追放された荷物持ち~魔法は使えないけど、最強剣術で冒険者SSSランク!?完全回復魔法が使える幼馴染は一緒についてきてくれるそうです~

柳原猫乃助

文字の大きさ
上 下
61 / 84
第二章 勇者降臨

第五十六話 疲労と後悔

しおりを挟む
デリアドに帰還した冒険者達を待ちかねていたのは、称賛だけではなかった。
黒い噂、つまり今回の被害者が増大した原因のこと。

「補給部隊がどうして来なかった?」

その疑問に包まれていた帰還者に扇動される形で、住人や治安軍にまで伝染した。
憶測と偏見によって様々な意見が変形し、最終的に誰もが介した答えが。

「やっぱりボボネルってのは怠け者だったわけだ」

というものだった。
真実かどうかは定かでない。
ただ、あの現場での対応は、誰がどう見ても悪手だった。
おそらく誰かが意図的にそう意見誘導したのだろう。
後に、陽菜野はそう判断した。

冒険者ギルドでは外と同様に慌ただしくなっているスタッフ達のなかで、陣頭指揮の如く指揮を取っていたティーシャがアギト達の帰還に気がつくと、普段は見せない余裕が全くない様子で駆け寄ってきた。

「みんなお疲れ様。今日はもうギルドを閉めるから、一度帰ってね。報酬金とかは後日かならず渡すから」

「は、はい」

偶々先頭にいた陽菜野につぎ込むような勢いで言いきり、ティーシャは踵を返そうとする。
そこに、アギトは気がついた。

「なあ、セシル達はどうした?」

受付嬢の足が止まった。
背中をむけたまま、ただ返答する。

「……問題ないわ。すこし帰ってくるのが遅れているだけ」

「そうか」

そうして、彼女は内勤用の部屋へと戻っていく。
それを見送り、一旦ギルドから全員出ると、すぐさま察する。

「向こうでもなにかあったな」

アギトの言葉に陽菜野達は頷く。

「セシル達が危ないかも……行くべきだね」

「賛成。消耗品の補充は済んでるし、行きましょう」

リサの賛同にチュルムも微笑んで同意。
ブリッツも拳を合わせて、やる気に満ち溢れていた。
しかし、そんな種火を吹き消すように。シバが口を開く。

「いいえ。私は反対です」

「え」

思わず、陽菜野が声を漏らし、注目を浴びるシバは更に続けた。

「もし本当に助けが必要ならば、もっと高位な冒険者が必要になります。ランクCに至っていない我々ではむしろ足手まといになる可能性が高い」

「そんなの、行ってみなけりゃわかんねぇじゃねぇか!!」

チュルムが珍しく怒気を込めて叫ぶ。
それだけあり得ないことを言われたと感じたのだ。
シバの様子に変化はない。
恫喝のようなものに屈するほど、彼女は弱くなく、また感情的でもなかった。

「受付嬢だって私達の実力を知っているからこそ、情報を与えなかった。なんにせよ行っても無駄死にするだけだ。やめたほうがいい。私達も連戦で疲れている」

「うるせえ!! 一ヶ月そこいらの付き合いのやつに、あれこれ指図される謂れはウチらにねぇ!!」

「頭に血が上りやすいのは戦士の悪癖だ。すこしは落ち着け。それもできないほど脳筋なのか?」

「んだとこのヤロウ!!」

一瞬だけ垣間見たシバの素。
飛び掛かろうとするチュルム。
それを止めたのは、アギトだった。

「退けよ!! お前だって同じだろう!」

「俺はシバの言葉に同意する。俺達はかなり消耗しているんだ。それに助けに行くとしても、今からじゃ馬車でも半日はかかる。大して時間は変わらない」

「っ、クソッタレ!!」

槍使いの戦士は剣士たる少年の手を払い退けると、道具袋から取り出した水入りペットボトルをあけて、頭から思いっきり被った。
頭を冷やしているらしい。

「…………言われなくても解ってら。ただ、熱くなりすぎたよ。いつものウチじゃなかった」

「モンスター・スタンピードで血がのぼったんだろう。前線だったからな」

それに続くようにシバが言う。

「もう少し言葉を選ぶべきだった。不要なトラブルを起こして申し訳ない」

「いやいい。シバの言うことは正しいよ。ウチら、疲れてたんだ」

リサに視線をやるチュルムに、弓使いの少女はその通りと、口にする。

「ご飯でも食べに行かない? お腹いっぱいになればきっと安心するし、気も紛れると思うんだ」

「それならオレに任せてくれ。こないだ結構うまい飯屋を見つけたんだ」

ブリッツの言葉に一同は賛成した。
それは、ともかくこの空気を変えたい、という共通意識があったからこそのものだったか。
なんであれ、一路、大衆食堂の店へと足を伸ばす。
空腹であるのも、また事実だからだ。
彼の慧眼は素晴らしく、それなりの手頃な値段で、それなりの食事にありつけたパーティはその後解散する流れとなった。

帰路。
陽菜野はやや重たい目蓋を擦りながら、まだまだ騒がしい大通りを歩み、隣にいるアギトに切り出した。
同じ宿のはずであるブリッツとシバの姿はない。
二人は食い足りないと言って、露店などを回っている。
気晴らしをすこしでもしたいのだろう。
そんなわけで、幼馴染との会話で、やってくる眠気を撃退しようと考える。

「ねえアギト」

同じく眠たそうにしているアギトは、頭を掻いて応える。

「なんだ?」

「チュルムの気持ち、すごくわかる。もしも、私達が行かなかったことで誰かが…………」

「……行ったって意味はない。今でさえ精も根も使い果たしたような身体なんだ。仮に行けたとしても、なにもできない」

「それは解るんだよ。解る。でも、でもね。今日だってそうなんだ。私がもっと手際よく魔法を使えていたら、きっと沢山の人を助けられたかもしれない。私が極光魔法っていうのが使えたら、誰も傷つかないで戦いを終わらせてたかもしれない」

「ヒナ」

「だって私、魔力適正1000オーバーなんだよ? 能力があるのに、全然使いこなせない」

「それは思い上がりだ」

「解ってる! でも、でも、できたんだよ!! 頑張れば出来てた、勇気を出せばできてた! 私はいつもそうなの!!」

「…………」

「チュルムもリサにも申し訳がないよ……私は、卑怯ものだよ…………」

「……たく、おらよ」

俯く少女に、少年がため息混じりにデコピンを打ち込む。
ピンっとした痛みに、額を抑えて上げた。

「結局、どうしたかった?」

「…………みんな、助けたかった」

「そのためにお前は頑張った。それだけだ。それ以上は関係ない。頑張った。偉いぞ」

頭を撫でる。
帽子を取りあげて、優しくゆったりと。

「……ちょっと」

「褒めるよ。お前が自分をなんと言おうとも」

「…………」

「人間なんてそんな、何でもかんでもできるわけないんだ。そのなかでお前は人以上に頑張った。とても偉い。凄い」

「…………ん」

「感謝しろ。俺は滅多に人を褒めないらしいからな」

「…………そうだよ。アギトは他人なんてどうでも良いって思ってるって、よく言われるんだから」

そう言うとアギトは陽菜野を撫でながら、時折言葉を混じえて褒め称えた。
単なる慰めで、誤魔化しにすぎない。
それでも、彼女の心はとても満たされていた。

宿部屋へと入ったアギトと陽菜野は、そのままの格好でベッドへと倒れる。
シャワーを浴びる余力すらない。
満腹感に揺蕩って、ふんわりと夢の世界へと沈み混むのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...