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第二章
第09話 お弁当箱
しおりを挟む約束の広場。
あの日別れた場所の側には、2人で腰かけることができるベンチがある。まだギルバーツさんが来ていないことを確認して、私はベンチに座ることにした。
国王騎士だから、ギルバーツさんは忙しいのだろう。必ず決まった時間に休憩がとれるわけでもないだろう。それに、休憩時間がなくなってしまうことのあるかもしれない。
だから、もしかすると来ないということもある。けれど、それは仕方のないこと。そう考えて、歩く者達に視線を向けた。
獣人族、鳥人族しか歩いていないため、人族の私へ視線を向ける者が多い。中には私を知って見ている者もいるのだろうけれど、街に住む全員が私を知っているわけではないので人族が珍しくて見ている者もいる。
人族が全くいないというわけではないのだけれど、あまりいないため珍しいのだ。それに、人族は年々少数ずつ街から出て行っている。それがどうしてかなんて、何となくだけどわかる。
まるで、珍獣を見るかのような目をして見られるのが嫌なのだ。だから、人族も多く暮らしている街に引っ越してしまうのだ。見られるのは仕方ないとは思うけれど、それを耐えられるか耐えられないかはそれぞれなのだ。
――私は慣れてしまったから、気にしてないけれど。
そう思いながら見ていると、視界の端に待っていたギルバーツさんの姿が映った。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「いいえ、大丈夫ですよ。気にしないでください」
謝り、隣に座るギルバーツさんは急いで来てくれたようだ。息を切らしているため、急いで来てくれただけでも私は満足だ。べつに謝られなくても構わなかった。
「急いできてくれただけで充分です。それに、忙しいんですよね」
「じつは、仕事が終わらなくて……」
「それじゃあ、持って行って食べてください」
「え?」
私の言葉にギルバーツさんは驚いたようだった。ギルバーツさんの言葉に私は、まだ仕事が終わっていないということがわかってしまったのだ。
仕事がどんなことなのかはわからないけれど、私と約束をしていたから仕事を中断してまで来てくれたのだ。約束を守ってくれた。
忙しかったのなら、約束をすっぽかしてもよかったのだ。来ないのなら、忙しいのだろうと思うのだから気にしなくてもいい。けれど、私もきっと忙しくても約束をしているのだから来るだろう。ギルバーツさんもそうだったのだ。
仕事をしながらサンドイッチを食べることができるのかはわからない。けれど、昼食を抜いては仕事に集中することができないだろう。
「これを食べながらできるのかはわからないので、休憩室で食べて仕事をしてください」
バッグからお弁当箱を取り出し、ギルバーツさんに差し出すと受け取ってくれた。受け取らないという選択肢はなかったようだ。
「持って行っていいのかい?」
「はい。お弁当箱の中身はサンドイッチです。私は野菜とか挟んだだけですけ」
「ありがとう。この埋め合わせはするよ」
「気にしないでください。お仕事、頑張ってください」
「本当にありがとう。お弁当箱は洗って返すよ」
そう言って頭を下げると、ベンチから立ち上がりお弁当箱を持っていない手を振ってギルバーツさんは足早に戻って行った。急いで戻るほど忙しいのだ。
次会う約束はしていないけれど、またすぐ会える気がしていた。何故なら、埋め合わせをすると言っていたから。それだけじゃなく、お弁当箱もあるから。
ギルバーツさんの姿が見えなくなると私もベンチから立ち上がって家へと向かった。とても気分がよくて、父様の存在を忘れていた。だから、帰宅して父様に声をかけられるとは考えてもいなかった。
空を見上げるといつの間にか、今にも雨が降りだ出しそうな雲に覆われていた。
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