48 / 61
第五章
第07話 兄
しおりを挟む正式な国王とはどういうことなのか。今、階段の上にいる国王は正式な国王ではなかったというのだろうか。そうだったとしても、国王には簡単になれるものではない。たとえ父親の跡を継ぎ国王となったのだとしても、それは正式なものではなかったということなのだろうか。
「認めない!」
「認めないとかじゃなくて、決定事項なんだ。書いてあるだろ? アフェリア王国前国王と王妃の公式次期国王証明書って。そして、エレニー王国現国王の許可サインもあるだろう?」
アフェリア王国前国王と王妃ということは、現国王ルードの両親だ。生前公式次期国王証明書を残していたのだろう。しかし、どうして彼が次期国王として選ばれたのか。
自分の息子であるルードには国王を任せることができないと判断したからなのだろうか。けれど、その答えは彼からすぐに聞くことができた。
「お前はリオニー領の領主を任されただろ? 国王はこの私。お前の双子の兄である、シロンだ」
「双子の……兄?」
ギルの小さく呟いた声が聞こえた。国王騎士であるギルが知らなかったということは、彼――シロンの存在は隠されていたのだろう。他の国王騎士も驚いているようで、誰も国王に兄弟がいることを知らなかったようだ。
そして、国王はシロンが死んだと思っていた。だから驚いていた。公式次期国王証明書を持ち、震えている国王は睨みつけるようにシロンを見ていた。その目には殺意がこもっているように見えて、私は思わずギルの左腕に抱きついてしまった。
自分に向けられているわけではないけれど、怖かったのだ。今の国王は何を言うのかわからない。その殺意が自分に向けられるかもしれないのだ。
左腕に抱きつく私の頭に、ギルの右手が優しく乗せられた。視線は国王とシロンへと向けられているけれど、大丈夫と言われている気がして少し落ち着くことができた。
「だから、国王である私が許すし認めてあげるよ。ギルバーツ・ノーマント。ロベリア・アルテイナ。君達2人が付き合うことを、国王である私が認めてあげる。何だったらこのまま君達の結婚式でもしちゃう?」
真剣な眼差しで私とギルに言ったのに、シロンは最後には優しく笑いながらそう言った。国王に付き合うことを認められたら、父様だってきっと文句は言えないだろう。
横目で見ると、不満そうな父様がみえたけれど何も言うことはなかった。もしかすると、シロンがいなくなれば文句を言われるかもしれないけれど。
「結婚はまだ。ロベリアの両親に認められない限りは、結婚はしません」
「付き合うことは否定しなかったってことは、付き合いはするの?」
「ええ。俺は、ロベリアが誰よりも好きだから。国王を裏切り国に追われることになってもいいと思えるほどに」
ギルは国王を裏切ったのだ。命令違反をし、結婚式に乗り込んで国王から私を奪ったようなものなのだから。シロンが現れなければ、きっと国王の命令で国を追われることになっていただろう。そして、捕らわれるまでどこまでも追いかけて来ていただろう。
その覚悟をしてまで私の元に来たのだ。私もギルに抱きついたときに覚悟は決めた。でも、この様子だとその心配はいらないようだ。
「さて、ルード」
再びシロンの視線は階段の上にいる国王へと向けられた。国王はいつの間にか両膝をついて座っていた。その体からは完全に力が抜けているように見えた。
シロンはゆっくりと階段を上り、国王の前に辿りつくとしゃがみ込んだ。
「今頃、エレニー王国から馬車が来てるはずだ。それに乗ってエレニー王国へ行け」
それだけ言うと、国王――ルードはゆっくりと立ち上がり階段を下りた。すぐにスワンさんが近づいてきたが、それは馬車に向かわないかもしれないという考えから見張りとしてついて行くためだろう。
ゆっくりとした足取りで『謁見の間』を出て行くその背中を、誰もが何も言わずに見ていた。
「さてと。それじゃあ、少し長い話をしようか」
そう言うとシロンは階段に座り、話しはじめた。それは、先ほどルードとも話していた事故のことだった。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません
黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。
でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。
知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。
学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。
いったい、何を考えているの?!
仕方ない。現実を見せてあげましょう。
と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。
「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」
突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。
普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。
※わりと見切り発車です。すみません。
※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)
あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔
しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。
彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。
そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。
なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。
その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる