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第二章

第04話 別の街から来た鳥人族

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 本屋から出て、私達は噴水のある広場に来ていた。
「今日はありがとう」
「いいえ、無事本が見つかってよかったです」
 10冊の本が入った紙袋を持つギルバーツさんにそう言われて、私は本心から思ったことを口にした。私が探していた本はなかったけれど、頼まれた本があったのだからそれでよかった。
 それに、私はギルバーツさんと一緒にいれたのだからそれだけでよかった。
 ギルバーツさんは休憩時間が終わるのでそろそろ戻らなくてはいけなく、私は本が見つからなかったけれど、ギルバーツさんに会えたことに満足したので帰宅しようと考えた。
「それじゃあ、俺はそろそろ戻ります。ロベリアさん、またお会いしましょう」
「あ、はい」
 頭を下げて立ち去るギルバーツさんに私は少し驚いていた。また会うことができるのかと思ったのだ。もしかすると、ただの社交辞令だったのかもしれない。そうだとしても、ギルバーツさんの言葉が嬉しかった。
 父様が帰宅するまで余裕はあるけれど、家に帰ろうと歩き始めたとき、後ろから声がかけられた。
「すみません」
「はい?」
 私にかけられた言葉だということがわかったので、返事をして振り返った。そこにいたのは、1人の鳥人族の男性だった。背中から翼を生やした見た目が人の鳥人族の男性。
 どうして私に声をかけたのかはわからないけれど、何か尋ねたいことがあるのだろうと思った。
「道を尋ねたいのですが、今お時間は大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ」
 私の言葉に男性は一枚の紙を取り出した。そこには、この街に住んでいる住人なら知っている有名なカフェの名前が書かれていた。
 中には知らない者もいるけれど、彼の様子からこの街の住人ではないということがわかる。この街の住人なら、人族に道を聞こうとしないからだ。それに、人族に聞くよりも獣人族や鳥人族のほうが人数が多いのだ。ここに私しかいなかったのなら納得できるけれど、他にもいるのだ。
「このカフェなら、そこの緑の屋根の建物ですよ」
 不思議に思いながらも、少し遠くに見える緑の屋根の建物を教える。ここの近くには他に緑の屋根はないので、間違えることはないだろう。
「ありがとうございます。知り合いと待ち合わせをしたのですが、この街は久しぶりでわからなくて」
 最低でも一度は来たことがあるらしい。けれど、久しぶりだという。もしも、目的のカフェに一度も訪れたことがなかったら場所はわからないだろう。仕方がないともいえる。
「それにしても、この街は人族の方が少ないですね」
「昔からですけどね。他の街は同じくらいの人数だと聞いたことがあります」
 他の街には私は行ったことがないため、彼の言葉にそう返した。人族の数が少ないことに彼も驚いているため、他の街にはもっと人数がいるのだろうということがわかる。
「ええ。私が住んでいる街では、どの種族も同じくらいですね。それに、仲がいいです」
 周りを見回しながら言う彼は、視線から仲があまりよくないと読み取ったのだろう。私も周りを見回してみると、こちらを気にしていない者が多いが、気にしている者は睨みつけるようにしてこちらを見ている。
 彼らに私は何もした記憶はない。それに、私が関わったことのある者など、ほとんどいないのだ。だから睨まれる覚えもない。
「そのうち、種族差別もなくなればいいのですが、これは難しいでしょうね」
「そうですね」
「それでは、失礼しますね。教えてくださりありがとうございました」
「いいえ」
 頭を下げて立ち去って行く彼。少し不思議な人だと思った。
 他にも多くの獣人族や鳥人族がいるのに、どうして私に声をかけたのか。他の街の住人だから、種族は気にしないのかもしれないけれど、どうして私に声をかけたのかはわからなかった。
 何故だろう。私は彼にまたいつか会えるような気がしていた。









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