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第二章 勇者降臨
第四十五話 討伐依頼
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夕暮れ。
結局アギト達は討伐依頼の数個を担当し、二人組を作り、手分けして効率的に解決した。
報酬金は少ないが、一度に複数の依頼を受けることが可能であるためか、流れ作業に近い。
倒した魔獣から討伐証明になる部位を切り取り、それを専用の道具袋に入れ込む。
もうすでに許容量をこえかけていた。
「ヒナ、こっちは終わった」
「こっちもオッケー」
「よし、帰るか」
スバーリック平野は赤く染まり、靡く草花からやってきた風はやや冷たさを持つようになった。
秋模様はもうすぐで、点在する雑木の葉が紅葉しているものもある。
「もう少しで秋かぁー」
「だな。一年以内に誰かを見つけれてよかった」
「うん。ブリッツくんは異世界でも相変わらずだったね」
「…………そうだな」
アギトはそう応えたが、恐らくブリッツはブリッツで、相当な修羅場をくぐったのは違いなかった。
魔獣との戦いに淀みはなく、命を奪っている感触にも、どこか馴れたというような雰囲気があった。
陽菜野もそれは解っていた。
だがあえてそう言いたかった。
昔と変わらない。
元の世界の頃と変わらない相手。
そういてくれと願うように。
しばらく歩いていると、ブリッツとリティアの二人組と合流する。
「よう、そっちは」
「見ての通りだぜ」
ブリッツの両手には、パンパンになった道具袋が二つあった。
結構な量を殺りきれたのは違いない。
「格闘家と一緒に仕事をするなんて久しぶりで、刺激的だった。感謝するよブリッツ」
「へへ、こっちもリティアさんみたいな素敵なお姉さんと仕事ができて最高だったぜ。よかったから今夜オレの部屋に」
「こいつ、よく調子に乗るな」
いつもの事だ。
そう言わんばかりのアギトは首を横に振って歩き出した。
ギルドで報告と報酬金の受け渡しを行う。
受付嬢ティーシャが応対するが、彼女はやや疲れている。
朝から沢山ある依頼の受注処理に勤しんだのだからそれはそうだろうが、それだけではなさそうだった。
「はぁ……聞いてよ。また討伐依頼が山ほど来ているんだって」
「そうなのか。最近多いな」
金を受けとりながらそう言うと、ティーシャは続ける。
「ちょっとばかし異常よ。繁殖期にはまだまだなのに……」
「そうか……異常ね……異常と言えば、あの合成魔獣の件はどうなった?」
「さあ? 遺体は協会本部の連中が持っていったし。そんなことよりもこの状況をどうにかして欲しいわ」
彼女の興味はすでに、目の前の激務にしかなかったらしい。
アギトもふと思い出しただけのものに、さほど続ける気もなかった。
酒場はバザールの護衛だったフリーランス冒険者達で埋まっており、あえなく宿へと戻ることになった。
リティアとはそこで別れ、ブリッツは宿を見つけるためにもついていく。
「と、ちょいとまってくれ」
ギルドから出ようとした時、ブリッツが酒場のカウンター席で、一人ぽつんとしている冒険者に声をかけた。
犬耳を生やした少女で、馴れ親しんでいるような会話の調子に、なるほどフリーランス同士の仲間なのだと二人は理解する。
そんな犬耳の彼女を連れて、ブリッツが戻ってくる。
「お待たせ、紹介するよ。こいつがオルフェリア王国で一緒に冒険者やってきた相棒のシバだ。シバ、こいつらが前に教えた元の世界の友人達だぜ」
シバと呼ばれた彼女は、秋田犬の耳を僅かに動かし、ふさふさな尻尾も僅かに揺らした。
陽菜野よりはあるが、平均から少し小さい背丈で、童顔の顔立ちはじっとりとした目付きを和らげている。
コンバットジャケットに半ズボンで、肩にはフード付きのマントを羽織るというスタイル。
背中には彼女の武器である、大口径なライフルが吊られていた。
茶色の瞳をホワイトクリームカラーの前髪から覗き込んで、アギトと陽菜野を見る。
「初めまして。シバです。ブリッツとはよく仕事をしているだけの仲です」
「……シバよ、何度言ったらわかる。オレ達はいわば運命共同体。すなわち義兄弟とも言える程の仲だと! そのあり得ないほどのEカップな巨乳におしえ」
ガンっ!!
強い金属音が、ブリッツの頭から響いた。
力説している彼の後頭部に、シバがライフルのストックでぶん殴ったのだ。
言いかけた言葉中断されたが、アギトの視線は自然にシバの胸元へと向かう。
仕方ない、それは男だからだ。
シバは外見上、素早く男女の見分けがつかない格好をしている。
しかし、それでも彼女が女であると解るのは、胸部にぶら下がっている二つの実りの存在感故であった。
「アギト、どこ見ているのかな?」
ぞくっ、と、陽菜野からの声にアギトは驚く。
知的好奇心から見てしまったが、確かにデカイ。
「……すいませんでした」
「うん、すぐ謝れて偉いね。一緒にすんでいる奴が持ってないからしょうがないけど」
乳に関して、陽菜野の執着心は侮れない。
なんにせよ、話題を先に進ませなくては。
「ごほん、ブリッツが世話になった。俺は草薙アギト。こっちは朝霧陽菜野だ」
「知っている」
「え?」
「勇者追放騒ぎの被害者。新聞はブリッツより読んでいるから」
なるほど。
だからブリッツは俺達の事を知らず、ここに来たのか。
納得するアギトだが、その覚えられ方はあまり心地の良い物ではない。
「あんまりその件には」
「解ってる。触れないでおく」
「助かる。それでお前も宿を探しているのか?」
「ブリッツのツテは信用ならなかったけど、あなた達なら信用できる。早速案内してもらいたい」
「ああ、じゃあ行くか」
一行はそうして出発した。
「ちょっとまて!! オレの事を忘れるなよぉ!!」
「ちっ」
倒れていたブリッツを連れて。
結局アギト達は討伐依頼の数個を担当し、二人組を作り、手分けして効率的に解決した。
報酬金は少ないが、一度に複数の依頼を受けることが可能であるためか、流れ作業に近い。
倒した魔獣から討伐証明になる部位を切り取り、それを専用の道具袋に入れ込む。
もうすでに許容量をこえかけていた。
「ヒナ、こっちは終わった」
「こっちもオッケー」
「よし、帰るか」
スバーリック平野は赤く染まり、靡く草花からやってきた風はやや冷たさを持つようになった。
秋模様はもうすぐで、点在する雑木の葉が紅葉しているものもある。
「もう少しで秋かぁー」
「だな。一年以内に誰かを見つけれてよかった」
「うん。ブリッツくんは異世界でも相変わらずだったね」
「…………そうだな」
アギトはそう応えたが、恐らくブリッツはブリッツで、相当な修羅場をくぐったのは違いなかった。
魔獣との戦いに淀みはなく、命を奪っている感触にも、どこか馴れたというような雰囲気があった。
陽菜野もそれは解っていた。
だがあえてそう言いたかった。
昔と変わらない。
元の世界の頃と変わらない相手。
そういてくれと願うように。
しばらく歩いていると、ブリッツとリティアの二人組と合流する。
「よう、そっちは」
「見ての通りだぜ」
ブリッツの両手には、パンパンになった道具袋が二つあった。
結構な量を殺りきれたのは違いない。
「格闘家と一緒に仕事をするなんて久しぶりで、刺激的だった。感謝するよブリッツ」
「へへ、こっちもリティアさんみたいな素敵なお姉さんと仕事ができて最高だったぜ。よかったから今夜オレの部屋に」
「こいつ、よく調子に乗るな」
いつもの事だ。
そう言わんばかりのアギトは首を横に振って歩き出した。
ギルドで報告と報酬金の受け渡しを行う。
受付嬢ティーシャが応対するが、彼女はやや疲れている。
朝から沢山ある依頼の受注処理に勤しんだのだからそれはそうだろうが、それだけではなさそうだった。
「はぁ……聞いてよ。また討伐依頼が山ほど来ているんだって」
「そうなのか。最近多いな」
金を受けとりながらそう言うと、ティーシャは続ける。
「ちょっとばかし異常よ。繁殖期にはまだまだなのに……」
「そうか……異常ね……異常と言えば、あの合成魔獣の件はどうなった?」
「さあ? 遺体は協会本部の連中が持っていったし。そんなことよりもこの状況をどうにかして欲しいわ」
彼女の興味はすでに、目の前の激務にしかなかったらしい。
アギトもふと思い出しただけのものに、さほど続ける気もなかった。
酒場はバザールの護衛だったフリーランス冒険者達で埋まっており、あえなく宿へと戻ることになった。
リティアとはそこで別れ、ブリッツは宿を見つけるためにもついていく。
「と、ちょいとまってくれ」
ギルドから出ようとした時、ブリッツが酒場のカウンター席で、一人ぽつんとしている冒険者に声をかけた。
犬耳を生やした少女で、馴れ親しんでいるような会話の調子に、なるほどフリーランス同士の仲間なのだと二人は理解する。
そんな犬耳の彼女を連れて、ブリッツが戻ってくる。
「お待たせ、紹介するよ。こいつがオルフェリア王国で一緒に冒険者やってきた相棒のシバだ。シバ、こいつらが前に教えた元の世界の友人達だぜ」
シバと呼ばれた彼女は、秋田犬の耳を僅かに動かし、ふさふさな尻尾も僅かに揺らした。
陽菜野よりはあるが、平均から少し小さい背丈で、童顔の顔立ちはじっとりとした目付きを和らげている。
コンバットジャケットに半ズボンで、肩にはフード付きのマントを羽織るというスタイル。
背中には彼女の武器である、大口径なライフルが吊られていた。
茶色の瞳をホワイトクリームカラーの前髪から覗き込んで、アギトと陽菜野を見る。
「初めまして。シバです。ブリッツとはよく仕事をしているだけの仲です」
「……シバよ、何度言ったらわかる。オレ達はいわば運命共同体。すなわち義兄弟とも言える程の仲だと! そのあり得ないほどのEカップな巨乳におしえ」
ガンっ!!
強い金属音が、ブリッツの頭から響いた。
力説している彼の後頭部に、シバがライフルのストックでぶん殴ったのだ。
言いかけた言葉中断されたが、アギトの視線は自然にシバの胸元へと向かう。
仕方ない、それは男だからだ。
シバは外見上、素早く男女の見分けがつかない格好をしている。
しかし、それでも彼女が女であると解るのは、胸部にぶら下がっている二つの実りの存在感故であった。
「アギト、どこ見ているのかな?」
ぞくっ、と、陽菜野からの声にアギトは驚く。
知的好奇心から見てしまったが、確かにデカイ。
「……すいませんでした」
「うん、すぐ謝れて偉いね。一緒にすんでいる奴が持ってないからしょうがないけど」
乳に関して、陽菜野の執着心は侮れない。
なんにせよ、話題を先に進ませなくては。
「ごほん、ブリッツが世話になった。俺は草薙アギト。こっちは朝霧陽菜野だ」
「知っている」
「え?」
「勇者追放騒ぎの被害者。新聞はブリッツより読んでいるから」
なるほど。
だからブリッツは俺達の事を知らず、ここに来たのか。
納得するアギトだが、その覚えられ方はあまり心地の良い物ではない。
「あんまりその件には」
「解ってる。触れないでおく」
「助かる。それでお前も宿を探しているのか?」
「ブリッツのツテは信用ならなかったけど、あなた達なら信用できる。早速案内してもらいたい」
「ああ、じゃあ行くか」
一行はそうして出発した。
「ちょっとまて!! オレの事を忘れるなよぉ!!」
「ちっ」
倒れていたブリッツを連れて。
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