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第四章
第02話 姿を見ない
しおりを挟む母様につれられて部屋に入った私はベッドに座っていた。何も言うことなく、母様は私が何かを話すまで待っていた。私が尋ねることもせずに、話すと混乱してしまうと考えたのかもしれない。
部屋に入って10分ほどたってから、漸く口を開くことができた。少し落ち着いたのだ。国王に会うのは正直嫌だけれど、会わなくてはいけないのだから。
「ねえ、キースを最近見ていないのだけれど……何処に行ったの?」
本当はべつのことを聞きたかった。けれど、口にだした言葉はキースのこと。
私の部屋でキースを追い出してから姿を見ていない。最初は不貞腐れて私に会いたくないのだろうと思っていたから気にすることはなかった。
けれど、何日も姿を見ていないと心配にはなる。それに、キースが家にいるとは思えなかった。いつもなら、キースが部屋にいればわずかに物音がしている。しかし、まったく物音がしなかった。
姿を見ないことといい、家にいない可能性が高かった。喧嘩をしたとしても、私の弟にはかわりない。心配だった。だから先に聞いたのだ。
「学校の寮よ」
「寮? 父様が寮に入れることに反対してたのに今さら?」
驚いて口にしたけれど、寮に入れられた理由がなんとなくわかってしまった。
キースを私から離せば、あの言動が無くなるのではないかと考えたのだろう。もしも寮に入ったことで私と結婚するなどと言わなくなればいい。
けれど、そんなことはないだろう。キースのあの言動が無くなるのは、私が結婚したときだと思う。
結婚すらキースは認めずに、もしかすると私の結婚相手を刺してしまうかもしれない。キースならありえるだろう。
まず、私が結婚するのかはわからないけれど。できれば、結婚相手はギルがいい。そう思うくらいはいいだろう。
「キースのあれを無くすためだとしたら、絶対無理だと思うけれど」
「あの人は、ロベリアからキースを離せばいいと思っているのよ」
右手を自分の右頬に当てて小さく息を吐いた。母様も私と同じことを思っていたようだ。
キースのあれが寮に入ったことで無くなるのなら、私は大喜びするだろう。少しは、父様の態度が変わるかもしれないのだから。
――きっと、父様の態度は永遠に変わることはないだろうけど。
そう思って、私は漸く母様に聞きたかったことを尋ねることにした。
「母様。どうして父様は、私のことが嫌いなの? それに、どうして人族以外を嫌っているの? 人族と同じでしょ?」
見た目が違うだけで、いいことをする者も、悪いことをする者もいる。人族だろうと、鳥人族だろうと、獣人族だろうと同じ。
だからどうして父様が人族以外を嫌っているのかがわからなかった。もしかすると私には理解することができないのかもしれない。
そう思っていると、私の言葉に少し考えていた様子の母様は真剣な眼差しをして私の目を真っ直ぐ見つめた。
「そうね。貴方には、もう話してもいいわね。これから話すのは、姉様達も知っているけれど、キースは知らない話。それと……ロベリア、貴方はこれから話すことがどのような内容でも受け入れることができる?」
「え?」
どうしてそんなことを言うのかがわからなかった。まだ内容を聞いてもいないのに、突然そんなことを言われたら困ってしまう。
その言葉は姉様達にも言ったのだろうか。それとも、私だけに言ったのか。
「……あの人がどうして人族以外を嫌っているのかを先に話すわね。その間に内容を受け入れる覚悟ができたら、どうして貴方を嫌っているのかを話してあげる」
私はその言葉に頷いた。きっと覚悟をしないといけない内容なのだろう。
私は父様に嫌われるようなことをした記憶はない。けれど、理由があるのだ。それを知りたい。
どのような内容でも受け入れなくてはいけない。話はじめた母様の話を聞きながら、私は嫌われている理由を受け入れられるだろうかと思ったが、このときすでに覚悟を決めていたのだ。
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