上 下
23 / 61
第三章

第05話 両親

しおりを挟む





 15年前。当時、俺は10歳だった。学校から帰宅すると、今日はいるはずの両親が何処にもいなかった。買い物に行ったのだろう。夕方になれば帰って来るだろう。そう思っていたのに、両親は返ってくることはなかった。
 外が真っ暗になって、漸く捨てられたのだと気がついた。けれど、驚くことはなかった。何故なら、数年前から俺は嫌われていたからだ。
 以前母さんに「はじめて見たとき、シロハラクイナかと思ったのに」と言われたのだ。成長するにつれて違うのだとわかり、自分達の先祖を辿ってもシロハラクイナはいてもハシボソガラスはいなかった。
 鳥人族と獣人族は両親とは違う種類の子供が生まれることが多い。それは、自分達の先祖にいた種類が突然現れたりするからだ。両親から3代遡った種までは生れることが多い。
 俺の母さんは手が翼のイヌワシの鳥人族。父親は背中から翼の生えたハクトウワシの鳥人族。父親さんの先祖にシロハラクイナの鳥人族がおり、母さんの先祖には獣人族もいた。低い確率ではあるが、獣人族も産まれる可能性があったのだ。
 出かけ先で突然陣痛がはじまったということで、俺が産まれた病院は小さな病院だった。近くに他の病院がなかったのだ。だから、そこで産むしかなかったのだという。
 産まれたとき、自分の子供の顔すら両親は見れなかったと教えてくれたことがある。まだ、俺のことをシロハラクイナだと信じていたころだ。まさか、カラスだとは思わないだろう。
 カラスは黒いため、嫌っている者も多い。コクマルガラスのように黒一色ではなければ、嫌う者はいないが、黒というだけで嫌がられるのだ。それは両親も同じだった。
「黒い体に青い瞳。貴方は私達の子供なんかじゃないわ」
 そう言われたのは8歳のころ。成長しても真っ黒な俺に、いろいろと調べた両親は気がつけば俺を視界に入れないようにしていた。
 ご飯の用意はしてくれるし、学校にも行かせてくれる。けれど、会話らしいものはしない。期待されてもいない。
 俺は、生活ができているならそれでいいと思っていた。学校に行っても、黒い俺に関わろうとする者はいないけれど、それでもよかった。
「どこかに、俺達の子供がいると思うんだ」
「そうね、探しに行きましょうよ!」
 そんな会話を部屋にいるときに聞くことが多くなった。それを実行したのが、帰ってこなかったあの日なのだろう。
 自分の子供だと思っている間はとても優しかった。それに、血の繋がりがないのだとしても俺にとっては今も両親だ。
 本当の両親が誰なのかは気になる。両親が自分達の子供を探しに行ったように、本当の両親を探しに行きたかった。けれど、子供の力では不可能だ。それがわかっていたから、1人で暮らしていた。
 3日もたてば近所に住む獣人のおばあさんが、両親が帰宅していないことに気がついた。俺はそのおばあさんとよく話をしていたため、両親とあまり仲がよくないことも知っていた。だから気にかけてくれていたのだろう。
 それからおばあさんには毎日晩御飯に呼ばれた。ときどき手伝い、料理の仕方を教えてもらっていた。けれどそれから半年後。おばあさんは亡くなってしまった。
 朝訪ねてきた娘が発見したのだという。近所の者は俺とおばあさんの仲がいいことは知っていた。きっとそれを聞いたのだろう。おばあさんの葬儀に出ようとした俺に娘は言った。
「死神! あんたの所為でお母さんは死んだのよ! 二度と関わらないで!」
 老衰死だときいたが、娘にとっては俺が死神に見えたようだ。それもそうだろう。真っ黒な俺は、まるで死神のようだ。
 結局葬儀にも出ることはなかった。けれど、おばあさんに料理の仕方を教えてもらっていたため子供ながらに料理はできた。
 お金も、両親が置いて行っていたため節約しながら使っていた。でも、学校にお金を払いほとんどなくなってしまっていた。
 だから12歳で学校を卒業することになったとき、俺は国王騎士の学校に入ろうと考えた。国王騎士の学校に入学すれば、学費は払わなくていいし、学校に通いながら給料を貰えるのだから。けれど、学校に入るには試験を受けなくてはいけない。しかも、12歳から入学できる人数はとても少ない。
 国王騎士の学校に入学しようと考えたときから俺は猛勉強をした。友人はいないため、学校が終わればすぐに帰宅して勉強をした。
 そのおかげか、俺は無事入学することができた。ほとんどお金が底を尽きていたが、お昼は無料で食べることができたため給料を貰う日まで問題なく過ごすことができた。
 ただ、同じように12歳で入学した者達とは仲よくすることができなかった。どちらかというと、先輩達のほうが俺を気にすることなく接してくれた。
 それは、正式に国王騎士となった今でも同じだ。同い年の多くはべつの国に行ってしまったため、結局はつき合いがない。
 国王騎士の学校に入学してから、両親はどうしたのかと気になりはじめた。けれど、調べることはできない。それなら、本当の両親を探すのもいいかもしれないと思いながらも、結局正式に国王騎士となった今まで探すことをしていないのだ。
 20歳で正式に国王騎士になったのだから、探そうと思えば探すことも可能だった。けれど、両親は俺に関わりたくはないだろうから探すことをしない。その代り、本当の両親を知りたいという思いは強くなっていた。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

ヤンデレ悪役令嬢は僕の婚約者です。少しも病んでないけれど。

霜月零
恋愛
「うげっ?!」  第6王子たる僕は、ミーヤ=ダーネスト公爵令嬢を見た瞬間、王子らしからぬ悲鳴を上げてしまいました。  だって、彼女は、ヤンデレ悪役令嬢なんです!  どうして思いだしたのが僕のほうなんでしょう。  普通、こうゆう時に前世を思い出すのは、悪役令嬢ではないのですか?  でも僕が思い出してしまったからには、全力で逃げます。  だって、僕、ヤンデレ悪役令嬢に将来刺されるルペストリス王子なんです。  逃げないと、死んじゃいます。  でも……。    ミーヤ公爵令嬢、とっても、かわいくないですか?  これは、ヤンデレ悪役令嬢から逃げきるつもりで、いつの間にかでれでれになってしまった僕のお話です。 ※完結まで執筆済み。連日更新となります。 他サイトでも公開中です。

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】

倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。  時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから! 再投稿です。ご迷惑おかけします。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

処理中です...