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第二章
第06話 クッキー
しおりを挟む父様が帰宅する前に、無事帰ってくることができた。
手洗いうがいをすませて、自室に戻る。本を見つけることはできなかったけれど、ギルバーツさんと少しの間一緒に過ごせたことは嬉しかった。
満足した私は、どうせ頭に入って来ることはないとわかっていながらも椅子に座り本を読むことにした。今回は偶然ギルバーツさんと会ったけれど、次もしも会うことがあったら会う約束をしてみるのもいいかもしれない。
会うことがあるのかはわからないけれど、また偶然を期待しても構わないと思う。正直なところ、偶然があってほしいと願うしかない。
国王騎士は休みがないほど忙しいと聞いたこともある。きっとギルバーツさんも忙しい。だから、偶然じゃないと会えない。会うには休憩時間と重ならなくてはいけないだろうけれど。
「また、会いたいな……」
そう呟いて、先ほどまで読んでいたページを開いた。内容は頭には入っていなくとも、読んでいたページは覚えていた。
夕食に呼ばれるまで本を読んでいようと思い、文字を追って行く。先ほどのことを少しだけ思い出したけれど、それからは本に集中してしまった。これから私が好きなシーンだったから。
黙々と本を読んで1時間くらいたったころ、扉がノックされて母様が入って来た。珍しく、手には小皿を持っている。本を閉じて机に置いて振り返った私を見て母様は微笑んだ。
「外はどうだった?」
「うん、楽しかったよ」
「あら、嬉しそうね。何かいいことでもあった?」
「まあね。ところで、それは?」
母様はよく私を見ている。だからわずかな変化にも気づく事ができるのだ。顔には出していないつもりだったけれど、どうやら気づかれてしまったようだ。
よく私を見ているにしても、気づくのは正直凄いと思う。私が母親だったとして、自分の子供のわずかな変化に気づけるかと言われたら無理だろう。
けれど、その理由には答えることなく私は手にしている小皿に首を傾げて問いかけた。ワイナが何かを持ってくることはよくあるけど、母様が持ってくるのは珍しい。
「久しぶりに作ってみたの」
そう言って机に置いた小皿にはクッキーが乗っていた。母様は昔、よくクッキーを作っていた。けれど、最近はあまり作ることはなくなっていた。理由はわからないけれど、もしかするとメイド達がいるのに作るなと父様に言われたのかもしれない。
1枚を手に取り、一口齧る。とても美味しいそれは、久しぶりに食べた。変わることのない味に私はあることを思いついた。
「ねえ、母様。私もクッキーを作りたい!」
「あらあら。構わないわよ。好きな男性ができたのね」
その言葉には答えることはなかった。母様は反対しないだろうけれど、誰が好きなのかはまだ伝えるつもりもない。
母様もとくに聞いてこないから、言わなくてもいいのだろう。
「材料もあるし、30分程度で作れるから今から作りましょうか」
母様も自分が作ったクッキーを食べてそう言った。すぐに作れるのなら、父様が帰って来る前に作ってしまいたい。
嬉しそうに言った母様の言葉に私は頷いた。もしも明日父様が出かけるのなら、クッキーを持って出かけるのもいい。もしかするとギルバーツさんに会えるかもしれない。彼は探している女性がいるのだから、今日と同じくらいの時間に出掛ければいる可能性がある。
クッキーは受け取ってもらえないかもしれないけれど、持って行ってみるのもいい。できれば受け取ってもらいたい。けれど、あまり知らない女性からは受け取りたくはないだろう。
クッキーを全て食べ終えて、小皿を手にして椅子から立ち上がると母様と一緒に部屋から出た。向かうのはキッチン。
クッキーを作ったことはないけれど、母様が教えてくれるのなら大丈夫だろう。そう思いながら、私はキッチンの扉を開いた。
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