追放された荷物持ち~魔法は使えないけど、最強剣術で冒険者SSSランク!?完全回復魔法が使える幼馴染は一緒についてきてくれるそうです~

柳原猫乃助

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第二章 勇者降臨

第四十九話 状況判断

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日が傾き始めた頃。
シュルミード山脈の周辺にある森、ジャローデックの森にて、一人の魔法士が走っていた。
何かからの追跡を逃れようと、必死に道なき道をかけ進むのは、かつて勇者パーティーのメンバーだったリーデシアある。
起動した罠魔法と、お手製の合成魔獣をばらまきながら進み続ける彼女が逃げなくてはならぬ理由。
それは明確にあった。

「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ!」

息も絶え絶えだが、止まることはできない。
あれだけの備えだが、それもどこまで持つのか。
追跡者の腕前を否が応にも知っている。
そして、ここでそれに捕まるわけに行かないということも。

小川を飛び越えて、ようやく見えなくなったかと思った、その時だった。

「お疲れ様です、リーデシアさん」

「なっ!?」

後ろにいて幾多の迎撃に追われているだろうと思った追跡者が、なんとも無さそうに、平然と目の前に現れたのだ。
冒険者、コウサカ=ミヤビが。

「どうして逃げるんですか? 私はただ、あなたとお話がしたいだけなんです」

「…………無口な、もので」

ブレスレットに魔力を込めて、攻撃魔法の用意。
しかしそれを無視するかのように、ミヤビが続ける。

「ご心配は入りません。なにも、あなたの自己意識から聞き出そうとは思ってないので」

「なに……」

「最悪脳みそだけでも回収できればいいですからね。そんなことをする前に、私は平和的対処法をおすすめしているんです」

「…………冒険者協会の犬がっ!!」

「そんな酷いことを言わないでください。歩み寄りはなによりも必要ですよ?」

言葉の応酬の代わりに、リーデシアの攻撃魔法が放たれる。
無詠唱による即効起動型の単純な圧縮魔力の投擲は、着弾と同時に爆発した。
それなりの破壊力をもつ、単純崩壊魔法の一撃はさすがにただではすまないだろうと安堵する。

だが、ミヤビは無傷だった。
黒煙と土煙を掻き分けて、彼女は微笑み続けた。

「無駄な抵抗はやめて、大人しくしてくれませんか?」

「っっ!! この、化け物があ!!」

慟哭に近い叫び声とともに、第二撃を放とうとするが、どうしてか腕が上がらない。
魔力は流れず、あった筈のそれが、なぜか地面に転がっていた。
ミヤビの右手には、いつの間にか長剣が握られており、その刃にはベットリと血がついている。
すなわち、一瞬のうちに、リーデシアは右腕を切り落とされていた。
結果を知覚すると、言葉にしにくい激痛が彼女に襲い掛かる。

「ああああっっ!!」

「…………叫ぶだけは一丁前だな。この面倒なメス豚が」

「きさ、ぐはぁっ!?」

傷口を押さえ、治癒魔法で止血したリーデシアに、激しく口調を変えたミヤビは蹴りで転がした。
軽そうにみえるそれは、魔法士の脳みそに響く。

「ぎゃーぎゃー五月蝿いんだよ。いいから黙って応えろ。てめぇみたいな奴に出きることはそれだけだ」

「ぐ、うぅぅあぁあ!!」

リーデシアの眼前に、殺意に強く満ち足りた長剣が突き立てられる。

「これからゲームをしよう。ルールは簡単。こちらの質問にそちらが答えるだけ。黙っていたらこのまま眼球を割く。理解できた?」

「畜生!! 腐れ冒険者がぁあ!!」

「問一、拠点はどこだ?」

「だ、だれが」

光が走り、リーデシアの両目が両断される。

「ぎゃああああ!!!!」

「拠点はどこだ?」

「ぐ、ああああ!! こ、答えるものか!! 全てはドラニコスの為!! 愛しい人のため、ぐおっ!?」

顎が掴まれた。
それだけが解り、あとは何かを流し込まれる。
無理矢理嚥下させられたそれは、瞬く間にリーデシアの全身を蝕んだ。
試作段階の自白剤で、ミヤビはこれをなるべく使いたくなかった。
まともに会話ができなくなるからだ。

「あっっ!! がっ!! ぎゃっっ!? ああああっっ!!」

リーデシアは電気に痺れたように痙攣し、数分後一気に脱力する。

「拠点はどこだ?」

「………………きょてんは、ぁあ……」

「どこだ?」

「………………シュルミード、山脈の、かいどうから……はなれた…………ばしょ…………どうくつ、さむくて……くらい……」

「具体的には?」

「あぁぁあぁ、そこで、わたし、かりんを…………あぁ…………ごめ、さい…………かりん、ごめん…………ゆるしでぇ…………」

「具体的に答え」

問いかけたその瞬間、強烈な殺気を感じたミヤビは、素早くその場から退く。
自分が居た場所に、トランプカードがナイフのように地面へと突き刺さる。
あのままいたら、間違いなくバラバラになっていただろう。

「…………何者ですか?」

森林の影から、攻撃者は姿を表した。
何処にでも居そうな、何一つ変哲もない黒髪の青年で、礼服じみた立派な衣装に身を包んでいる。
頭にはシルクハットを被り、それを手にとって、ミヤビへと頭を下げた。

「これは初めまして。コウサカ=ミヤビさん。うちの負け犬が世話になりました。僕の名は佐藤史郎。あなた方が追ってくださっている者の1人です」

「ご丁寧なご挨拶どうもありがとうございます。早速ですが、いくつかの質問があります。しかしながらお前をみていると吐き気がして嫌になるんで、今からぶち殺しますね」

左手で短刀を抜刀し、右手の長剣を逆手で握る。
そんな独特な構えかたをしながら、ミヤビの明確な殺意が佐藤史郎と名乗った人物に向けられた。
されど彼は平然としている。
シルクハットを被り直し、手元にはトランプを広げた。

「まったく、あなた方がと来たら……血気盛ん、勇猛果敢は結構ですが、少々大袈裟では?」

「心配ない。そいつに飲ませたもん、お前にも飲ませてやりますから」

「なるほど。では頑張って抵抗いたすことにしましょう」

そうして、両者の激闘が始まった。
斬撃の一つが木々を吹き飛ばし、トランプの投擲が大地と岩を抉る、そんな壮絶な闘いをだ。
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