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第二章 勇者降臨
第七十四話 曰く付き
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アギトとチュルムの二人は、とあるホテルへとたどり着いていた。
勇者に関する情報を求め歩く先に着いたこのホテルは、以前リーデシアに呼び出され、騙し討ちを被った因縁浅からぬ場所であった。
勇者たちはここを拠点としており、その証拠に、彼女等の部下だかお付きだかがエントランス前で門番のように立ちはだかっていた。
「挨拶して通してくれると思うか?」
「その可能性は低いだろう」
チュルムの問いに、そう応えるアギト。
その証明のため、エントランスに向かおうとする二人は、行く手を彼等に阻まれた。
「失礼。このホテルは現在、勇者協会が貸し切っております。部外者の方は入れることができません。お帰りください」
「朝霧陽菜野がここに来たと思うが、中にいるのか?」
「お応えできません。どうぞお帰りください」
無感動にいう勇者の仲間達。
アギトは腰の刀を手にかけ、再度要求した。
「道を開けろ。ヒナがいるかどうか、確認するだけだ」
「お応えできません。どうぞお帰りください」
「耳が悪いのか? なんなら、お前ら全員ぶっ殺してやってもいいんだが」
灰色の瞳が殺意の熱が籠るが、それに臆せず、いや気にせず彼等は言い返す。
「お応えできません。どうぞお帰りください」
そういわれ、アギトは、刀から手を離した。
踵を返し、舌打ちしながらその場から去っていった。
内心ハラハラとしたチュルムは、彼の後を追う。
「いやぁ、まじでぶった斬りに行くんかと思ったぜ」
「……斬ってやろうと思ったさ」
だが、そんなことをしても意味がない。
もしホテルの中に陽菜野がいなければ、単なる無用な殺人を起こすことになるし、それは彼女が望むわけがないのだ。
ましてや今の自分は、万全ではない。
戦うことは可能な限り避けるべきである。
「ともあれ、ここは想像通りだめか」
「どーするよ、いっそのこと人探しの張り紙でもするか?」
現状、有効な手段はそれしかないか?
思考を巡らせるアギト達。
考えることは必ずしも得意ではないが、それでもどうにか出来ないかと考える。
「悩んでいるみたいだな」
声をかけられた。
二人は頭をあげると、そこにはカイロルがいた。
隣に付き添うのはリサで、心配そうな微笑みを浮かべている。
「大丈夫なのか?」
「今のお前よりは動けるよ」
アギトの問いにそう応える戦士に、リサが咄嗟に言う。
「駄目よ! まだ病み上がりなんだから!」
「おいおい、俺はそんなに柔じゃないぜ? 今まで寝ていた分どうにかしないとな」
「で、でもぉ!!」
「はいはい解ってるって。無茶なことはしませんよ」
そういう彼だが、弓使いの彼女は気が気でないというような様子だった。
今まで、あんな風になるとは思わなかった。
だからこそ、過剰に心配が沸き起こっているのだろう。
ふと、チュルムが気付く。
「あれ? そう言えばシバはどうした?」
「ああ、奴なら情報集めに行くんだとよ。一人の方がやりやすいらしい」
「一匹狼ならぬ一匹犬か……」
もとよりパーティーのメンバーというわけでもない。
フリーランスであるシバの行動に、制限をつける権利はないが、やや冷たいとも思えた。
「チュルム達は、ヒナノを探しているんだよな? 手伝うぜ」
「構わないが……ギルドマスターの件はどうするんだ?」
「まあ、それも同時に探せばいい。とにかくまずは張り紙か。壁にあちこち張り付けていくついでに、いろんな人に聞いていけば、案外どちらかの情報が拾えるかもしれんだろ」
「…………わかった。でも、それはお前らに任せていいか?」
「なんだ、まだ自分で探し回るのか?」
頷くアギト。
チュルムに視線を向けると、どうしようもない、というように首を振った。
それをみて、カイロルもなんとなく悟る。
「そうか。まあわかった。なら俺達はそうしてみる。なにかわかったらギルドに情報持っていくからな」
「悪い。助かる」
「いいってことよ」
「こちらもボボネルのことを」
その時だった。
アギトは、ふと、思い出した。
「…………ボボネルと言えば、思い出した」
「なんだ? あのギルドマスターになんか約束してたのか?」
「いや違う。単なる仮説に過ぎないが…………」
それはモンスタースタンピードが発生する前の日。
ブリッツが教えた情報と、彼の情報が微妙に食い違っていた。ん
仲間内で話した、文字通り、単なる仮説に過ぎない。
だが、今更になって、思い出した。
天啓など信じるアギトではないが、話すだけ話してみた。
「…………つまり、あいつは情報の錯乱をしていた、ってことか?」
「まあ、所詮は仮定だ。なにか確証があるわけでもない」
「でも、それが理由とすれば、見つかった場所に納得がいくな」
「どういうことだ?」
カイロルに補足するように、チュルムが口を出す。
「ボボネルはジャローデックの森の、はじっこにある小屋で発見されたんだよ。あんなところ、ギルドマスターが行く理由があると思うか? ほとんど人が入らない、獣道の先にあるんだぜ」
「…………隠し事にはうってつけというわけか」
「そう言うこと。でもどうしてそんなことをあのオッサンがやるのかが、わかんねーんだよなぁ」
と、捻るチュルムに、リサが言う。
「仮に本当にやったのだとしても理由がないんじゃ全部空論だよね…………なんか、ギルドマスターを知っている人がいればいいんだけど」
「いるのか?」
「解らない。ギルドマスターについてなんて、あんまりみんな気にしなかったから」
ギルド所属として歴がある彼女の言葉に、カイロルとチュルムは頷く。
なんとも哀れな男というべきか、それともどれだけ影が薄く重要視されていないんだと指摘すべきか。
どちらにせよ、死んだ人間の知り合いを探すのは困難で、かつまだ死んだことを公表していないのだ。
その状況下で、なにかしら情報を引き出せそうな相手……誰か直接話し合っていた相手……指示をしていた相手。
ふと、アギトはまたもや思い付いた。
今日は天啓が冴えているらしい。
「…………補給部隊。そうだ、補給部隊の連中に話を聞いてみたらどうだ?」
「補給部隊?」
「ああ、モンスタースタンピードの時に、遅れてきた補給部隊。連中がどうして遅れたのか、その具体的な話を聞いていなかった。いや、ボボネルはしなかったんだ」
「そうだったのか?」
頷くリサ。
確かに、あの前後で様々なことが起きたせいで、補給がどうして遅れたのか具体的に誰も知らないのだ。
「なるほどな……よし。じゃあ俺とリサはそこを当たってみよう。ああ、ヒナノのことも、ついでになるが探しておく」
「すまない。感謝する」
頭を下げるアギト。
そうして見送ると、再び二人になった所で彼も次の行き先を考える。
「……ホテル街に行ってみるか。そこでヒナと別れたんだ」
「渡り鳥じゃあるまいし、戻ってきているとは思えないなぁ」
「だとしても、有力な候補は全部勇者協会に抑えられているなら…………遠回りしてでも行ける場所に行くべきだろう」
歩き出す。
その足並みはかなり重い。
疲労が蝕んでいるようだった。
でも、草薙アギトは、その歩みを止めなかった。
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「挨拶して通してくれると思うか?」
「その可能性は低いだろう」
チュルムの問いに、そう応えるアギト。
その証明のため、エントランスに向かおうとする二人は、行く手を彼等に阻まれた。
「失礼。このホテルは現在、勇者協会が貸し切っております。部外者の方は入れることができません。お帰りください」
「朝霧陽菜野がここに来たと思うが、中にいるのか?」
「お応えできません。どうぞお帰りください」
無感動にいう勇者の仲間達。
アギトは腰の刀を手にかけ、再度要求した。
「道を開けろ。ヒナがいるかどうか、確認するだけだ」
「お応えできません。どうぞお帰りください」
「耳が悪いのか? なんなら、お前ら全員ぶっ殺してやってもいいんだが」
灰色の瞳が殺意の熱が籠るが、それに臆せず、いや気にせず彼等は言い返す。
「お応えできません。どうぞお帰りください」
そういわれ、アギトは、刀から手を離した。
踵を返し、舌打ちしながらその場から去っていった。
内心ハラハラとしたチュルムは、彼の後を追う。
「いやぁ、まじでぶった斬りに行くんかと思ったぜ」
「……斬ってやろうと思ったさ」
だが、そんなことをしても意味がない。
もしホテルの中に陽菜野がいなければ、単なる無用な殺人を起こすことになるし、それは彼女が望むわけがないのだ。
ましてや今の自分は、万全ではない。
戦うことは可能な限り避けるべきである。
「ともあれ、ここは想像通りだめか」
「どーするよ、いっそのこと人探しの張り紙でもするか?」
現状、有効な手段はそれしかないか?
思考を巡らせるアギト達。
考えることは必ずしも得意ではないが、それでもどうにか出来ないかと考える。
「悩んでいるみたいだな」
声をかけられた。
二人は頭をあげると、そこにはカイロルがいた。
隣に付き添うのはリサで、心配そうな微笑みを浮かべている。
「大丈夫なのか?」
「今のお前よりは動けるよ」
アギトの問いにそう応える戦士に、リサが咄嗟に言う。
「駄目よ! まだ病み上がりなんだから!」
「おいおい、俺はそんなに柔じゃないぜ? 今まで寝ていた分どうにかしないとな」
「で、でもぉ!!」
「はいはい解ってるって。無茶なことはしませんよ」
そういう彼だが、弓使いの彼女は気が気でないというような様子だった。
今まで、あんな風になるとは思わなかった。
だからこそ、過剰に心配が沸き起こっているのだろう。
ふと、チュルムが気付く。
「あれ? そう言えばシバはどうした?」
「ああ、奴なら情報集めに行くんだとよ。一人の方がやりやすいらしい」
「一匹狼ならぬ一匹犬か……」
もとよりパーティーのメンバーというわけでもない。
フリーランスであるシバの行動に、制限をつける権利はないが、やや冷たいとも思えた。
「チュルム達は、ヒナノを探しているんだよな? 手伝うぜ」
「構わないが……ギルドマスターの件はどうするんだ?」
「まあ、それも同時に探せばいい。とにかくまずは張り紙か。壁にあちこち張り付けていくついでに、いろんな人に聞いていけば、案外どちらかの情報が拾えるかもしれんだろ」
「…………わかった。でも、それはお前らに任せていいか?」
「なんだ、まだ自分で探し回るのか?」
頷くアギト。
チュルムに視線を向けると、どうしようもない、というように首を振った。
それをみて、カイロルもなんとなく悟る。
「そうか。まあわかった。なら俺達はそうしてみる。なにかわかったらギルドに情報持っていくからな」
「悪い。助かる」
「いいってことよ」
「こちらもボボネルのことを」
その時だった。
アギトは、ふと、思い出した。
「…………ボボネルと言えば、思い出した」
「なんだ? あのギルドマスターになんか約束してたのか?」
「いや違う。単なる仮説に過ぎないが…………」
それはモンスタースタンピードが発生する前の日。
ブリッツが教えた情報と、彼の情報が微妙に食い違っていた。ん
仲間内で話した、文字通り、単なる仮説に過ぎない。
だが、今更になって、思い出した。
天啓など信じるアギトではないが、話すだけ話してみた。
「…………つまり、あいつは情報の錯乱をしていた、ってことか?」
「まあ、所詮は仮定だ。なにか確証があるわけでもない」
「でも、それが理由とすれば、見つかった場所に納得がいくな」
「どういうことだ?」
カイロルに補足するように、チュルムが口を出す。
「ボボネルはジャローデックの森の、はじっこにある小屋で発見されたんだよ。あんなところ、ギルドマスターが行く理由があると思うか? ほとんど人が入らない、獣道の先にあるんだぜ」
「…………隠し事にはうってつけというわけか」
「そう言うこと。でもどうしてそんなことをあのオッサンがやるのかが、わかんねーんだよなぁ」
と、捻るチュルムに、リサが言う。
「仮に本当にやったのだとしても理由がないんじゃ全部空論だよね…………なんか、ギルドマスターを知っている人がいればいいんだけど」
「いるのか?」
「解らない。ギルドマスターについてなんて、あんまりみんな気にしなかったから」
ギルド所属として歴がある彼女の言葉に、カイロルとチュルムは頷く。
なんとも哀れな男というべきか、それともどれだけ影が薄く重要視されていないんだと指摘すべきか。
どちらにせよ、死んだ人間の知り合いを探すのは困難で、かつまだ死んだことを公表していないのだ。
その状況下で、なにかしら情報を引き出せそうな相手……誰か直接話し合っていた相手……指示をしていた相手。
ふと、アギトはまたもや思い付いた。
今日は天啓が冴えているらしい。
「…………補給部隊。そうだ、補給部隊の連中に話を聞いてみたらどうだ?」
「補給部隊?」
「ああ、モンスタースタンピードの時に、遅れてきた補給部隊。連中がどうして遅れたのか、その具体的な話を聞いていなかった。いや、ボボネルはしなかったんだ」
「そうだったのか?」
頷くリサ。
確かに、あの前後で様々なことが起きたせいで、補給がどうして遅れたのか具体的に誰も知らないのだ。
「なるほどな……よし。じゃあ俺とリサはそこを当たってみよう。ああ、ヒナノのことも、ついでになるが探しておく」
「すまない。感謝する」
頭を下げるアギト。
そうして見送ると、再び二人になった所で彼も次の行き先を考える。
「……ホテル街に行ってみるか。そこでヒナと別れたんだ」
「渡り鳥じゃあるまいし、戻ってきているとは思えないなぁ」
「だとしても、有力な候補は全部勇者協会に抑えられているなら…………遠回りしてでも行ける場所に行くべきだろう」
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