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第二章
第08話 サンドイッチ
しおりを挟むクッキー作りに続いて、私は今日ギルバーツさんのための昼食作りを頑張っていた。と言っても、サンドイッチだけれど。
家には父様がいるため、キッチンに入るのも大変だった。母様はお菓子を作るため最近はキッチンに入るけれど、私がキッチンに入るところを見られたら怪しまれてしまう。だから、気づかれないようにキッチンの近くにいないときにバッグを持って入った。バッグを取りに行くときに見られたくないから。
キッチンにはすでに母様とワイナがいた。母様がワイナを呼んだのだろう。ワイナは私が幼いころから知っている、数少ない信頼できる女性。
すでに材料は準備されており、私でも作れるものを選んでくれたのだろう。
「では、食パンを使ってサンドイッチを作りましょうか」
扉を閉めた私を見て、ワイナは手を一度叩いて、楽しそうにそう告げた。きっと、私と一緒に何かを作ったことがないから楽しみなのだろう。
「では、食パンの耳は切り落としますね。あとでラスクにしますね」
「トマトとか切る必要のあるものは切っちゃうわね。ロベリア、貴方は材料を挟んで頂戴」
「わかった」
それぞれが素早く、分けて作業をする。ワイナはパンの耳を斬り落としたあと、食パンを半分に切っていく。母様は切る必要のあるものを切っていく。私は、ワイナが切った食パンに、母様が切った材料をバランスよく並べて挟む。その繰り返し。
包丁を使う2人へと視線を向けて、手元を見て目を逸らす。私は直視することができない。包丁を見ることも、扱うこともできない。
それがわかっているから、2人は私に包丁を使わない作業を任せたのだ。
包丁を見ることを少しはできるし、持つことだってできる。けれど、すぐに置いてしまう。理由はあるけれど、今思い出すことでもない。
野菜ばかり挟んでしまったが、肉や卵も挟んだ。これら全てがお弁当箱に入るのかと聞かれたら、入らない。
だから、どれを入れるのかを考えなくてはいけない。
「多めに作ってもらったから、見た目がいいものを入れればいいわね。残りは、お昼に食べればいいし」
「そうですね。ラスクはおやつに出させていただきますね」
お弁当箱にサンドイッチを積めながら、野菜、肉、卵が挟んであるサンドイッチを同じ数だけ入れた。これでギルバーツさんがお腹いっぱいになってくれるのかはわからない。
それに、嫌いなものがあるかもしれない。嫌いなものを聞くことを忘れていたのだ。もしも、嫌いなものがあったらそれは私が食べればいい。
「あら、いいじゃない」
母様の言葉に満足して、私はお弁当箱の蓋を閉めた。持ち上げただけでも開かないように、しっかりと閉じた。音が鳴ったことで開かないということはわかったけれど、一応確認したところ持ち上げただけでは開かない。
これなら、持って行っても大丈夫だろうと思った。お弁当箱は私のバッグにも入る大きさ。外に出る姿を見られたら父様に止められてしまうかもしれないけれど、いつものバッグを持っていたらお弁当箱に気づかれないだろうから何か言われることもないだろう。
その前に父様に見つかってしまえば、外出なんかできないだろうけれど。外出許可なんか出ていないのだから。
お弁当箱が傾かないようにバッグに入れる。これですぐに出かけることができる。
「旦那様はお部屋に戻られたようですよ」
キッチンの扉を開いたワイナは、父様が近くにいないことを確認したようだ。2階からの物音で、部屋に戻ったと判断したようだ。
お昼まではまだ時間がある。けれど、早めに出た方がいいかもしれない。もしも出かけたいときに父様がいたら、出かけることができないかもしれないから。
3人でキッチンを出て、なるべく音をたてないように玄関まで行く。階段から父様が下りてこないことを確認して、私は扉を開いた。
「行ってくるね」
「気をつけてね。ついでに告白してきちゃいなさい」
「私が気持ちを打ち明けたって、無理だって言われるに決まってる。だって私は『悪役令嬢』だから。今の彼はそれを知ってる。……行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
母様とワイナに見送られて、私は外に出ると静かに扉を閉めた。そう、ギルバーツさんは私が『悪役令嬢』だと今は知っているはず。だから、今はまだ伝えたくない。断られるとわかっている。
もう少し、断られても傷つかないと思えるようになったら告白をしよう。それが、いつになるのかはわからないけれど。足早に父様に見られないうちに通りへと出て、約束の広場へと向かう。
だから私は知らない。
「ロベリアは何処に行った」
「旦那様……」
私が出たあとに、父様が母様とワイナに声をかけたことを。出かけたことを気づかれていたことに、私はこのときはまだ知らない。
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