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第二章 勇者降臨

第三十六話 合成魔獣

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深夜。
ギルドの地下倉庫にして、その魔獣の亡骸が夜通し調べれていた。
現状、高度な合成魔法によって産み出された位しか解らず、元になった素体すら判別不明である。

立会人としていた支部長ボボネルは、客人の到来に振り向く。
ランクS冒険者、ミヤビである。

「こんばんは、支部長」

「いやどうも。わざわざお越しいただいて」

「挨拶はそれまでで。まずは魔獣について、現状解っていることを教えていただけませんか?」

支部長の説明は誰でも出きる程シンプルで、解らないだった。

「外見からして蛇型と牛型、それにオーク種も混じっているように見えるのです。しかしそれらに該当する構成体の反応が検知されず……」

「ふむ、それはすなわち、姿は単なる偽装であると考えられます」

「偽装ですか?」

「ダンジョンにいるミミックとか、森の肉食植物とか。それと同じですね。ただ、それらは自然的にそうなっただけで、この魔獣はその要素を無理矢理つけられたようですが」

「いったい何のために…………」

「それは解りませんが、何れにせよ良いことでは無いでしょう。発見報告はこれで?」

「これだけです」

「偶々遭遇した個体なわけか……」

「何か引っ掛かることが?」

「…………いやまだです。ともかく私も行動します。何か解ったらこちらに連絡を」

そう言って取り出したのは、携帯端末だった。
懐中時計のような外装で、蓋を開くと、内部にあるディスプレイから大陸共通数字が羅列される。

「それは?」

「個人携帯型通話機です。ギルドの通話機でこの番号でかけてください」

「解りました。しかしそんな試作魔導機をお持ちとは」

「少々、頼らざるおえない件に関わっていまして。では」

ギルドから出ていくミヤビ。
月下の中央道は人通りが皆無で、僅かに照らされる魔導灯の明かりが淡い、不可思議な空気を作り出している。
夜空の星を見上げていると、通話機が反応し、震えだした。
取り出し、応答するため操作する。

『やあ、麗しき我が閃光』

「切りますね」

『いやいや即答とは。どうも貴女には余裕というものが無いようですね』

スピーカー越しにいる男が殴れないことに、苛立ちを覚えながミヤビは返す。

「要件を」

『全く……今貴女は、ゼブラールにいますね?』

「それはそちらも知っていることかと」

『確認をしたまでですよ。二人には接触しましたか?』

「無論。計画通りかと思いますが」

『ならば、例の勇者についてですがとある話が』

通話機での会話は実に奇妙だ。
独り言を言っているようで、しかしハッキリと遠い場所にいる人と言葉を交わり合わせている。
数分後、ミヤビは通話機をしまい、次の行動に移った。

慌てることはない。
普段通りに。

それを心情とは言わぬものの、軸として彼女の心には思考が進んでいた。


@@@@@@


深く、暗い洞窟らしき場所。
時間すら解らなくなるぐらい、蝋燭のみで照らされている部屋で、リーデシアはそこにいた。

生活感が皆無な内装は、彼女の心を蝕む。
そのなによりの原因が、目の前に鉄格子の中であった。

「はぁ……はあ……も、もうやめましょう。これ以上は……」

檻に入れられたそれは拒絶するかのように暴れた。
けたたましい音は、今にも檻を破壊し、リーデシアを殺戮することが簡単であると示されたのかもしれない。
元勇者の合成魔法の魔法士は、その専門分野を再度発動する。

その光景を、一人の人物が手を叩いて、つまり拍手しながら観ていた。

「いやぁ、素晴らしいですわ。これほどまであなたがたに友情なんてものがあるとは。てっきりドラニコスに対する性欲位しか共通するものが無いかと思いましたから」

「話しかけないで、集中が切れるわ」

「切れても問題はありませんもの。それにそいつを改造することになったのは、あなたの意思ではございませんか。提案したのは私ですが。実行しているあなたは、さなかがら死者に鞭打って馬車馬のように走らせている。全く酷いものですね」

「ちっ」

リーデシアは作業を続ける。
確かに、彼女は望んでいた。
この光景を、この結果を。

醜く歪んだ身体を無理矢理押し詰めて、暴走しかけている魔力回路をねじ込む。
それによって生じる激痛で引き出される、耳を塞ぎたくなる悲鳴と苦痛に喘ぐ声が響き渡る。
もう何度聞いたことか。

しかし、だからと言ってやめるわけにはいかない。
全てはドラニコスの為。
守ろうとしなかった協会に対する報復の為。

そしてなにより、あの憎くて憎くて、抑えきれないほどの憎悪を燃やしてくれるあの荷物持ちとチビブスに復讐する為。

外部から移植によって増築された肉体は、徐々に原型へと取り戻していく。

それらを観賞している人物は、別の人物の帰還を迎えた。

「どうかしら?」

「予定通りだ。これでユウタ様もお喜びになる」

「それは良いことね。引き続きこいつには合成魔獣を作って貰いましょ」

「ああ、それで今はなにをしているんだ?」

「もう使い物にならないものを、無理矢理にでも使い物にしているところ。言ってしまえばリサイクルね」

「人体を使ったリサイクルとは……全く君というのはすごいね。発想からして僕の何倍も鋭いな」

「伊達に百年もいないということよ。こんな下らない異世界」

「それもそうだったな」

「全てはこの世界を破壊するため」

「全てはこの世界に復讐するため」

そうして、金原礼華と佐藤史郎は、互いに微笑みを浮かべた。
進み行く計画は、誰も知るよしがない。
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