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第二章 勇者降臨
第七十二話 事態は待ってくれない
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翌日。
草薙アギトは、ベッドの上で目を覚ました。
ぼやけた意識の中で周囲を見て、ここが自分達の借りている部屋だと理解するのに、しばらく時間を必要だった。
そして、昨晩の帰り道のことがフラッシュバックし、身体を引き起こして飛び出そうとする。
だが、それらを止めるように、全身に強張るような痛みが走った。
「あぐっ!」
「動くなよ。全身筋肉痛なんだろうから」
と、聞き覚えのある声がキッチンの方から飛んで来る。
スープが載っているおぼんを両手に現れたのは、戦士チュルムであった。
「…………なんの用だ。まさか強盗のつもりか?」
「んなわけねーだろ。道端でぶっ倒れていたお前を拾い上げたから、そのついでに介抱してやっただけだ」
そう言って、彼女はアギトの膝元におぼんを乗せた。
キノコとクリームの旨そうな匂いが鼻腔を擽るが、食欲は振るわない。
「食いたくないか」
「腹は減ってないからな」
「街中あっちこっち走りまくったにしては、頑丈だな」
「…………ヒナはどうした?」
「スバーリック平野の方角に飛んで行ったのを誰かが見たらしいが、それ以降はな」
「探しに行く」
「無理だ。お前もうボロボロなんだぞ。なによりこんな真っ昼間まで寝ていたんだ。どれだけ疲れているのかわかっているんだろう?」
「知ったことか。俺がどうなろうと、そんなの俺の勝手だ」
「本気でウチらから離れる決断したんなら、どうやっても追い付かないだろ」
「…………ちっ」
そこまで言われると、アギトも納得をしなくてはならない。
魔法士として天才の能力を持つということは、どんなことでも出来るわけなのだ。
隠れようとしたら簡単には見つからないし、逃げられたら追い付けないだろう。
しかしそれで諦めるわけじゃないが、ともあれ体力が回復しなくてはいけない。
今は黙って眠り続けるしかなかった。
ふと、チュルムのほうを見る。
明るく元気で、典型的な女戦士な彼女だが、かなり表情が暗い。
「で、ここからが本題なんだが」
「なんだ? 俺が朝寝坊している間になんかあったのか?」
「ギルドマスターが死体で発見された」
@@@@@@
「で、ランクS様はこいつを置いて、どこかに行ったと?」
ギルド内部の地下倉庫にて、セシルとティーシャの二人が話していた。
その間には、かつての上司で取り纏め役でもあった、男の遺体が安置されている。
臨時の遺体安置室となったここは、さほど使われることもないので、若干埃臭さがあった。
それはともかく、女戦士の冒険者の言葉に、ギルドの内勤者肯定した。
「夜勤の担当者に、簡単な経緯だけ説明して渡した後、そのまま出発したのよ。たしかに何処に行ってたのか解らなかったけど」
「まさかこんな状態で帰ってくるとはな。それで、この事を発表するのか?」
「するしかないわね。ギルドマスターは何者かに殺されてしまったって」
「犯人は内部か? それとも…………」
「売れない推理小説のキャッチコピーみたいね」
「真実はどうであれ、言ったら言ったらで、復讐されただのとか騒がれそうだな」
「ますます冒険者の期待と信頼は落っこちる。そういうわけね」
「そう解っているのに、言うしかないのか」
「隠していたって、いずれバレる。そこでもつれる位なら話していた方がマシってわけよ」
「…………まあ、解った。とりあえずアタシはこの事をメンバーの何人かに言ってみる」
「お願いね」
そうして、二人は部屋から出た。
鍵は締められる中、セシルはなんとなく切り出す。
「…………あんまり根をつめるなよ」
「え?」
「地元愛ってのは解るが、背負う必要のないものは、こっちにも寄越せ」
「…………そうね。そうしておくわ」
ティーシャはそう返し、これから起きる問題に備えることにした。
気持ちだけでも構えておけば、大抵のことはなんとかなるものだ。
だがそれが完全ではないこともわかっている。
その時には、盛大に今の言葉を活用すればよい。
その後、セシルが直接会って話したのは、ブリッツとシバ、チュルムであった。
リサは療養しているカイロルの傍から離れず看病しており、アギトは眠りこけている。
ひそひそ話を終えた四人は、ただでさえ重たい空気がさらに重たくされたことへ抗議したい気持ちを抑え、これからについて協議し始めた。
「やることはほとんど限られている。ランクSが介入している以上、モンスター・スタンピードは単なる魔獣の異常繁殖等の自然的なものでないことが確定していることに違いない」
「おいおい、そんな大問題に俺らみたいなのが首を突っ込んでいいのかよ?」
「高ランク冒険者が実質全滅している上に、司令塔の首が真っ二つにされているんだ。信頼できる人手が欲しい。お前らはそういう分類に入れられてんだ。感謝しろよな」
顔をしかめるブリッツだが、本心としてはやる気があった。
なんであれ、現状があまりよろしくないことは確かで、それを解決するために自分が信用されるというのは悪いことじゃない。
「下手に情報は漏らすな。リサとカイロルにはシバが、アギトにはチュルムがいけ」
陽菜野が居なくなったことは、昨晩の内に解っていた。
「ブリッツはアタシと一緒についてきてくれ」
行動が決まると冒険者達は進み始める。
止まっているよりは、遥かにマシだからだ。
草薙アギトは、ベッドの上で目を覚ました。
ぼやけた意識の中で周囲を見て、ここが自分達の借りている部屋だと理解するのに、しばらく時間を必要だった。
そして、昨晩の帰り道のことがフラッシュバックし、身体を引き起こして飛び出そうとする。
だが、それらを止めるように、全身に強張るような痛みが走った。
「あぐっ!」
「動くなよ。全身筋肉痛なんだろうから」
と、聞き覚えのある声がキッチンの方から飛んで来る。
スープが載っているおぼんを両手に現れたのは、戦士チュルムであった。
「…………なんの用だ。まさか強盗のつもりか?」
「んなわけねーだろ。道端でぶっ倒れていたお前を拾い上げたから、そのついでに介抱してやっただけだ」
そう言って、彼女はアギトの膝元におぼんを乗せた。
キノコとクリームの旨そうな匂いが鼻腔を擽るが、食欲は振るわない。
「食いたくないか」
「腹は減ってないからな」
「街中あっちこっち走りまくったにしては、頑丈だな」
「…………ヒナはどうした?」
「スバーリック平野の方角に飛んで行ったのを誰かが見たらしいが、それ以降はな」
「探しに行く」
「無理だ。お前もうボロボロなんだぞ。なによりこんな真っ昼間まで寝ていたんだ。どれだけ疲れているのかわかっているんだろう?」
「知ったことか。俺がどうなろうと、そんなの俺の勝手だ」
「本気でウチらから離れる決断したんなら、どうやっても追い付かないだろ」
「…………ちっ」
そこまで言われると、アギトも納得をしなくてはならない。
魔法士として天才の能力を持つということは、どんなことでも出来るわけなのだ。
隠れようとしたら簡単には見つからないし、逃げられたら追い付けないだろう。
しかしそれで諦めるわけじゃないが、ともあれ体力が回復しなくてはいけない。
今は黙って眠り続けるしかなかった。
ふと、チュルムのほうを見る。
明るく元気で、典型的な女戦士な彼女だが、かなり表情が暗い。
「で、ここからが本題なんだが」
「なんだ? 俺が朝寝坊している間になんかあったのか?」
「ギルドマスターが死体で発見された」
@@@@@@
「で、ランクS様はこいつを置いて、どこかに行ったと?」
ギルド内部の地下倉庫にて、セシルとティーシャの二人が話していた。
その間には、かつての上司で取り纏め役でもあった、男の遺体が安置されている。
臨時の遺体安置室となったここは、さほど使われることもないので、若干埃臭さがあった。
それはともかく、女戦士の冒険者の言葉に、ギルドの内勤者肯定した。
「夜勤の担当者に、簡単な経緯だけ説明して渡した後、そのまま出発したのよ。たしかに何処に行ってたのか解らなかったけど」
「まさかこんな状態で帰ってくるとはな。それで、この事を発表するのか?」
「するしかないわね。ギルドマスターは何者かに殺されてしまったって」
「犯人は内部か? それとも…………」
「売れない推理小説のキャッチコピーみたいね」
「真実はどうであれ、言ったら言ったらで、復讐されただのとか騒がれそうだな」
「ますます冒険者の期待と信頼は落っこちる。そういうわけね」
「そう解っているのに、言うしかないのか」
「隠していたって、いずれバレる。そこでもつれる位なら話していた方がマシってわけよ」
「…………まあ、解った。とりあえずアタシはこの事をメンバーの何人かに言ってみる」
「お願いね」
そうして、二人は部屋から出た。
鍵は締められる中、セシルはなんとなく切り出す。
「…………あんまり根をつめるなよ」
「え?」
「地元愛ってのは解るが、背負う必要のないものは、こっちにも寄越せ」
「…………そうね。そうしておくわ」
ティーシャはそう返し、これから起きる問題に備えることにした。
気持ちだけでも構えておけば、大抵のことはなんとかなるものだ。
だがそれが完全ではないこともわかっている。
その時には、盛大に今の言葉を活用すればよい。
その後、セシルが直接会って話したのは、ブリッツとシバ、チュルムであった。
リサは療養しているカイロルの傍から離れず看病しており、アギトは眠りこけている。
ひそひそ話を終えた四人は、ただでさえ重たい空気がさらに重たくされたことへ抗議したい気持ちを抑え、これからについて協議し始めた。
「やることはほとんど限られている。ランクSが介入している以上、モンスター・スタンピードは単なる魔獣の異常繁殖等の自然的なものでないことが確定していることに違いない」
「おいおい、そんな大問題に俺らみたいなのが首を突っ込んでいいのかよ?」
「高ランク冒険者が実質全滅している上に、司令塔の首が真っ二つにされているんだ。信頼できる人手が欲しい。お前らはそういう分類に入れられてんだ。感謝しろよな」
顔をしかめるブリッツだが、本心としてはやる気があった。
なんであれ、現状があまりよろしくないことは確かで、それを解決するために自分が信用されるというのは悪いことじゃない。
「下手に情報は漏らすな。リサとカイロルにはシバが、アギトにはチュルムがいけ」
陽菜野が居なくなったことは、昨晩の内に解っていた。
「ブリッツはアタシと一緒についてきてくれ」
行動が決まると冒険者達は進み始める。
止まっているよりは、遥かにマシだからだ。
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