上 下
115 / 184
14話

14-8

しおりを挟む

「すみません。少しよろしいでしょうか?」
「はい。いかがなさいましたか?」

 話かけられて少し驚いている様子のメイドは、すぐにルージュに気がついたようだ。緊張でもしていたのか、少し表情が硬かったがルージュを見ると嬉しそうな顔をした。
 まさかこんなところでうさぎを見ることができるとは思うはずがないだろう。

「どうやらこの子が、大勢の人に緊張してしまってニンジンが食べられないようなんだ。できれば人がいない部屋を貸してもらいたいんだが、無理だろうか?」
「構いませんよ。体調を崩す人もいらっしゃるかもしれないからと、国王様がいくつかの部屋の使用許可を出してくださいましたのでそちらにご案内させていただきます」

 そう言うと、その部屋まで案内をしてくれる。
 ルージュは大勢の人に緊張はしていない。これから起こるかもしれない出来事には少し不安ではあった。しかしそのことを考えると、食べ物が喉を通らないのはあっていた。
 しばらく誰もいない廊下を歩くと、一つの扉の前で立ち止まった。ノックをして返事が返ってこないと分かると、扉を開いて「こちらをご利用ください」と室内に通してくれた。

「それでは、失礼いたします」

 頭を下げてそう言うと、扉を閉めて立ち去って行った。
 ノワールが部屋に備え付けられているベッドに近づくと、ルージュはそこに下された。体調を崩す人もいるかもしれないということで使用許可が出た部屋なのだから、ベッドが置いてあって当然なのだろう。
 あとはルージュが元に戻ればいい。そうすれば広間に戻る。落ち着くために一度大きく息を吐くと、持ったままのニンジンを食べ始めた。手にしたまま食べないなんてもったいないと思ったようだ。
 小さなニンジンはすぐに食べ終わってしまった。立ったままでいたノワールは、ルージュの横に腰を下ろして元に戻るのを待っている。何も話さないまま時間が過ぎていく。
 ルージュはこの部屋に来てから落ち着くことができたので、そろそろ戻れるだろうと思ったと同時に元に戻ることができた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

処理中です...