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第二章 勇者降臨

第五十話 転換

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「…………あら?」

暗い洞窟の奥底にある拠点。
そこでは幾多の魔導装置が存在し、まるで現代の化学研究室の様相を見せていた。

装置の数値をみていた金原礼華が、帰還した佐藤史郎と、ボロボロになって引きずられていたリーデシアへと視線を向ける。

「その様子だと、やりあった見たいわね。例のあいつに」

「ええ。なかなか手強かったですよ。まさかデッキが四つも使い果たしたにも関わらず、互いにトドメを指しきれなかったんですから」

「そこのゴミは?」

「まだ使えますからね。治癒してどうにかしましょう」

雑に治癒された右腕は痛々しいが、それを気にするものはいない。
ゴミという呼称に合わせたような扱いで、リーデシアを蹴り飛ばして放置すると、同じく帰還してきたカリンが現場を目撃する。

「なにをしているんですか?」

「おや戻りました。なにをって、あなた方の仲間を労っているのですよ。全く、素材収集中に見つかって」

「リーデシアさんを囮にする作戦で、必ず彼女を守ってみせると、豪語したはずですよね。私に嘘をついた、ということですか」

「いえいえ、守ったでしょ。命は」

地面を蹴り、飛び出すカリン。
その速さは、尋常ではない。
風を巻き起こす疾走とともに、変形した右腕の手刀が佐藤に襲い掛かる。

しかし、その一撃が佐藤には届かない。
間を割り込んだそれは、トランプから出現した、一騎のナイトである。
赤と黒の甲冑に身を包んで、白刃にて怪異な腕を受け止めていた。

「落ち着いてくださいよ。無駄に労力を使うことは推奨できません」

「黙れ化け物どもが!!」

「今のあなたが言えることですか?」

「黙れ黙れ!! 私に、口答えするなぁ!!」

やれやれと、会話がろくにできない相手に辟易を隠せない佐藤に、金原が助け船をだす。

「まあまあ。ここで仲間同士いがみ合っても仕方ないでしょう。どうか”穏便”に」

「………………”ちっ、あなたがそう言うのであれば仕方ないでしょう”」

カリンは退くと、彼女の後ろにいたエレーミアが驚きを隠せず周囲を見回しながらやってきた。

「なにが、なんだか」

それを歓迎するべく、金原は前に出た。
娼婦が纏うような布面積が少ない衣装姿で、場違いに等しい格好である。
最も、そう思うエレーミアは、ボロボロな社交会用のドレスだが。

「ようこそ、新たなる勇者の城へ」

「………………お前、これはどういう」

「不安になるのも頷けます。しかしながら”私の言葉を聞いてほしいのです”」

「………………”ああ”」

疑問を抱くエレーミアはとりあえず言葉にしたがって、金原の話に耳を傾ける。

「実は大変な事実が判明しました。勇者様が囚われた件について」

「なんだと?」

「”これらは全て帝国の、ひいてはあの荷物持ち達の、策略によって引き起こされたのです”」

その説明の熱弁に、佐藤史郎は愉しげに微笑んでいた。



@@@@@@



夕方、デリアドではクリュクラーマ平原の出来事と、その負傷者救助で騒々しくざわめいていた。
襲撃があったにも関わらず、それを食い止めることも、守ることもできなかった冒険者への批判。
そもそも襲撃の目的がなんだったのかという疑問。
最近発生している魔獣の大量出現と関係の妄想。
様々な憶測や推察、事実確認が進んでいくなかで、着実に進んでいたのは負傷者の救命活動だけだった。

一方、冒険者ギルドデリアド支部では、所属している全冒険者の緊急招集がかけられていた。
酒場に入りきらず、玄関手前まで集まった彼等に向かってボボネルが説明を始める。

「まずは緊急招集に応じてくれて、皆ありがとう。早速だが状況について説明する。昼頃起きたとされるクリュクラーマ平原での襲撃は、調査の結果、魔獣の襲撃と判明された。巷で噂されている合成魔獣だ」

どよめく冒険者達に、ギルドマスターたる彼は続けた。

「この魔獣は非常に狂暴であり、またそれなりの力をもっているとされる。にもかかわらず全体像が不明かくで、どのような種類であるのかも全くもって解らない状況だ。また、当該魔獣の出現こそが、最近皆を圧迫している討伐依頼の発生原因であると、同じく判明した」

なるほど、やはりそうか。
そんな言葉が冒険者達の間で交わされる。

「従って、デリアド支部としてはこれら魔獣の殲滅の為、該当討伐依頼を以後モンスター・スタンピードとして認定。ならびに、全冒険者のよる掃討作戦を実施すると決定した」

モンスター・スタンピード。
その単語は冒険者達に戦慄が走る。

人界に埋もれていたアギトは、合流した陽菜野にモンスター・スタンピードについて聞いていた。
彼女はやや呆れた声で答える。

「冒険者協定……講習で貰った本にあったでしょ?」

「忘れた」

「………………一部地域にて魔獣が過剰かつ異常に繁殖した際に、冒険者はそれらの対応のため、ギルド側が無条件で討伐依頼を指示するって言うやつ」

「ふーん」

「他人事みたいに言っちゃって……」

そんなアギトを考慮されることなく、ボボネルの言葉が続く。

「内訳として、ランクD以下はスバーリック平野全域。ランクC以上の冒険者はシュルミード山脈全域を担当する。実施は三日後。例年の自然分布までは狩り尽くすつもりだ。皆の尽力に期待したい」

「しつもーん」

手を上げたのはセシルだった。
ボボネルが話を締めようとするのを、故意か偶然か遮る形になった。

「なにか?」

「いや、襲撃があったのはクリュクラーマ平原だろ? ならば、スバーリック平野だけでなくて、そっちも見なきゃいけないんじゃないか?」

「その点は問題ない。襲撃した魔獣はシュルミード山脈方面へと引き上げたそうだ」

「………………へぇ」

腕組みをし、なんとなく深読むセシルだが、更に質問を重ねる。

「もう一つあるんだけど、襲撃した魔獣……人そっくりな形だったと聞いたんだが?」

「それは、誰から聞いた?」

「ブリッツだよ。そこにいる筋肉もりもりマッチョマンの変態だ」

視線を向けられると照れるようにするブリッツ。
隣にいたシバが脇腹をつつくが、あえて気にしないようだ。
ボボネルはティーシャからクリュクラーマ平原で護衛としていた冒険者と聞くと、少し考えてから答える。

「その情報は現在調査中だ。人影が、見えただけですよね?」

「……………ん? オレ? ああ、人影が見えただけだ」

「あとで貴重な情報源として、詳しく聞かせてください。話は以上。では改めて、これにて締めたいと思う。『誇りある自由と護るべき正義のために』では」

ボボネルの言葉は最後、足早な感じで終わったと言う。
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