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第二章 勇者降臨
第六十四話 殺人経験
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____私は、これで二人目を殺した。
人殺しだ。
最初はアギトを助けるために仕方無かった。
偶々覚えた強い魔法をつかった。
まさか、殺してしまうとは思いもよらなかった。
後にそれが戦争で戦術魔法として運用されていたときいた。
戦車砲みたいなものだと。
二度使いたくなかった。
私は人殺しなんてごめんだ。
人なんて殺したくない。
だって、だって。
そんなの、背負いきれないよ…………。
@@@@@@
残骸となったホルッテスは、もう動かない。
完全に死んだ。
その確認を終えたセシルは陽菜野へと駆け寄る。
彼女は攻撃魔法を放った後、すぐにリティアの亡骸へと寄り添っていた。
嗚咽が聞こえる。
白銀の長い髪が所々赤く汚れ、小さい肩が震えていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
頬を伝う涙をすくうものはなく、ただ謝罪だけが行われる。
悲しいから?
いや、そうには見えない。
強いて言えば、それはある種の強迫観念だ。
セシルは、冒険者として生きてきた経験がそう判断した。
仲間の喪失は、これが初めてではない。
過去何度も助けられなかった仲間がいた、隣人がいた。
最初のうちは涙が出るものだが、彼女ほどになるとそれがさして意味のないものだと解る。
ふと、そこで地面に落ちていた札に気が付いた。
勇者どもが寄越してきたもの。
どうやら起動しているようではあるが、極光の勇者は現れない。
セシルはそちらの方が気がかりだった。
「…………ヒナ。仕方無かったんだ。もういい、こいつだって自分がくたばったら涙を流されるなんて、正直嫌な筈だ。だから」
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「……ちっ、いい加減にしやがれ! こんなところでメソメソされたら、こっちだって危ねぇんだ!」
陽菜野の腕を掴み、引っ張ろうとするが、彼女はそれでも反応しなかった。
ひたすら呟く、ごめんなさいと。
「謝ったところで死んだ奴が復活するわけでもねぇだろうが!! それとも元の世界では謝れば全部元通りになるって言うのかよ!」
「…………もと、通り?」
「なるわけねぇだろ! それぐらい解るんだよ! だから無駄なことしてねぇで立ち上がれ!」
「……………………」
無駄なこと。
そうだった。
今更謝ったって、なにもかも元には戻らない。
また、昔みたいに、逃げ続けて贖罪を無視しようとしていた。
陽菜野は、顔をあげると自分の意思で立ち上がる。
「…………解ってる……」
「よし。とりあえず状況を整理するが、あの札が起動しているにも関わらず、勇者どもがこない。こっちはとんでもないもんと遭遇した以上後退するしかないだろう。いくぞ」
「待って! リティアとホルッテスさんは」
「持って帰る余裕は無い。いいから急ぐぞ。あれだけで終わりだと思えねぇ」
「でもっ!」
「いいから!」
議論もする気がない。
正確には、そんな余裕がなくなっているセシルは陽菜野の言葉を遮って無理やり引っ張っていく。
遠ざかっていく仲間の遺体を見つめているが、やがて背を向けた。
「…………ごめんなさい……」
無意味かつ、無価値な謝罪を口にして、再び陽菜野は顔を落とす。
セシルも、そんな彼女を励ます気力がなかった。
まさか、ホルッテスがあんな風にされ、リティアが呆気なく殺されるとは。
冒険者なら、どんな死にかたもあり得るものだ。
いずれは自分もそうなるかもしれない。
だが、そうならないために、今は全力で逃げることとする。
その頃、フィオナと春彦は、とある敵集団と戦っていた。
一気に凪払うように光の熱閃を浴びせるが、溶かした所からまた新たな人影が沸き上がってくる。
「切りがないなぁ」
「そうだな。おれはこのままだと札がなくなるが」
「そりゃ困るね。ていうか、陽菜野ちゃんから救援要請は?」
「来ている。が、進むためには、こいつらを殲滅しなくてはならない」
「面倒だな…………先の衝撃、陽菜野ちゃんの攻撃魔法だと思うけど」
「そもそも、こいつらがなんであるか。お前は知っているのか?」
「はっ、知るわけ無いでしょ。ぼくはこういう面倒なの嫌いなんだ」
そう吐き捨てるように、光勇者の凪払いに道が作られた。
「よし、このまま陽菜野ちゃんを救いだして、勇者はとてもいいものだと教え込まないと____」
その瞬間だった。
後ろから何か聞こえる、そう思った二人は振り返る。
そこには、いるはずのない冒険者が真っ赤に血塗れになりながら、刀を片手に走り込んでいた。
草薙アギトである。
「どけぇぇえっっ!!」
彼の気迫に、フィオナと春彦も思わず道を開けてしまい、そのまま走り去っていくのを見送る。
数秒後、ハッとなった光勇者はどうにか止めようとするが、既に道は人のような群体によって埋められた。
「ああ!! このままじゃまずいよ!! せっかく陽菜野ちゃんのために用意した舞台なのに!」
「……そんなこと言っている暇はなさそうだが」
「ちっ、こいつら全滅させてやる!」
勇者達の戦闘音を背にし、アギト疾走する。
眼前に現れた合成魔獣を示現流で一刀両断しながら。
人殺しだ。
最初はアギトを助けるために仕方無かった。
偶々覚えた強い魔法をつかった。
まさか、殺してしまうとは思いもよらなかった。
後にそれが戦争で戦術魔法として運用されていたときいた。
戦車砲みたいなものだと。
二度使いたくなかった。
私は人殺しなんてごめんだ。
人なんて殺したくない。
だって、だって。
そんなの、背負いきれないよ…………。
@@@@@@
残骸となったホルッテスは、もう動かない。
完全に死んだ。
その確認を終えたセシルは陽菜野へと駆け寄る。
彼女は攻撃魔法を放った後、すぐにリティアの亡骸へと寄り添っていた。
嗚咽が聞こえる。
白銀の長い髪が所々赤く汚れ、小さい肩が震えていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
頬を伝う涙をすくうものはなく、ただ謝罪だけが行われる。
悲しいから?
いや、そうには見えない。
強いて言えば、それはある種の強迫観念だ。
セシルは、冒険者として生きてきた経験がそう判断した。
仲間の喪失は、これが初めてではない。
過去何度も助けられなかった仲間がいた、隣人がいた。
最初のうちは涙が出るものだが、彼女ほどになるとそれがさして意味のないものだと解る。
ふと、そこで地面に落ちていた札に気が付いた。
勇者どもが寄越してきたもの。
どうやら起動しているようではあるが、極光の勇者は現れない。
セシルはそちらの方が気がかりだった。
「…………ヒナ。仕方無かったんだ。もういい、こいつだって自分がくたばったら涙を流されるなんて、正直嫌な筈だ。だから」
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「……ちっ、いい加減にしやがれ! こんなところでメソメソされたら、こっちだって危ねぇんだ!」
陽菜野の腕を掴み、引っ張ろうとするが、彼女はそれでも反応しなかった。
ひたすら呟く、ごめんなさいと。
「謝ったところで死んだ奴が復活するわけでもねぇだろうが!! それとも元の世界では謝れば全部元通りになるって言うのかよ!」
「…………もと、通り?」
「なるわけねぇだろ! それぐらい解るんだよ! だから無駄なことしてねぇで立ち上がれ!」
「……………………」
無駄なこと。
そうだった。
今更謝ったって、なにもかも元には戻らない。
また、昔みたいに、逃げ続けて贖罪を無視しようとしていた。
陽菜野は、顔をあげると自分の意思で立ち上がる。
「…………解ってる……」
「よし。とりあえず状況を整理するが、あの札が起動しているにも関わらず、勇者どもがこない。こっちはとんでもないもんと遭遇した以上後退するしかないだろう。いくぞ」
「待って! リティアとホルッテスさんは」
「持って帰る余裕は無い。いいから急ぐぞ。あれだけで終わりだと思えねぇ」
「でもっ!」
「いいから!」
議論もする気がない。
正確には、そんな余裕がなくなっているセシルは陽菜野の言葉を遮って無理やり引っ張っていく。
遠ざかっていく仲間の遺体を見つめているが、やがて背を向けた。
「…………ごめんなさい……」
無意味かつ、無価値な謝罪を口にして、再び陽菜野は顔を落とす。
セシルも、そんな彼女を励ます気力がなかった。
まさか、ホルッテスがあんな風にされ、リティアが呆気なく殺されるとは。
冒険者なら、どんな死にかたもあり得るものだ。
いずれは自分もそうなるかもしれない。
だが、そうならないために、今は全力で逃げることとする。
その頃、フィオナと春彦は、とある敵集団と戦っていた。
一気に凪払うように光の熱閃を浴びせるが、溶かした所からまた新たな人影が沸き上がってくる。
「切りがないなぁ」
「そうだな。おれはこのままだと札がなくなるが」
「そりゃ困るね。ていうか、陽菜野ちゃんから救援要請は?」
「来ている。が、進むためには、こいつらを殲滅しなくてはならない」
「面倒だな…………先の衝撃、陽菜野ちゃんの攻撃魔法だと思うけど」
「そもそも、こいつらがなんであるか。お前は知っているのか?」
「はっ、知るわけ無いでしょ。ぼくはこういう面倒なの嫌いなんだ」
そう吐き捨てるように、光勇者の凪払いに道が作られた。
「よし、このまま陽菜野ちゃんを救いだして、勇者はとてもいいものだと教え込まないと____」
その瞬間だった。
後ろから何か聞こえる、そう思った二人は振り返る。
そこには、いるはずのない冒険者が真っ赤に血塗れになりながら、刀を片手に走り込んでいた。
草薙アギトである。
「どけぇぇえっっ!!」
彼の気迫に、フィオナと春彦も思わず道を開けてしまい、そのまま走り去っていくのを見送る。
数秒後、ハッとなった光勇者はどうにか止めようとするが、既に道は人のような群体によって埋められた。
「ああ!! このままじゃまずいよ!! せっかく陽菜野ちゃんのために用意した舞台なのに!」
「……そんなこと言っている暇はなさそうだが」
「ちっ、こいつら全滅させてやる!」
勇者達の戦闘音を背にし、アギト疾走する。
眼前に現れた合成魔獣を示現流で一刀両断しながら。
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