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第一章
第06話 返事は貰えない
しおりを挟む言ってしまった。言うつもりはなかったのに、結婚していないとわかった途端に何故か勝手に体が動いて声を発してしまった。この思いを今は伝えるつもりはなかったのに。
今目の前で椅子に座り、右手で紅茶の入ったカップを持って僅かに目を見開くギルバーツさんを見てやっぱり私は一目惚れをしていたのだと気がついた。彼が好きだという想いは今、強くなったような気がした。
彼の他にも同じように国王騎士が椅子に座っている。ギルバーツさんと同じように目を見開いて私を見ている。どうやらこの部屋は、国王騎士の者達の休憩部屋のようだった。
そのことに気がついて私は動くことができなかった。話し声からいても3人くらいだろうと思っていた。しかし、7人もいたのだ。こんなに大勢がいる場所で私は告白してしまったのだ。
私を含めた大勢が動かない中、一番最初に動いたのはギルバーツさんだった。右手に持っていたカップをゆっくりとテーブルの上に置くと、椅子ごと私に向き直った。
「好きになってくれて、ありがとう」
彼はそれだけ答えた。どうしたら私が傷つかないかを考えているのかもしれない。
大勢がいるところで告げてしまった想い。だからこそ、傷つかないようにと考えていてくれているのだろうと思った。
きっと彼は私を覚えていない。だから、今告白したとしても答えることができないのは当たり前なのだ。私もすぐに返事を貰えるとは思っていない。
返事は今じゃなくてもいい。そう告げようと私は口を開いた。けれど言葉を発することができなかった。
「ロベリア!!」
「父様……」
いつの間にか私を追いかけて来たらしい父様が声をかけてきたからだ。顔を見なくてもわかるほど怒っている。どうして怒っているのかはわからないけれど。
もしかすると、自分が嫌いな鳥人族と獣人族と話しをしていたからかもしれない。だから怒っているのかもしれない。それに、どうして父様はここにいるのか。エイリーに聞いてきたのだろうか。
「お前がここに入って行くのが見えたから追いかけてみれば……。帰るぞ!」
「ちょっと、離してよ!」
突然腕を掴む父様。振りほどこうとしても、手を離してはくれなかった。無理矢理私を引きずる父様は本当に帰るつもりのようだ。
漸く探していた彼に会えたのに、どうして父様は邪魔をするのか。自分が嫌いだから、私にも話すなというのか。
それならどうしてここに連れて来たのか。人族以外が大勢集まることがわかっているはずなのに。他の人族の者から男性を紹介してもらおうと考えたのかもしれない。でも、紹介してくれるはずはないだろう。何故なら、誰もが私を『悪役令嬢』と知っているのだから。
わざわざ評判のよくない女性を知り合いや身内の男性には紹介したくもないだろう。
私はそのまま父に引きずられ、目立ちながら城を出ることになった。母様も後ろからついて来て溜息を吐いていた。国王を含め城から出た私は、休憩室に残されたギルバーツさん達が何を話していたのかは知らない。
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