは慌てていたけれど、「ありがとう」と言うと不思議そうな顔をしながらも微笑んでくれた。
 どうしてお礼を言われたのかは分かっていないかもしれないけれど、私にとっては心に響く言葉だった。
 たとえ魔族だからという理由だけで嫌われ続けたとしても、その言葉だけで頑張れる気がした。
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