追放された荷物持ち~魔法は使えないけど、最強剣術で冒険者SSSランク!?完全回復魔法が使える幼馴染は一緒についてきてくれるそうです~

柳原猫乃助

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第二章 勇者降臨

第六十三話 狂気

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陽菜野達は奥へと進んだ。
道中様々な施設を目にする。

巨大な実験管のようなガラスの残骸。
砕かれたコンピューター。
徹底的に破壊された設備。
それらの傍らには、死んで間もない冒険者の遺体があった。
突入した冒険者の一人だと、セシルは語る。

「…………頭の半分がない」

鼻を中心にして綺麗に真っ二つになっていた頭は、実にグロテスクだ。
血の深い臭いに、思わず少女は口を手で閉じる。

「刃みたいなので切り取られたのか……しかし頭蓋骨ごと見事に切り裂いてやがるな」

「良く見れるね……」

「情報はなんでも見逃さない方がいいぜ」

そこばかりは、ベテラン冒険者というところか。
しかし慣れないものは慣れないのである。
むしろ発見した瞬間に叫ばなかっただけ、まだ理性が働いたのかもしれない。
なんであれ、三人は脚を進める。

その道中、長い廊下の息苦しさに耐えきれずか。
リティアが何となく切り出した。

「そういえば、ヒナノ。あなた勇者に最後、なんて聞かれたの?」

「え? あー、うん。彼女は欲しいかみたいなこといってた」

「彼女?」

「同性好きなんだって。でも私はそんなの解らないから断ったよ。それだけ」

「……そう」

陽菜野の反応にリティアは、セシルと目を合わせて、それ以上追求するのをやめた。
明らかに嫌そうな表情を浮かべた。
単に告白された程度で、作り出すようなものじゃない。
恐らくは、アギトとのことだろうか。

なんで付き合わないの?
とか聞いた日には、陽菜野は物凄く不機嫌になる。
まるで子供がねだっているのに、手に入れられなかった玩具があったかのように。

そこまで幼稚ではないが、少なくとも彼女の心理的なコンディションを落とす話題は避けるべきだ。
そう考え、リティアは何気無く話題を変える。

「そう言えばヒナノ、あなた確かドラゴンの卵を買ったのよね?」

「うん……まあ、正確には貰ったんだけど、それがどうかしたの?」

「どうってことじゃないけど、どんな卵なのかなって」

「どんな……うーん、見た目はなんかクリスタルみたいで、とってもピカピカしてて……」

「ピカピカね……」

「ドラゴンの種類にはそれなりに詳しいつもりでいたけど、全然該当する卵が無くて……リティア知らない?」

「…………それだけだと私も解らないな。すまん」

「いいよいいよ。あーなんだかちょっと帰るの楽しみなったかも」

どうやら少しだけ、肩の荷が軽くなったのかもしれない。
唯一戦うことができる彼女は、いろんな意味で責任が重大なのだ。
それを後輩に任せることになるなど、リティアにとって情けないと思えることだった。
僅かでもその責任を軽くできないかと思って話しかけたが、そうして良かったと思いつつ、警戒へと戻る。

そんなこんなで、たどり着いたのは、広めの空間。
岩壁だらけの、自然な雰囲気の変化には、もう何度目なのか解らない程経験したので今更驚かない。

「気を付けろ。こういうところが奴等の巣だからな」

セシルが言うと陽菜野は念のため、探知魔法で索敵する。
存在は認識できない。
全周囲を警戒しつつ歩んでいくと、前方から足音が聞こえてきた。

杖を構えると、薄暗い奥から現れたのは、今度は陽菜野も見覚えのある冒険者だった。

「ホルッテスさん!」

要救助者が見つけられたことに、単純に喜ぶ陽菜野だが、セシルが叫ぶ。

「まて! なんか様子がおかしい」

「え?」

振り返る陽菜野。
その一瞬が、全ての命取りだった。
音速のように伸びたなにか。
それが、彼女の横を通りすぎて、リティアの胸元を貫く。

「あがっ!!」

潰れかけた悲鳴に、ようやく事態を理解する陽菜野。
ホルッテスらしきそれは、左腕を急速に伸ばして、長槍のように刺突したのだ。
その狙いは、リティアで、彼女は心臓と肺を同時に失う程の……。

「____列空に名だたる翡翠の鷹、切り裂くは羽、刹那のように! ”ウィンドブレード”!!」

陽菜野はほとんど無意識に、咄嗟に魔法を使った。
風の攻撃魔法で、杖先から放たれたそれは一瞬で触手というべき伸びた左腕を切断する。
切り落とされた腕は塵となって消失し、致命傷を被ったリティアが倒れた。

駆け寄る陽菜野は即座に完全回復魔法を起動準備に移るが、すでに魔法士リティアは死んでいる。

それを否定するように起動。
膨大な魔力の無駄が周囲を包み込むが、死者を復活させることは叶わない。

「ヒナ!!」

セシルは第二撃の触手を受け流しながら、陽菜野を呼ぶ。
援護射撃をさせるためだ。
明確に指示をしたいが、振り返るなんてことはできない。
一瞬でも気を抜けば、次に殺されてしまう。

名をよばれる陽菜野は、それに反応することができなかった。

リティアが死んでしまう!
そんな思いでいっぱいだった。
すでに死んでいるが、そんなのは嘘だ。
だって、先まであんな元気で、自分をリラックスさせてくれて。
帰ったらドラゴンの卵を見せて、どんなドラゴンか想像して……。

眼光が失われたリティアの顔は、瞬く間に色白くなっていく。
出血がどうしても治まらない。

どうして?

どうして? どうして?

どうして? どうして? どうして?





リティアは、死んだのだ。

自分のせいで、死んだ。

助けられなかった。




仇がいる。
目の前で仲間を、恩人を殺そうとしている。
自分にはそれをどうにかすることができる。
しかし、敵は元々人間で、どうしてああなったのか解らない。

だが、あれなら殺せる。

隙だらけだった。
セシルを殺そうとして、躍起になっているように見える。
ナイフはボロボロで、幾ばくの時間もない。

決断を迷う暇はなかった。

たとえ、あれがホルッテスだとしても。

あれが、自分から、自分達からリティアを奪ったことに違いないのだ。


殺す。
殺してやる。
肉片一つも残さずに、ぶっ殺してやる。

陽菜野の心に暗い焔灯ると、それに命じられるかのように、杖を敵へと向けた。

ナイフが砕ける。
もうどうしようもない。
このままでは、セシルも死ぬ。

それは、回避しなくてはいけなかった。

だからこそ使おう。

人を殺した、あの魔法を。

「____壊滅の調べを持ちながら、豊穣なる導きを持つもの、我が敵打ち砕くために今こそ放たれろ。”フェニックス・ペレトネイター!!”」

杖から収束して放たれたそれは、魔力適正1000オーバーによって構築された、不死鳥の形をした大槍だった。
馬よりも速く、風よりも速く、迸る一撃はホルッテスの身体を二つに引きちぎる。
それだけでなく、広間の奥へと進んでいき、空間の構造物を粉砕しまくった。
けたたましい破壊音は洞窟全体、そして外へと衝撃として響いただろう。

腰を抜かすように、尻餅をついたセシルは陽菜野を見上げる。
そこには、見たことのないほどの、明確な殺意を宿した彼女が立っていた。
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