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第二章 勇者降臨

第六十八話 元勇者解放

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ゴリッ、バキッ。
そんな音が響く。
里中詩織は残された意識があるなかで、自分が喰われていく光景を眺めていた。
胸元が露にされ、乳房が食いちぎられた。
脂肪の塊だからか、エレーミアはあまり嬉しそうではない。
しかしそれでも彼女は飽くなき食欲に従って、勇者の臓物をえぐり取りながら食べる。

ぐちゃぐちゃとした音が聞こえる。
自分が奪われていく。
意識が消えていく。

里中は絶命するその瞬間まで、願った。
早く殺してくれと。

エレーミアが食事を楽しんでいる間。
カリンは残党を殲滅し、リーデシアは勇者の専用の独房にたどり着いた。

「リーデシア?」

「ドラニコス……ドラニコス!!」

そこには、間違いなくドラニコスがいた。
酷く痩せ細っている。
どれほどの苦痛と屈辱を受けていたのだろう。
リーデシアは感極まる思いで、涙を流した。

ようやく、再開できた。
セフレでしかなくとも、彼女は彼を愛しているのだ。

ドラニコスの方は解放されるのに喜んでいた。

「よく来てくれたリーデシア! 早くここから出してくれ!」

「解ったわ!」

鍵を魔法で破壊し、扉を開けると彼女は元勇者に抱きついた。
久方ぶりの胸の柔らかさが、ドラニコスの下腹部を刺激する。

「ようやく会えた……ずっと、この瞬間を夢見たわ」

「ああ、俺もだよ。さて、他の二人は?」

「外にいるから。ついてきて」

案内をされて、ドラニコスは残骸の広場に出てきた。
周囲の状況に唖然する。

「こ、こいつを三人がやったのか?」

幾多に転がる帝国兵士。
見覚えのある職員が原形を残さぬ状態で殺害されており、他にも収監されていた囚人たちも一人残さず死んでいた。
人死には初めてというわけでないが、これほどの規模の死者は見たことがなかった。

「ドラニコス、よく聞いて。これから語ることを」

リーデシアは狼狽えるドラニコスに語り始めた。
帝国が自分達を裏切り、協会が騙してきた全てを。
そして、アサギリ=ヒナノとクサナギ=アギトが、それらの手先であったのだと。
時に悲劇的に、時に喜劇的な説明に、元勇者はわなわなと震えた。

「そうか……リーデシア、よく調べてくれた」

「いいえ、これはカネハラ達からの情報なの」

「カネハラ? あいつは……いや、これだけの情報を提供してくれたってことは敵じゃないのか」

「…………私は、あなたを助けるために禁忌を犯した」

悩みかけていたドラニコスに、リーデシアがそう告白する。

「禁忌……まさかリーデシア。合成魔法を完成させたのか?」

「ええ。対象者は、二人よ」

そうしてやってきたカリンとエレーミア。
二人とも血塗れで、それらが自分の負傷ではないのだと、ドラニコスは経験から察する。
特に、女騎士の口元には人肉と人骨の破片が残っており、それがどう言うものなのかを理解してしまった。

「…………二人とも……そんな、俺のために?」

「当たり前です。ドラニコス様」

エレーミアが応える。

「たとえこの身を獣と同等におとしても、それであなたを救えるならば、迷いはありません」

カリンもそれに続く。
彼女の場合、強く涙ぐんでいながらのものだった。

「私の人生は全てドラニコス様のためにあります! 貴方の人生の、ほんの一辺だけでもいい!! この醜く小さな命で助けることが出来たならば、それはどのようなものより至上の喜びなんです!」

「カリン……」

「覚えていられますか? 私は、聖職者でありながら、毎晩神父に犯されていた日々のことを」

「…………ああ。お前は孤児で、身寄りがないからそれで……」

「聖職者も建前で、教会にいることが不審がられないようにするため。私の人生は、全部そのときから無意味で無価値だったんです。それを、貴方が救ってくれた」

そして、元聖職者の化け物は、元勇者の愛人に抱擁する。
小さな身体で、ぼろぼろになりながら、人であることをやめたそれで。
彼女は彼を抱き締めていた。

「この汚れた身は、ずっと前から汚れていた。でも、ドラニコス様は迷わず受け入れてくれた。それによって、どれだけ救われたことか」

「…………そうか。ありがとうカリン。俺は、あんまりそこまで考えていなかったよ」

「いいのです。これは、私だけの思いですから」

頬を赤らめながら言いきったカリンは、ドラニコスの唇にキスをした。
彼もキスを返して、その頭を撫でる。
それを見ていたリーデシアは、目元を拭い、これからのことを口にする。

「ドラニコス。カネハラ達はこれから人類の敵となっている帝国軍と協会連中……そしてアサギリ=ヒナノとクサナギ=アギトを抹殺するそうよ」

「…………俺達もこいと?」

「そうみたい。正直、この二人が助けることが出来たのも、あいつらのお陰」

「解った。なら行こう。そして、それを越えた先で……みんなと、幸せに暮らそう」

三人が目を開く。
その言葉の意味が、所帯をもつというのと、同じだからだ。
あまりの宣言にエレーミアが返す。

「ほ、本当なのですか!? 私達はその……」

「エレーミア。そんなの関係ない。俺は解ったんだ。三人と離れてさ……俺は三人にすごく助けられてきた。これまでずっと……だから、今度は俺が三人を助ける番だ。これから先ずっとな」

「っっ……! ドラニコス、さま……」

「エレーミア、おいで」

右腕を広げるドラニコス。
カリンも身をよじり、場所を開けた。
嫉妬深い彼女が、エレーミアを認めたのだ。
さまざまな感動が元女騎士の心を暖めて、望みのままに足を進ませて、愛する勇者と寄り添いキスを交わす。

「この感動……どう、言葉にすれば……」

「無理に言わなくていいよ。エレーミアの気持ちは今のですごく解ったから」

「…………ありがとう、ございます……」

まるで、これまでの重みから解放された気分に、エレーミアは満面の笑みでドラニコスとカリンを抱き締めた。
カリンもエレーミアを抱き締め返す。
三人は一つなるようだった。

しかし、あと一人足りないと、リーデシアに視線が集まる。

「え、私は……」

恥ずかしがるようにする彼女だが、エレーミアとカリンが続けて言う。

「何を言っているリーデシア。そもそもお前がいなければどうしようもなかったことだ」

「そうですよ。リーデシアさんも来て下さい」

微笑む二人に、ドラニコスも続く。

「来いよリーデシア。俺達セフレだったけど……もう、そんなの関係ないだろ」

「ドラニコス……」

悩みながらも、だが、甘美な言葉にリーデシアは飛び付いた。
こうして、ドラニコスパーティは、また集った。
中身は完全に変わってしまったが、そんなものは些細である。

温かな確かな繋がりに、四人は涙を流しあって、再会と約束を強く感じていた。
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