追放された荷物持ち~魔法は使えないけど、最強剣術で冒険者SSSランク!?完全回復魔法が使える幼馴染は一緒についてきてくれるそうです~

柳原猫乃助

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第二章 勇者降臨

第三十九話 下手くそな嘘つき

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「アギトー。一つ聞きたいんだけど、いいかな?」

娼館での出来事から二日後。
ギルドの酒場でぼーっとしていたアギトに、陽菜野が笑顔でそう切り出した。

「なんだ?」

「いやー別にどうでもいいんだけどねー。本当に本当にどうでもいいと思っているんだけどねー。でもやっぱり確認しておきたいというかー。解っておいた方がいいかなーって」

「なんなんだそりゃ」

「いいからいいから。二日前の夜にさー。なんか私に黙ってどっか行ったよねー?」

「ああ。カイロル達とちょっとギャンブルをしにな。わざわざ伝えることでもなかったし、それに次の日には説明しただろ?」

「うんうん覚えてるよー。散々負けていっぱーい、搾り取られたって」

「…………ああ。そうだ」

本当は、エレーミアに手渡した金と飲み食いの代金にお通し代である。

「ぼろ負けしちゃうなんて、アギトらしくないなー?」

「なにがいいたい」

「嘘、ついてないよねー?」

「なにを」

「本当はギャンブルなんかじゃなくて、いかがわしいお店に行ったんじゃ、ないよねー?」

やはりバレた。
どこから洩れた情報か。
しかし隠すべきようなことはなにもしていなかったはず。
ならば下手に動くのは止めた方がいい。
相手が過剰なことを言い出したら、止めて変更を促せば良い。

この間のアギト思考は常と比べて明らかに早くて鋭かった。
悪いことをした子供に罰しにきた母親のような態度で、陽菜野は畳み掛ける。

「金髪の清楚で令嬢みたいな美人さんと、二階に行ったんだよねー?」

「なんのことかさっぱり」

「そう言うお店で二階に行くのって、つまりあれなんだよー。えっちしたいアピールなんだってー」

「そうなのか」

「しましたかー?」

「なにが?」

「えっち」

「根本的に、俺が行ったとは決まってないが?」

「しらばっくれる気?」

肩を掴まれる。
いつもの柔らかく優しげな小さいそれが、どうしたことかまるで鬼の腕に思えた。
笑顔は崩さないが、その影は深い。

「まず行ったかどうかきちんとしようか?」

「そうだな。証拠とかあるのか」

「はいこれ」

カウンターテーブルに置かれたのは、数枚のトランプカード。
裏側には店の名前が書かれてある特別仕様。

「アギトの装備のポケットから出てきたんだよねー」

「………………」

「お店の名前調べたらー、娼館だったんだよー」

しまった、ついうっかりしまい込んで戻しておくのを忘れていた!!
だが、まだだ。
まだ焦っては行けない。
そんな内心を隠すポーカーフェイスは、陽菜野からすれば最早そうですよ、と自白しているのと同義であった。
幼馴染という点は侮れない。

「そうだったのか。だが残念だな。そいつはこないだカイロルから貰ったもんだ」

「へぇー、まあいいや。じゃあ次ね」

「…………まだなにかあるのかよ…………」

「なにかいった?」

「いいえなにも」

心なしか、肩にかかる力が増えたような。
コーラを飲んで落ち着こうとする彼の思考に降り注ぐべく、次の証拠が露になる。

キスマーク付きの名刺。
店の名前と源氏名が書かれてある。

「これもあったんだよー? アギトの装備のポケットからー」

なんでこんなもんがあるんだ!!
思わず、コーラを吹き出して、咳き込む。

「ゲホっ、ゲホっ! い、いやそれはあれだ! ゼナックのジジイからいやがらせに手渡されたんだ!!」

「アギトのフルネームが書かれているけどー? えーっと、”愛しのクサナギ=アギト様。冒険者の期待の新人として、次は私を指名してね♪ シフォンより♪” だってー。へー指名かー。指名してねだってー。ねーねー」

「それも、ジジイが書かせたんだ!」

あの女っ……睨んだ嫌がらせに、気が付かねぇうちにこんなもん差し込んできやがったのか!?
慌てる態度は隠すことなど出来ない。
しかし確固たる事実がなければしらを切ることは出来るのだ!!
昔から、アギトの嘘のつきかたは、変わらなかった。
成長していないとも言う。

陽菜野は、深いため息をついて、とどめの一撃を加えることに決定した。

「じゃあ最後の証拠にご登場願おうか」

「は? な、なにが?」

「カイロルー、ゼナックおじじー。出番ですよー」

その言葉に従うかのように、連行されてきたのは二人の男冒険者たちであった。
リサとチュルムによって座らされると、震える表情で彼等は応えた。

「「アギト君を娼館に連れていったのは僕達二人です」」

「なっ!?」

「「童貞をからかって、卒業させた後感想を聞きたかったからやりました」」

青ざめた二人から、陽菜野へと視線を向ける。
彼女の笑みは変わらなかった。

「どうして」

ミシっ、という音が、肩から聞こえたような気がした。
否、彼女は確実にアギトの肩を潰さんばかりである。

「嘘を」

立ち上がれない。
どれだけ力を込めても、勝てる気がしない。
身体強化の魔法でも使っているのか?

「ついたのかな?」

「…………それは、その、誤解を与えたくなくて」

「…………………」

「別になんだ、えろいことはしていない!!」

「証拠は?」

「あー…………そこの二人が証拠だ!!」

「二階に上がったの、見たんだよね?」

笑みを降らす陽菜野に対し、両者は何かを思い出したかのようにガタガタと答える。

「は、はい! アギト君は二階に上がりました!」

「わ、わしらはきちんと見ました!!」

この野郎どもに、一体こいつはなにをしたんだ?
そんな疑問を投げ掛けたいアギトだが、そんな権利は当然与えられない。
リサとチュルムがやれやれと首を横にふると、陽菜野は続けた。

「そういえば金髪の清楚で令嬢な巨乳が特徴なんだよね?」

「まて、なにか混ざってないか?」

「きっとえっちな人だったんだよねぇー。その人と、なに? 一時間? しっぽりしてきたんだー」

「お、落ち着け。確かに二階に上がったし部屋にも行った」

「………………」

「だが誓っていかがわしいことを」

「えっち」

「いやだから」

「えっちな嘘つき。どうせその巨乳の人、すごく大人っぽくて、めちゃくちゃ色んなことしたんでしょ!」

「なっ、だからしてないっていってんだろ!」

「じゃあなんで行ってないって嘘ついたの! 上がってないって嘘ついたの!!」

「だから変な誤解を与えたくなくてだな!」

「嘘!! 全部えっちなことしたの誤魔化す気なんでしょ!! 最低!!」

その一言は、まさしくボルテージをあげる一言だった。
女冒険者二人と、男冒険者二人が察してしまうほどに、陽菜野は強く苛立っていた。

嘘をつかれたのはまだいい。
だが、ついていったのが、自分とはまるで正反対な女性ということだった。
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