33 / 61
第四章
第04話 私の両親
しおりを挟む母様の言葉に私は驚いた。頭が理解をすることを拒んでいる気がしていた。
母様が言ったのは「貴方の両親は私達じゃない」だったのだから、仕方がないと言える。けれど、本当に私の両親が2人じゃないのならどこにいるというのか。
母様は静かに、私の本当の両親はべつにいると言った。しかし、その顔は悲しみに満ちていた。だから、もういないのだろうと思った。
私は隣国のエレニー王国で産まれたのだという。父親の仕事が休みだったため、予定日まで余裕もあるからと出かけたのだという。
しかし、そこで陣痛がきてしまい、そのままエレニー王国の病院で出産することになったのだ。
無事、私は生まれることができた。けれど、母親は間もなく亡くなったのだという。元々、体が弱かったこともあり亡くなってしまったのだ。
悲しそうに話す母親は、懐からいつも持ち歩いている手帳を取り出し、そこから1枚の写真を私に手渡した。
そこに写っていたのは、赤ん坊を抱き抱え嬉しそうに微笑む女性と、隣に立つ男性だった。言われなくてもわかった。私の本当の両親だ。
それと同時に父様が私を嫌っている理由もわかってしまった。女性は人族ではなく、鳥人族だったのだ。見た目は人族のようだが、僅かに背中から生えている青い翼が見えていた。
私は、人族と鳥人族の子供なのだ。だから父様は、鳥人族の血が混ざっている私が嫌いなのだ。
「とても綺麗なオオルリの鳥人族の女性だったのよ」
写真を見つめる私に向かって言う母親に、何も言わずに頷いた。青い翼に髪。微笑んでいるため、瞳の色はわからないけれど、とても幸せそうに見える。
きっと、これが最初で最後の家族写真なのだろう。このあとに、母親は亡くなったのだ。
「貴方の父親はね、私の弟なの。だから、私がロベリアを預かったの」
母親が亡くなり、葬儀が終わったあとに私は病院から退院して父親と2人で暮らしていたのだという。
けれど、1年ほどして貯金が底をつきはじめて父親は仕事に戻らなくてはいけなかった。けれど、まだ赤ん坊の私1人を家に置いてはいけなかった。
だから、母様に預かってほしいと頼んだのだという。父様は鳥人族と結婚をした者とも、鳥人族の血が混ざっている子供とも関わりたくなくて断ったのだという。
けれど、一緒に住むことができる金額が貯まるまで、私が10歳になるまでと父様が条件をつけたのだという。たとえ、嫌いな種族と結婚し、その血が混ざっている子供であろうとも少しは面倒を見ようと思ったのかもしれない。
父親は毎月私にかかるであろう費用を払おうとしていたという。それでも父様は受け取らず、貯めておけと言って受け取らなかった。
その話を聞いていると、他の種族を今ほど嫌っている様子はない気がする。嫌いになるきっかけがあったのだろう。
そして、母様はそのきっかけを話はじめた。
私の父親は、国王専属の馭者をしていたのだという。だから、1年休みをもらったあとも仕事に復帰することができたのだという。
そして、今から10年前。私が当時7歳のころ。父親は亡くなった。
前日の大雨により、地面が崩れやすくなっていたようで、馬車が崖の下へと落下してしまったのだ。その道は、馬車1台がなんとか通れるほど狭く現在は使われていない危険な道だった。
当時は普通に使われていた道であり、今まで事故などはなかった。しかし、その事故により私の本当の父親だけではなく、当時の国王も亡くなってしまったのだ。息子であるルード国王は偶然一緒に馬車に乗ることもなく、城で留守番をしていたという。いつもはどこに行くのにも一緒についていっていたのに、その日だけは行かなかったのだ。
現在の国王である、ルード国王が「この者の血縁者に責任をとってもらう。もしもいないのであれば、この者の財産を全て押収することで全てを終わらせよう」と言ったのだ。
私は知らないが、母様は姉だと名乗りでようとしたのだという。しかしそんなことをしたら、アルテイナ家がどうなると父様に怒られたのだ。
だから、父親の財産全てを押収という形で終わったのだという。私は帰る家もなく、父様と母様が本当の両親だと思いながら暮らしていたのだ。
姉様達は私が来た理由もはじめから知っていた。だが、キースは当たり前だけれど知らないのだ。今後も教えるつもりはないと母様は呟いた。
私の両親の写真は、私を預かったときに一緒に渡されたものだという。もしも私が両親のことを知りたいと言ったら見せてほしいと頼まれたのだという。けれど、私はそんなことを言うこともなかったのだ。
父様は、「鳥人族なんかと関わるからこんなことになったんだ」とさらに他の種族を嫌うようになったという。
もしも私が、その者の子供だと知られたらアルテイナ家も責任をとらなくてはいけなくなる。だから、私はアルテイナ家の子供なのだと嘘をついて育てたのだという。
たとえアルテイナ家の子供であろうとも、鳥人族の血が混ざっている。だから父様は私が嫌いなのだ。それはどうすることもできない。
「ありがとう、話してくれて。……でも、私の母親は母様で、父親は父様だよね」
「ええ。私はそう思っているわ」
笑顔を向けてそう言った母様に私は安心した。父様はそう思っていないだろうけれど、母様にとって私は本当の子供のようなものなのだ。
――けれど、一つ気になるわね。
それは、ルード国王のこと。いつも一緒についていっていたのに、どうして行かなかったのか。
本当に偶然なのか。それとも、違うのか。
そう思っても、ここに答えを出すことのできる者は誰もいないのだ。だから私は、その事については何も言うことはしなかった。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

悪役令息の婚約者になりまして
どくりんご
恋愛
婚約者に出逢って一秒。
前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。
その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。
彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。
この思い、どうすれば良いの?

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる