61 / 84
第二章 勇者降臨
第五十六話 疲労と後悔
しおりを挟む「は?」
「え?」
遠藤夫妻が同じように大根キムチを取り皿へと落とす。双子のような動きに思わず笑ってしまう。涼香が横にいる大輝に目をやると、はにかんだ笑顔を見せる。
「大輝、お前──なんて……」
「いや、だから、俺たち……付き合ってます」
もう一度ゆっくりと言葉を紡ぐと、洋介も弘子もあんぐりと口が開いている。
二人は無言で抱き合いぎゅっと抱きしめ合う。悶絶しているのだろう……遠藤夫婦は声にならない声を上げる。
しばらくして弘子が涼香の方へと歩み寄り熱い抱擁する。それを見た洋介が立ち上がったところで大輝が「いや、俺はいい……」と洋介を止める。それでも洋介は聞こえないふりをして俺の元へとやってくると隣の女子たちに負けないような熱い抱擁をした。
「おい、もういいってば……暑苦しい! 野郎で抱き合うのはごめんだ。おい! 聞いてんのか洋介──」
洋介は泣いていた。
初めて見た、洋介が泣いている。俺には見えないが鼻をすすり、曇った声が聞こえた。
「良かったな……大輝、良かった良かった……」
「洋介……」
明るくていつも楽しげな男の涙は思いのほか心にくる。ただ、付き合ったと報告しただけなのに……ただ、それだけなのに俺たちのために泣いてくれている。それが、嬉しい。
隣を見ると弘子ちゃんも泣いている。涼香も同じように泣いている。
なんだ? 涙涙だ……。
おめでとう、乾杯! やったな! ようやくか!
そう言われて終わるとばかり思っていたのだが、この二人には随分と心配をかけさせてしまったようだ。俺は洋介の肩を叩く。涙がつられて出てしまわぬ様に洋介から視線を外す。
「これからだって。色々とありがとな」
「……おう、とりあえずお前ここ奢れ」
「……は?」
隣の弘子は抱擁が終わり目尻をぬぐいながら席へと戻っている。
「嬉しいわ、大輝くんの奢りだなんて……洋介、あんた確か胃薬持ってたわよね? 私にちょうだい」
夫婦は胃薬を口に含むと湯飲みの茶を飲み干した。本気だ、この似た者夫婦……胃袋の崩壊を恐れていない。
「よし、飲むか……」
大輝は諦めたように笑うとビールを傾けた。涼香も楽しそうに体を左右に揺らしながらジョッキを傾けた。
「えーでは、浜崎大輝くんと木村涼香さんの交際を祝いましょう、カンパーイ!!」
洋介がとんでもない音量で乾杯の音頭をとる。隣にいた会社員もつられてグラスを持ち上げて祝ってくれた。
幸せだった。みんな笑顔で酒を飲んだ。洋介や弘子の友情に胸が熱くなった。大輝や涼香の愛おしい思いに胸が焦がれた。
こんなに幸せを感じながら酒を飲める日が来るなんてあの時は思えなかった。
酒を飲む理由が、変わった。
希……俺、幸せだ。だから、もう心配すんな。いい人たちに囲まれて、俺はもう大丈夫だから。
「え?」
遠藤夫妻が同じように大根キムチを取り皿へと落とす。双子のような動きに思わず笑ってしまう。涼香が横にいる大輝に目をやると、はにかんだ笑顔を見せる。
「大輝、お前──なんて……」
「いや、だから、俺たち……付き合ってます」
もう一度ゆっくりと言葉を紡ぐと、洋介も弘子もあんぐりと口が開いている。
二人は無言で抱き合いぎゅっと抱きしめ合う。悶絶しているのだろう……遠藤夫婦は声にならない声を上げる。
しばらくして弘子が涼香の方へと歩み寄り熱い抱擁する。それを見た洋介が立ち上がったところで大輝が「いや、俺はいい……」と洋介を止める。それでも洋介は聞こえないふりをして俺の元へとやってくると隣の女子たちに負けないような熱い抱擁をした。
「おい、もういいってば……暑苦しい! 野郎で抱き合うのはごめんだ。おい! 聞いてんのか洋介──」
洋介は泣いていた。
初めて見た、洋介が泣いている。俺には見えないが鼻をすすり、曇った声が聞こえた。
「良かったな……大輝、良かった良かった……」
「洋介……」
明るくていつも楽しげな男の涙は思いのほか心にくる。ただ、付き合ったと報告しただけなのに……ただ、それだけなのに俺たちのために泣いてくれている。それが、嬉しい。
隣を見ると弘子ちゃんも泣いている。涼香も同じように泣いている。
なんだ? 涙涙だ……。
おめでとう、乾杯! やったな! ようやくか!
そう言われて終わるとばかり思っていたのだが、この二人には随分と心配をかけさせてしまったようだ。俺は洋介の肩を叩く。涙がつられて出てしまわぬ様に洋介から視線を外す。
「これからだって。色々とありがとな」
「……おう、とりあえずお前ここ奢れ」
「……は?」
隣の弘子は抱擁が終わり目尻をぬぐいながら席へと戻っている。
「嬉しいわ、大輝くんの奢りだなんて……洋介、あんた確か胃薬持ってたわよね? 私にちょうだい」
夫婦は胃薬を口に含むと湯飲みの茶を飲み干した。本気だ、この似た者夫婦……胃袋の崩壊を恐れていない。
「よし、飲むか……」
大輝は諦めたように笑うとビールを傾けた。涼香も楽しそうに体を左右に揺らしながらジョッキを傾けた。
「えーでは、浜崎大輝くんと木村涼香さんの交際を祝いましょう、カンパーイ!!」
洋介がとんでもない音量で乾杯の音頭をとる。隣にいた会社員もつられてグラスを持ち上げて祝ってくれた。
幸せだった。みんな笑顔で酒を飲んだ。洋介や弘子の友情に胸が熱くなった。大輝や涼香の愛おしい思いに胸が焦がれた。
こんなに幸せを感じながら酒を飲める日が来るなんてあの時は思えなかった。
酒を飲む理由が、変わった。
希……俺、幸せだ。だから、もう心配すんな。いい人たちに囲まれて、俺はもう大丈夫だから。
11
お気に入りに追加
683
あなたにおすすめの小説

魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
小説家になろうでジャンル別日間ランキング入り!
世界最強の剣聖――エルフォ・エルドエルは戦場で死に、なんと赤子に転生してしまう。
美少女のように見える少年――アル・バーナモントに転生した彼の身体には、一切の魔力が宿っていなかった。
忌み子として家族からも見捨てられ、地元の有力貴族へ売られるアル。
そこでひどい仕打ちを受けることになる。
しかし自力で貴族の屋敷を脱出し、なんとか森へ逃れることに成功する。
魔力ゼロのアルであったが、剣聖として磨いた剣の腕だけは、転生しても健在であった。
彼はその剣の技術を駆使して、ゴブリンや盗賊を次々にやっつけ、とある村を救うことになる。
感謝されたアルは、ミュレットという少女とその母ミレーユと共に、新たな生活を手に入れる。
深く愛され、本当の家族を知ることになるのだ。
一方で、アルを追いだした実家の面々は、だんだんと歯車が狂い始める。
さらに、アルを捕えていた貴族、カイベルヘルト家も例外ではなかった。
彼らはどん底へと沈んでいく……。
フルタイトル《文字数の関係でアルファポリスでは略してます》
魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります~父が老弱して家が潰れそうなので戻ってこいと言われてももう遅い~新しい家族と幸せに暮らしてます
こちらの作品は「小説家になろう」にて先行して公開された内容を転載したものです。
こちらの作品は「小説家になろう」さま「カクヨム」さま「アルファポリス」さまに同時掲載させていただいております。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

スキルガチャで異世界を冒険しよう
つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。
それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。
しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。
お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。
そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。
少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる