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第四章
第10話 決定事項
しおりを挟む笑みを浮かべたまま話した国王は、ギルの右の翼は自室に飾っていると続けた。忠誠心を確かめるために右の翼を切り落とすなんて、正直おかしいと思った。そんなことで、忠誠心を本当に確かめることができるのか。
鳥人族は翼が生えているけれど、鳥のように空を飛ぶことはできない。翼が邪魔だと言っている者も街にはいるくらいなのだ。もしかすると、ギルにもそういう考えがあったのかもしれない。
けれど、ギルは忠誠心を見せたのだろうということがわかる。翼を切り落とすことで忠誠心を確かめられるのなら、大人しく切り落とされただろう。
「ギルにとって私の言葉は絶対だから、私の言葉に反対することはないんだよ」
それはどういうことなのか。もしかすると、という思いはあるのだけれど国王騎士という職業だ。国王に忠誠を誓い、国王の言うことに従う。そういうことなのかもしれない。
国王の言うことには、否定することはない。ただ従うだけなのかもしれない。それに、ギルは忠誠を誓い翼を切り落とされた。他の国王騎士よりも忠誠心が強いのかもしれない。
「でも、従えないと思うことだってあるでしょう?」
「ない」
力強く言った言葉に私だけではなく、スワンさんも驚いたようだ。彼女はギルの右の翼が何故ないのかを知らなかったようで、国王の話しを聞いてから驚きで何も言えずにいた。
驚きながらも何かを考えているように見えたスワンさんは、力強く否定した国王の言葉にゆっくりと息を吐いて目を閉じた。また何かを考えているようだけれど、私にはわからない。
「どうして、そう言えるんですか?」
「ギルは、私の言葉に従わなかったことが一度もない」
記憶違いではないのか。絶対に従う者がいるのか。もしもいるのなら、何か弱みでも握られているのではないのか。
この国王のことだから、弱みを握っていてもおかしくないように思える。
「それと、私は君の本当の両親を知っているよ」
どうしてそのことを知っているのか。国王だから知っている可能性もあるけれど、私の両親を知っているのなら、私のことをずっと前から知っていたのではないだろうか。
「君は責任をとらなくてはいけない」
「責任?」
「そう。君の父親が私の両親を殺した責任」
馭者をしていたようだから、もしかすると私のことを知っていいたのかもしれない。それなら当時血縁者だと知っていて見逃したのだろうか。
でもどうして見逃したのか。子供だからなのか。それに、私のことを知っているのなら母様も血縁者だと知っていたのではないのか。そのことを問いかけたとしても、答えてはくれないだろうことはわかる。
「さて、ギルが私の言葉に従うというのは……今からわかるよ」
「え?」
どういう意味なのか。問い返そうと思ったとき、私の後ろにある扉がノックされた。
何も言うことなく国王はスワンさんを見た。それは、スワンさんに扉を開けろという無言の指示だったのだろう。スワンさんはゆっくりと頷くと扉へと向かって行った。
扉の前に誰がいるのかが、話しの流れからわかっていた。きっと、国王は呼んでいたのだろう。この時間に彼がこの部屋に訪れるようにと。
スワンさんが扉を開くと、そこにいたのはギルだった。ギルは私を見て驚いているようだった。どうしてここにいるのかと言いたげな顔をして私を見ていたが、部屋へと入ると私の横に並んだ。。
扉の閉まる音が聞こえ、スワンさんが国王の横に並んだ。それを確認すると、国王は笑みを浮かべてギルに言った。
「ギル。私は明日、ロベリアさんと結婚することになったよ」
「そ、れは……。おめでとうございます」
ギルの言葉を聞いて、私は何も言うことはできなかった。どうしてと聞くのかと思っていた。けれど、それもない。
国王の言葉だから、私に本当に結婚するのかと聞くこともなかったのかもしれない。きっとこれが、ギルが国王の言葉に従うということなのかもしれない。
ギルが国王に従う理由が他にもあるのかもしれない。忠誠心を示すために、右の翼を切り落としたけれど、それ以外にも従っている理由があるのかもしれない。
だから、ギルは私に尋ねることをしなかったのかもしれない。
それから何を話したのかは覚えていない。けれど私が明日、国王と結婚するのは決定事項となったようだ。家族のため。そして、ギルがこの国から追い出されないために私は結婚するのだ。
スワンさんに客室へと案内してもらったことは朧気ながらに覚えている。ベッドに座り何も反応をしない私に、スワンさんは「大丈夫。ロベリア様、貴方にとって明日はとてもいい日になりますから」と言って部屋を出て行った。
私にとって明日がいい日になるはずがない。国王と結婚したくないのに、しなくてはいけないのだから。スワンさんは、国王と結婚するからいい日になると言ったのだろうか。
今の私には、どのような考えでそう言ったのかがわからなかった。結局、ギルからあのときの返答を聞くことはできないのだろう。
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