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第四章
第03話 嫌いな理由
しおりを挟む母様が話したのは、この街がまだ村だったころの昔の話。人族しか住んでおらず、全員が家族のように仲がよかったという。
結婚前に母様が、父様から聞いていたと言う。結婚してからは、寝室にある日記を読んでどうして嫌いなのかを詳しく知ることができたという。
その日記は10冊以上もあり、歴代のアルテイナ家当主が記した日記。嫌いな原因は、村だったころの当主が記した日記にあったのだ。
当時は村に100人程度しかおらず、全員が協力をして過ごしていた。その中でも、貿易商をしていた当時のアルテイナ当主が様々な物を村人に分けていたという。
村を開拓し、少しずつ大きくしていっていた。しかし、ある日獣人族と鳥人族の集団が現れたのだ。その日の日記には、『今までで一番最悪な日』と書いてあったという。
その日は、いつもとかわりない日だったという。争い事もなく、お昼は村人全員で一緒にとっていた。
そこにその集団が現れたのだ。村人の中には、村から出たことのない者が多く、獣人族と鳥人族をはじめて見た者が多かった。
どうしてこの村に来たのか。旅の途中で、立ち寄ったわけではないとわかっていたのだ。何故なら、その村は山の中にあった。
旅人が立ち寄るような場所でもなく、目的がない限りは誰も来ない場所。村の先に街があるわけでもないのだから。
わざわざこの村まで何しに来たのかと誰もが、彼らを黙ってみていたという。そして、リーダーであろう鳥人族の男が叫んだのだ。
「今からこの村は我々のものだ! 弱い人族は出ていけ!」
突然の言葉に反発する者は多くいた。しかし、反発した者は彼らの持つ刀で斬られたという。私は顔をしかめて話を聞いていた。
村人は着のみ着のまま村から逃げだした。しかし、当時のアルテイナ家当主だけは違った。
一緒に逃げようとしたが、腕を捕まれてできなかったのだ。他にも数人が同じように腕を捕まれていた。
腕を捕まれている者達は全員、この村から出て仕事をしていた者だった。だから、彼らは顔を知っていたのだろう。
「貴様らはここに残り、今後もこの村のために貢献しろ」
断ることは許されなかった。日記に記された言葉を思い出しながら、母様は呟くように言った。
それから、何処からか連れてこられた奴隷の人族を使い、村は大きくなった。当時のアルテイナ家当主の子供も大きくなっており、仕事と日記が引き継がれていた。
村が大きくなるにつれ、奴隷は数を減らしては増えてを繰り返していた。決して獣人族と鳥人族は手伝うことはせずに、奴隷に指示をして、鞭打つだけだったのだ。
当主が亡くなり、子供が当主となり、遅い結婚をしたとき村は街と呼べるほど大きくなっていた。何処からかやって来た獣人族と鳥人族が多く住むようになり、木々を倒して新しい道を作った。
そうして、200年ほどたつと街には城が建てられた。初代国王は、「獣人族と鳥人族の力で作ったこの国を、何処の国よりも豊かにしていこう」と言ったのだという。
そのときのアルテイナ家当主は、ただでさえ奴隷である人族に対して指示や鞭を打つことしかしていない彼らが嫌いだった。
国王もその中の1人だった。それなのに、獣人族と鳥人族の力で作ったと言ったのだ。
どの口が言うのかと、書かれた日記には、言葉にしたくないほどの怨みごとが書かれていたという。
そうして、アルテイナ家当主は外面は獣人族にも鳥人族にもよくしていたが、本心では嫌うようになったのだという。何もしていないのに、自分達の手柄にした彼ら嫌い。そのときに関わった者に関係ないとしても、人族以外の種族をアルテイナ家当主は嫌うようになったのだ。
それは父様も同じ。その日記を見て、本当の過去を知り嫌いになったのだろう。もしかすると、彼らは常に嘘をついているとも思っているのかもしれない。
たしかに、現在学校の授業でこの街がここまで発展したのは、元々暮らしていた獣人族と鳥人族で大きくしたからと教えられる。人族は何もせずに、突然住み着くようになったと教科書に書かれているのだ。
しかし、アルテイナ家当主の日記が本当だとしたら、全て嘘になる。突然住み着くいたのは彼らだ。しかも、村を奪ってまで。自分達の力では何もせずに街を大きくしたのだ。
私が父様と仲がよくて、今の話を聞いていたらもしかすると同じように人族以外を嫌いになっていたかもしれない。
けれど、今の私は違う。過去を改竄するのはよくないこと。しかし、人族以外を嫌う理由にもならない。昔のことなのだ。私か産まれるずっと昔。
だから私は嫌いにならない。それよりも、歩み寄ることができる。このままでは、この国はあまりよくならないだろう。
ただでさえ、獣人族と鳥人族は人族が嫌いという者も多いのだから。父様が日記の内容を信じたように、彼らだって教えられたことを信じているのだ。
私1人の力では難しいし、時間がかかる。それでも、少しずつ歩み寄り仲よくなることができると思う。私は授業で教えられたことなんかどうでもよかったから。
「さて、ロベリア。あの人が他種族を嫌っている理由は話したわ。次は、貴方を嫌っている理由。覚悟はできた?」
「ええ。どんな理由でも、受け入れる覚悟ができたわ」
「そう。なら、話すわね」
そう言って母様は、どうして父様が私を嫌っているのかを話はじめた。覚悟をしたとしても、その内容を聞いて私はただ驚くことしかできなかった。
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