追放された荷物持ち~魔法は使えないけど、最強剣術で冒険者SSSランク!?完全回復魔法が使える幼馴染は一緒についてきてくれるそうです~

柳原猫乃助

文字の大きさ
上 下
56 / 84
第二章 勇者降臨

第五十一話 雑談

しおりを挟む
夜になり、宿に戻ったアギトと陽菜野。
なんだか大変なことが起きた。
という空気だけは解った二人だが、知的に理解している陽菜野の方はやや深刻そうな表情だった。

「はぁ、これから大変になるんだろうなー」

「そうなのか」

「そうだよ、少しは解ってる?」

「解っているつもり」

「本当かなぁ……」

懐疑的な彼女に、アギトは気にせず部屋の扉の鍵をあけて入る。
すぐ見える位置に置かれてある卵に変化はない。

「数日経ったがまだ産まれないか。本当にあれでいいのか?」

「いいんだよあれで。とりあえずシャワー先に入るからねー」

そういってシャワールームへと入る陽菜野を見送り、キラキラした宝石と見紛うほどの卵をすこしだけ観察し、すぐさま興味をラジオ番組に移した。
スイッチを入れて、チャンネルを合わせる。
対応した魔導音波を受信し、ポップなオープニングBGMにあわせて、メインキャストが語り始めた。

『はぁーい♪ 今晩はっ、リクシィです♪ 国連制定時間21:00になりました♪ 今夜も面白おかしいお話に、どうか付き合ってください♪ それではタイトルコール! ”ザ・ミドルナイトタイム”』

と同時に、玄関の扉がノックされる。
椅子に座りかけていたアギトだが、とりあえず応対する為向かい、開く。
そこにいたのはブリッツとシバだった。
学友の方は片手に菓子と飲み物が入っている袋を差し出しながら、スナイパー冒険者の方は付き合わされている感を醸し出している。

「よっ、暇だから来たぜ」

「…………シバ、嫌なら付き合わなくてもいいんだからな」

ガチムチをスルーしつつ、相対的にこじんまりとしている犬耳娘は首を横にふった。

「いえ、迷惑ではありませんので」

「そうか」

なんとなく似ているような、似ていないような二人だが、対応の扱いになれているブリッツはそのまま部屋の奥へと進んでいく。
部屋主の許可位取らないのか?
そう言いたげなシバ。
それにアギトは視線で応えた。
いつものことだ。

「おおっ、ドラゴンの卵よ。今日も大して変わらんなぁ」

呑気な台詞を聞いて、アギトは頭をかきながらシバも向かいいれる。
部屋の中央にテーブルをもってきて、押し入れからは折り畳み式の椅子を二つ用意された。
それに座るシバとブリッツ。
早速筋肉冒険者が袋の菓子を広げつつ、皆で遊べるボードゲームを道具袋から取り出した。
その間にも番組は流れる。

『____ではここでラジオネーム、貴公子のポエニストさんからのコメントです♪ こんにちわリクシィ様、”ザ・ミドルナイトタイム”いつも楽しく拝聴しています。こちらこそ、いつもご丁寧な挨拶、ありがとうございます♪ 最近仕事を変えたのですが、そこで一緒になった同僚が背中から胸に手を伸ばして____』

「んー、”ザ・ミドルナイトタイム”のリクシィの声はまるで天使だぜ…………荒んだ異世界では唯一無二のオアシスボイスだな」

「なにを言っているのかさっぱりですが、クサナギさんもこのような女性の声が好きなんですか?」

そう問われながら座るアギト。
即答する。

「別に。ただこの時間帯に定期的にやっている番組がこれだけなんだ。あとは音楽番組かニュースばかりで、正直退屈なんだよ」

「なるほど。どうやらクサナギさんは、この筋肉達磨よりは信頼できそうな人なんだと、再認識しました」

と言われると、ブリッツは訴える。

「シバぁ! お前は男のなんたるかを知るべき必要がある! 娼館に言っただけで簡単に女の敵認定してくるなんて、酷すぎると! 女の声を褒め称えただけで、変態扱いされるとか最悪だと!」

「…………初めて得た報酬金で、安い娼婦を買いに行ったなんて、最悪以下です。クサナギさんはそのような場所に行きませんよね?」

なんともタイムリーな話題だった。
すでに過ぎ去って数日とは言え、娼館に行った事実を思い出す。
何一つ楽しくなかったことは間違いないし、娼婦を買いたいとも積極的には思わなかった。
であるならば、無論、答えは決まっている。
事実はどうであれ、乗りきれるほど自然な心意気で。

「行かな」

「行ったよねー。アギトもー。えっちなお店にー」

背後から死刑宣告のノリで、陽菜野がそう言った。
その瞬間の悪寒は、アギトが生涯一度も感じなかったほど寒かったという。
相反して、燃え盛るように勢いを増した奴が立ち上がった。
無論、ブリッツである。

「おおっ!! アギト行ったのかぁ!!」

「あ、いや、それは」

誤魔化そうと立ち上がるが、陽菜野の勢いはそれを許さない。

「おまけに、二階に上がって、女の人と素敵なことをしたんでしょ?」

「な、なんだってぇ!!?」

悪友の本気で驚いている姿を久方ぶりに見たと思いつつ、冷ややかな笑みと失望の眼差しを向けられていることに、アギトは弁明を試みた。

「違う、これには深いわけが、その……確かに行ったは行った。だが別に俺は行きたかったわけじゃない。仕方なかったんだ」

されど、それは逆風となって、シバのアギト評価を下げるだけだった。
陽菜野と二人で寄り添い、こそこそと喋り始める。

「…………やっぱりクサナギさんも男なんですね…………不潔です、最低です…………」

「…………そうなんだよ。アギトは悪い事をするとすぐバレる嘘ばっかり…………」

最早どうにもならない、しばらく陽菜野の攻勢に耐えるしかなかった。
唯一の救いは、あの時とは違い、同情と尊敬の意をもつ奴が隣にいるのとだけである。

「解るぜアギト……お前、大人になりたかったんだよな。オレもそうなんだぜ?」

「……………………」

同情するな、気持ち悪い。
と言わなかったのは、彼が精神的な意味合いで大人だったからかもしれない。

しばらく三人はアギトを弄り倒して、とりあえずの釈明を陽菜野からいれてやり、なんとなく空気を入れ換えた。

「それにしても、お二人は幼馴染だと聞きましたが」

アギトと陽菜野が頷き、シバは周囲を改めて見回し、続けた。

「…………同棲しているんですね」

「まあ」「そうだね」

互いに顔を合わせて応えると、シバの表情は素朴な疑問を浮かべた。

「お付き合いされている?」

「違う」「付き合ってないよ」

「はあ…………」

その言葉に、ブリッツはニヤニヤと笑った。
初対面の時にも、自分も同じようなことを考えていたからだ。
筋肉の笑みに嫌悪感を示しつつ、更に続けた。

「では、その、性的な経験は?」

「「あるわけないでしょ」」

ほぼ二人同時の回答であることと、その内容にシバの思考は大いに狂った。

「そんな、お二人ほどのお年頃ならすでにここは、愛の巣と言っても過言ではないかと」

「シバちゃん。それ以上は止めようか?」

「あ、はい。すみません、踏み込みすぎました」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

異端の紅赤マギ

みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】 --------------------------------------------- その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。 いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。 それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。 「ここは異世界だ!!」 退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。 「冒険者なんて職業は存在しない!?」 「俺には魔力が無い!?」 これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・ --------------------------------------------------------------------------- 「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。 また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・ ★次章執筆大幅に遅れています。 ★なんやかんやありまして...

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

ギフト争奪戦に乗り遅れたら、ラストワン賞で最強スキルを手に入れた

みももも
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたイツキは異空間でギフトの争奪戦に巻き込まれてしまう。 争奪戦に積極的に参加できなかったイツキは最後に残された余り物の最弱ギフトを選ぶことになってしまうが、イツキがギフトを手にしたその瞬間、イツキ一人が残された異空間に謎のファンファーレが鳴り響く。 イツキが手にしたのは誰にも選ばれることのなかった最弱ギフト。 そしてそれと、もう一つ……。

処理中です...