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第三章
第05話 両親
しおりを挟む15年前。当時、俺は10歳だった。学校から帰宅すると、今日はいるはずの両親が何処にもいなかった。買い物に行ったのだろう。夕方になれば帰って来るだろう。そう思っていたのに、両親は返ってくることはなかった。
外が真っ暗になって、漸く捨てられたのだと気がついた。けれど、驚くことはなかった。何故なら、数年前から俺は嫌われていたからだ。
以前母さんに「はじめて見たとき、シロハラクイナかと思ったのに」と言われたのだ。成長するにつれて違うのだとわかり、自分達の先祖を辿ってもシロハラクイナはいてもハシボソガラスはいなかった。
鳥人族と獣人族は両親とは違う種類の子供が生まれることが多い。それは、自分達の先祖にいた種類が突然現れたりするからだ。両親から3代遡った種までは生れることが多い。
俺の母さんは手が翼のイヌワシの鳥人族。父親は背中から翼の生えたハクトウワシの鳥人族。父親さんの先祖にシロハラクイナの鳥人族がおり、母さんの先祖には獣人族もいた。低い確率ではあるが、獣人族も産まれる可能性があったのだ。
出かけ先で突然陣痛がはじまったということで、俺が産まれた病院は小さな病院だった。近くに他の病院がなかったのだ。だから、そこで産むしかなかったのだという。
産まれたとき、自分の子供の顔すら両親は見れなかったと教えてくれたことがある。まだ、俺のことをシロハラクイナだと信じていたころだ。まさか、カラスだとは思わないだろう。
カラスは黒いため、嫌っている者も多い。コクマルガラスのように黒一色ではなければ、嫌う者はいないが、黒というだけで嫌がられるのだ。それは両親も同じだった。
「黒い体に青い瞳。貴方は私達の子供なんかじゃないわ」
そう言われたのは8歳のころ。成長しても真っ黒な俺に、いろいろと調べた両親は気がつけば俺を視界に入れないようにしていた。
ご飯の用意はしてくれるし、学校にも行かせてくれる。けれど、会話らしいものはしない。期待されてもいない。
俺は、生活ができているならそれでいいと思っていた。学校に行っても、黒い俺に関わろうとする者はいないけれど、それでもよかった。
「どこかに、俺達の子供がいると思うんだ」
「そうね、探しに行きましょうよ!」
そんな会話を部屋にいるときに聞くことが多くなった。それを実行したのが、帰ってこなかったあの日なのだろう。
自分の子供だと思っている間はとても優しかった。それに、血の繋がりがないのだとしても俺にとっては今も両親だ。
本当の両親が誰なのかは気になる。両親が自分達の子供を探しに行ったように、本当の両親を探しに行きたかった。けれど、子供の力では不可能だ。それがわかっていたから、1人で暮らしていた。
3日もたてば近所に住む獣人のおばあさんが、両親が帰宅していないことに気がついた。俺はそのおばあさんとよく話をしていたため、両親とあまり仲がよくないことも知っていた。だから気にかけてくれていたのだろう。
それからおばあさんには毎日晩御飯に呼ばれた。ときどき手伝い、料理の仕方を教えてもらっていた。けれどそれから半年後。おばあさんは亡くなってしまった。
朝訪ねてきた娘が発見したのだという。近所の者は俺とおばあさんの仲がいいことは知っていた。きっとそれを聞いたのだろう。おばあさんの葬儀に出ようとした俺に娘は言った。
「死神! あんたの所為でお母さんは死んだのよ! 二度と関わらないで!」
老衰死だときいたが、娘にとっては俺が死神に見えたようだ。それもそうだろう。真っ黒な俺は、まるで死神のようだ。
結局葬儀にも出ることはなかった。けれど、おばあさんに料理の仕方を教えてもらっていたため子供ながらに料理はできた。
お金も、両親が置いて行っていたため節約しながら使っていた。でも、学校にお金を払いほとんどなくなってしまっていた。
だから12歳で学校を卒業することになったとき、俺は国王騎士の学校に入ろうと考えた。国王騎士の学校に入学すれば、学費は払わなくていいし、学校に通いながら給料を貰えるのだから。けれど、学校に入るには試験を受けなくてはいけない。しかも、12歳から入学できる人数はとても少ない。
国王騎士の学校に入学しようと考えたときから俺は猛勉強をした。友人はいないため、学校が終わればすぐに帰宅して勉強をした。
そのおかげか、俺は無事入学することができた。ほとんどお金が底を尽きていたが、お昼は無料で食べることができたため給料を貰う日まで問題なく過ごすことができた。
ただ、同じように12歳で入学した者達とは仲よくすることができなかった。どちらかというと、先輩達のほうが俺を気にすることなく接してくれた。
それは、正式に国王騎士となった今でも同じだ。同い年の多くはべつの国に行ってしまったため、結局はつき合いがない。
国王騎士の学校に入学してから、両親はどうしたのかと気になりはじめた。けれど、調べることはできない。それなら、本当の両親を探すのもいいかもしれないと思いながらも、結局正式に国王騎士となった今まで探すことをしていないのだ。
20歳で正式に国王騎士になったのだから、探そうと思えば探すことも可能だった。けれど、両親は俺に関わりたくはないだろうから探すことをしない。その代り、本当の両親を知りたいという思いは強くなっていた。
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