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第二章 勇者降臨
第四十三話 カレーライスは万能食である
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夜。
アギト達の部屋には独特な匂いが充満していた。
それは日本における国民的な、味わい深いもの。
複数のスパイスによって辛みを内包し、特定の粉によって生じる濃厚なルーには、あらゆる食材がぶちこまれてその味わいを染み込ませる。
じゃが芋はとろけるまで煮込まれ、人参は絶妙な柔らかさと甘味を産み出す。
玉ねぎは水分と化し、豚肉は程度よく切られたものがルーを吸いとって旨味が増していた。
これぞ究極。
仕上げにバザールで購入した大和皇国産の米を炊いて、皿に盛りつけ煮込んだルーをかけて、完成。
「ついに……ついにこの時がきた。異世界に来てからというもの、恐らく一生かかっても食べる機会が無いだろうと確信した伝説かつ至高の一皿……俺はようやく、今日こいつと再開した!!」
「はいはい。食べるときにはきちんと座ってね」
「ヒナ、俺はこの日ほどお前が居て良かったと、思った日はない。とても感謝する。ありがとう」
「カレーライスぐらい、この世界でもアギトなら作れるよ。作り方覚えられれば」
「カレールーの元がなければ作れない」
「もー、まあいいや。とりあえず食べよ。カレーライスが久しぶりなのは本当なんだし」
「いただきます」
「いただきまーす」
二人はそうして、久しぶりに、本当に久しぶりにカレーライスを口にした。
「んー、美味しー。上手く作れて良かったー」
「………………」
「アギト?」
「これは…………最高だ」
「へ?」
「素晴らしいぞヒナ! 俺は今日という日を一生忘れない! カレーライス最高! カレーライス万歳!!」
カレーライスにがっつく、普段とはうって変わった幼馴染の状態に、陽菜野は久しくドン引きしていた。
「………………うわぁ……」
これからは定期的に作ってやらないといけないな。
夕食五食分の費用がかかっているので何度も作れるものじゃないが。
そう思いながら、アギト程のスピードではないが、陽菜野も皿を空にしていく。
十数分後、カレーは完全に鍋から消え去った。
お代わりを四杯近くしたアギトは、皿洗いをやっていると、陽菜野が例の卵を机の上においた。
「さて、ドラゴンの卵かぁ」
「クリスタルの塊にしか見えないが」
「よーくみると卵なんだよ」
「………………割ってみるか」
「その時は本気で怒るからね」
「解ってる。だがどうやって孵すんだ? つか、そもそもドラゴンって動物のカテゴリーに入れていいのか?」
「うん。ドラゴンにも色々と種類があってね。翼竜とか陸竜とか。で、孵し方はね」
「ああ」
「とりあえず自然と同じにしようかな。 野生のドラゴンは基本岩場に藁とか毛皮とかを集めて巣にするんだけど」
「それを再現してみると?」
「うん。毛布下に置いて、後は放置で」
「ほっといていいのか?」
「野ざらしにしても普通に孵るんだよ。ドラゴンって卵のときから強いんだねぇー」
「そういうものか」
そうして、ドラゴンの巣を模した……にしてはあまりにも粗雑なものに卵を置いて、二人はそれぞれ他のことをする。
アギトは木刀を手に取り外へ、陽菜野は今日買ってきた古本などを読み漁ることにした。
時は進み、夜は更けて、朝。
卵に変化はない。
それを見届けた二人はギルドへと向かう。
バザールは二日目を向かえていたが、盛り上がりは落ち込むことはなく、盛況であった。
それを横目にギルドに足を運ぶと、中ではすこし長めの行列ができていた。
「なんだこいつら」
軽く見回したアギトは、すぐに彼等がデリアド支部には見当たらない冒険者だと理解した。
「行商団の護衛をしていた冒険者だよ」
と、説明をしたのは魔法士リティアである。
「バザールの間暇だからな。フリーランスは身軽で良い分、宿代は割引がきかねぇし。必死ってことさ」
「そうなのか…………」
確かに、彼等は全員依頼書を手にしていて、契約を次々に結んでいる。
「これは一旦戻る方がいいかな?」
「…………そうだな。昼頃に顔を出して」
陽菜野の言葉に頷いて、踵を返しながら言いかけた時だった。
「おい、お前まさか、アギト……草薙アギトか?」
行列の集団から聞こえた声色は、記憶の奥底に沈みかけていた所にある、元の世界の人物を思い出させた。
足を止めて、呼び止めてきた相手に向かう。
見覚えがあるどころではない。
一年間、学友として、または悪友としてやってきた1人。
そいつが間抜けな驚き顔で立っていた。
「ブリッツ……ブリッツ・ジークブラッド……本当に……」
ここに居たのか。
それは喜ぶべきことか、あるいは巻き込まれたことを悔やむべきか。
色々な感情がどよめく中で、陽菜野が先に動いて、ブリッツの手を掴む。
「ブリッツくん! ブリッツくんだぁ!!」
「ヒナ助まで……おいおいまじかよ!! まさかここで二人に出会えるなんて!!」
ブリッツは大声で喜び、陽菜野を強く包容した。
アギト以上の対格差は驚きだが、二人は同年代ということが更に驚きに拍車をかけるかもしれない。
熊のようながたいの少年と、この状況に、リティアはなんとなく察した。
「なるほど……アギトの恋敵か」
「違う。あいつは、俺達の、学校での友人だ」
アギト達の部屋には独特な匂いが充満していた。
それは日本における国民的な、味わい深いもの。
複数のスパイスによって辛みを内包し、特定の粉によって生じる濃厚なルーには、あらゆる食材がぶちこまれてその味わいを染み込ませる。
じゃが芋はとろけるまで煮込まれ、人参は絶妙な柔らかさと甘味を産み出す。
玉ねぎは水分と化し、豚肉は程度よく切られたものがルーを吸いとって旨味が増していた。
これぞ究極。
仕上げにバザールで購入した大和皇国産の米を炊いて、皿に盛りつけ煮込んだルーをかけて、完成。
「ついに……ついにこの時がきた。異世界に来てからというもの、恐らく一生かかっても食べる機会が無いだろうと確信した伝説かつ至高の一皿……俺はようやく、今日こいつと再開した!!」
「はいはい。食べるときにはきちんと座ってね」
「ヒナ、俺はこの日ほどお前が居て良かったと、思った日はない。とても感謝する。ありがとう」
「カレーライスぐらい、この世界でもアギトなら作れるよ。作り方覚えられれば」
「カレールーの元がなければ作れない」
「もー、まあいいや。とりあえず食べよ。カレーライスが久しぶりなのは本当なんだし」
「いただきます」
「いただきまーす」
二人はそうして、久しぶりに、本当に久しぶりにカレーライスを口にした。
「んー、美味しー。上手く作れて良かったー」
「………………」
「アギト?」
「これは…………最高だ」
「へ?」
「素晴らしいぞヒナ! 俺は今日という日を一生忘れない! カレーライス最高! カレーライス万歳!!」
カレーライスにがっつく、普段とはうって変わった幼馴染の状態に、陽菜野は久しくドン引きしていた。
「………………うわぁ……」
これからは定期的に作ってやらないといけないな。
夕食五食分の費用がかかっているので何度も作れるものじゃないが。
そう思いながら、アギト程のスピードではないが、陽菜野も皿を空にしていく。
十数分後、カレーは完全に鍋から消え去った。
お代わりを四杯近くしたアギトは、皿洗いをやっていると、陽菜野が例の卵を机の上においた。
「さて、ドラゴンの卵かぁ」
「クリスタルの塊にしか見えないが」
「よーくみると卵なんだよ」
「………………割ってみるか」
「その時は本気で怒るからね」
「解ってる。だがどうやって孵すんだ? つか、そもそもドラゴンって動物のカテゴリーに入れていいのか?」
「うん。ドラゴンにも色々と種類があってね。翼竜とか陸竜とか。で、孵し方はね」
「ああ」
「とりあえず自然と同じにしようかな。 野生のドラゴンは基本岩場に藁とか毛皮とかを集めて巣にするんだけど」
「それを再現してみると?」
「うん。毛布下に置いて、後は放置で」
「ほっといていいのか?」
「野ざらしにしても普通に孵るんだよ。ドラゴンって卵のときから強いんだねぇー」
「そういうものか」
そうして、ドラゴンの巣を模した……にしてはあまりにも粗雑なものに卵を置いて、二人はそれぞれ他のことをする。
アギトは木刀を手に取り外へ、陽菜野は今日買ってきた古本などを読み漁ることにした。
時は進み、夜は更けて、朝。
卵に変化はない。
それを見届けた二人はギルドへと向かう。
バザールは二日目を向かえていたが、盛り上がりは落ち込むことはなく、盛況であった。
それを横目にギルドに足を運ぶと、中ではすこし長めの行列ができていた。
「なんだこいつら」
軽く見回したアギトは、すぐに彼等がデリアド支部には見当たらない冒険者だと理解した。
「行商団の護衛をしていた冒険者だよ」
と、説明をしたのは魔法士リティアである。
「バザールの間暇だからな。フリーランスは身軽で良い分、宿代は割引がきかねぇし。必死ってことさ」
「そうなのか…………」
確かに、彼等は全員依頼書を手にしていて、契約を次々に結んでいる。
「これは一旦戻る方がいいかな?」
「…………そうだな。昼頃に顔を出して」
陽菜野の言葉に頷いて、踵を返しながら言いかけた時だった。
「おい、お前まさか、アギト……草薙アギトか?」
行列の集団から聞こえた声色は、記憶の奥底に沈みかけていた所にある、元の世界の人物を思い出させた。
足を止めて、呼び止めてきた相手に向かう。
見覚えがあるどころではない。
一年間、学友として、または悪友としてやってきた1人。
そいつが間抜けな驚き顔で立っていた。
「ブリッツ……ブリッツ・ジークブラッド……本当に……」
ここに居たのか。
それは喜ぶべきことか、あるいは巻き込まれたことを悔やむべきか。
色々な感情がどよめく中で、陽菜野が先に動いて、ブリッツの手を掴む。
「ブリッツくん! ブリッツくんだぁ!!」
「ヒナ助まで……おいおいまじかよ!! まさかここで二人に出会えるなんて!!」
ブリッツは大声で喜び、陽菜野を強く包容した。
アギト以上の対格差は驚きだが、二人は同年代ということが更に驚きに拍車をかけるかもしれない。
熊のようながたいの少年と、この状況に、リティアはなんとなく察した。
「なるほど……アギトの恋敵か」
「違う。あいつは、俺達の、学校での友人だ」
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