上 下
42 / 77
第二章 勇者降臨

第三十七話 娼館

しおりを挟む
数日後のある日。
依頼を終わらせたアギトの元に、カイロルとゼナックがニヤニヤしながらやってきた。

「なんだよ」

「いやな、お前さんよ。娼館に行ったことあるか?」

「ない」

「即答か、こいつは超常ってな」

そう言ってカイロルが道具袋からとあるチケットのような物を取り出す。
それには大陸共通語で店の名前がデカデカと、その横には割り引き額が記載されていた。

「今からこの店に行こうと思ってな。何せ新店だぜ、期待が高まるってもんだ!」

「そうか」

「お前も行くんだ」

「は? なんで?」

「だってアギトよぉ、お前さん童貞だろ?」

「それがどうした」

「童貞のままにしておくと、二十になった時に物凄く焦るんだぜ? 周りは経験済みばっかりで、いざ熱い夜を楽しめると言う時も、慌てて満足に出来ないなんて言うことも」

「必要ないからいい」

退散すべきと判断したアギトだが、カイロルは逃さない。
肩を掴んで、進もうとするアギトを止めた。

「そう言うなって。見学していくだけでもいいからよ」

「第一、そう言う店は高値んだろう?」

「見るだけならタダだって。な? いいだろう? 後学のためにさ。経験は重要だぜ?」

「いい」

「ヒナノだって一枚剥けたお前の方がいいって言うぜ?」

「ぶち殺すぞ」

「本当に殺意向けてくんなよ冗談だって」

必殺の一言を誤ったタイミングで使い、危うくなるカイロルに代わり、ゼナックが話を続けた。

「まあまあ、ここは一つこれでどうだろうか?」

取り出したのは一枚のゼニス硬貨で、それの意味するところは賭けというものだった。
以前やったことがあるアギトはすぐ意図を理解し、気乗りしないが交渉だけしてみる。

「こっちが勝ったらどうすんだ?」

「昨日得た報酬金、全額お渡しするというのはどうでしょう」

「強気だな」

「いかがですかな?」

「いいぜ。乗った」

賭け事、というより勝負事は、可能であれば降りないアギト。
そうして弾かれた運否天賦のコイントス。

結果は、ゼナックの勝ちだった。

そんな経緯からアギトはカイロルとゼナックに連れられて、娼館へと足を踏み入れたのである。
正直な表情を隠さない彼は、無愛想の切れ味をより一層極めていた。

娼館の名前はラピスラズリ。
新店というだけあってか、通りにある他の娼館と比べて新品感がある。
そう思いながらふと、アギトは見上げると、まだ夕暮れ時なのに布面積が少ないドレスを着て客寄せに勤しんでいる女達がいた。
正に魔境じみている。

「へへへ、今夜は楽しもうぜ!」

「お相手はどうしますかな?」

などと言いながら入店。
中は案外普通の酒場であるが、一つ違う点がある。
無論、女の格好だ。

情欲的にかきなでてくるようなドレスに、夜でも輝きを失わない化粧とアクセサリー。
魅惑なプロポーションをこれでもかと見せつけ、お客に選ばれることを期待している。

三人は端のテーブル席へ男性スタッフに案内され、腰を落ち着かせた。
すると瞬く間に、娼婦達がやってくる。

「いらっしゃいませー! お隣いいでry」

と、アギトに声をかける若い女に、彼はいつもの無愛想な表情で応じた。
一瞬目があっただけであるが、彼女すぐさま進路を転換させて、カイロルの元へと行く。
ほとんど違和感がなかったそれは、馴れているのだろうか。
なんであれ、中年のオヤジはとても喜んでいた。

「おっほぉー! 君可愛いね! さあさあ隣に来てよ!」

「あはっ♪ 失礼しまーす」

娼婦が座る。
気が付くとゼナックにも一人ついていた。
それを眺めるアギトは静かに男性スタッフにジュースの有無を聞いて、ジンジャエールを頼む。

「いやぁ今日は新店の確認と、そこの目付きがわるーい小僧を大人にしようと思ってね!」

「へぇーそうなんですか! ならたっぷりサービスしますね♪ この店の常連になってください!」

「あははは!! 勿論さ! おじさんえっちな女の子とか大好きだからさ!」

「いやぁーんもぉー♪」

脳味噌がかきむしりたくなるような会話を止めろ。
実際に口にはしないがそんな目線を送る。
当然無視され、ゼナックは早速娼婦と乳首当てゲームに勤しんでいた。
ジンジャエールの炭酸が少ないと思いながら、アギトは仕方なく周りを見渡す。

賑やかな雰囲気と空気に包まれ、男達は鼻の下を伸ばし、女達は懐の財布を目当てに愛想のバラ売り忙しそうだ。

(…………みんな胸でけーな……ヒナみたいなのはいないか)

ほっとすべきか、それとも残念と思うべきか解らないことが解ると、何時までも女を隣に座らせないことにカイロルから視線が放たれていた。
確かに、この場で一人、ジンジャエールを口にしているだけなのは自分だけだ。
このままでは明らかに空気が読めてないとか言われる。
またもや仕方なく、行動を移す。
どれか手軽で、しかもずっと黙っててくれそうな奴はいないか。
金さえ渡せばきっと大丈夫だろう。

と、丁度良く見つける。
ややボサボサな金髪で、穢れを受け付けない白い素肌。
されど着ているドレスは社交界にでも来ているのかと思うほど豪華な質感で、露出が少ないわりにボディーラインがハッキリとしていた。
娼婦達の中でかなり浮いているが、隅っこで俯いているため誰も選ぼうとしない。
適正ではないだろう態度でいるが、この場合都合がよかった。

アギトは立ち上がり、彼女へと近寄る。
二人の仲間からようやく選んだか、みたいなことを言われながら、娼婦の前に立つ。
彼の足元を見て、自分が目当てであると気が付いた金髪の令嬢は顔をあげた。

アギトは目を疑った。
金髪の娼婦も目を疑った。

相手が見知ったもの同士だからだ。
無論、知りたくて知り合った相手ではない。
娼婦は、女騎士エレーミアだった。

「お前は……!?」

「っっ…………荷物持ちっ……」

その瞬間、少年は理解した。
この元勇者のパーティーメンバーであった女騎士が、俯いてたのは屈辱に満ち足りた表情を隠すためであると。

「…………はっ、貴様のような男でもこんな場所に来るんだな。アサギリが知ったらどう思うんだか」

「…………いや、丁度いい。ついてこい」

アギトは多少悩んだが、彼女の手を掴んだ。
エレーミアが汚物にでも触れたかのような不愉快極まる表情になる。

「貴様っ! 離せ、この!」

「金はいるんだろ。なら俺に協力しろ。心配するな、お前が想像するようなことなんかしない」

「そんな事を誰が信じるか! 穢れの塊である荷物持ち程度の言葉など!!」

「ならこうして周囲の注目を浴び続けるか?」

店の中で娼婦叫ぶ。
当人達の認識はどうあれ、周囲からすれば、まだまだ新人めいた彼女が駄々をこねているだけにしか見えなかった。

視線を理解し、エレーミアは考える。

「…………必要以上に私に触れるな」

「触りたくて触っているわけじゃない」

ともあれ、彼女を説得したアギトは元の席へと戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...