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第二章 勇者降臨

第三十四話 問題発生

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予定よりも早く終わった討伐依頼。
その帰路でアギトはミヤビと剣術について語り合っていた。
語り合うというより、互いの剣術に興味があるという感じだろうか。
久しぶりに疎外感を覚える陽菜野だが、アギトの言葉に耳を傾ける以上のことはしない。

「つまり示現流というのは、一種の奇襲攻撃なんですね」

「まあそうだ。先手を取って相手に何かさせるより前に斬り伏せる」

「なるほど、機先を制するには向いていると」

「あんたのあれはなんだ? 御劔流っていうのはそんなのがあるのか?」

「ああいえ、あれは私だけの特技といいますか。歩法みたいなものですよ」

「だからといって、あの長剣の切れ味は納得が行かない。そもそも西洋の長剣は斬るよりも叩くっていう感じじゃないか」

「ふふん、そこは秘密ですね。私のあれとこの長剣だけで行える、必殺技みたいなものです」

「必殺技ねぇ…………魔法とかじゃないのか?」

「私の魔力適正は30台でして」

「それじゃあ無理か。あんな瞬間加速」

楽し気な様子に、陽菜野は少しだけ頬を膨らませた。
剣について彼女は解ることがなかった。

そうこうしているうちにデリアドに戻ると、早速冒険者ギルドへと向かい、受付に討伐証拠のジャイアントベアの爪を出す。

「流石にランクSと一緒なら、こんなの速攻か」

「いえほとんどお二人で倒したので」

「え、まじ? せっかく楽ができたのに、勤勉だね」

「おかげさまで良いものが見れました。改めてありがとうございます、クサナギさん、アサギリさん」

そこまでの礼を受けるほどのしたとは思えない二人だったが、感謝されて悪い気分にはならないものである。

「こちらこそありがとうございます。ランクSの力が間近で見られてとても勉強になりました」

「あの剣術を使える相手に、俺のが何のためになれたか解らないが、また気軽に仕事をしよう」

無愛想なアギトが、愛想のいいことを口にした!
ティーシャは驚くが、良く解っていないミヤビは言葉通りに受け取っていた。

「はい。機会がございましたらまた」

そうして、ミヤビはギルドから去っていく。
宣言通り、報酬金は受け取らなかった。
その背中を見送り、アギトは頭を掻いて早めの昼飯について考え始めようとして、ティーシャが身を乗り出してきた。

「アギト、まさかだけど…………あのコウサカ=ミヤビに惚れた?」

「はあ?」

馬鹿馬鹿しいことを、なぜそんなにニマニマとした表情で問うのか。
そんな思いを隠さずに応じる。

「いやだって、いつもはどんな相手でも無愛想極まりない顔でいるのに、やけに彼女に対してフレンドリーだったじゃない? まあ美女の顔立ちだったし、惚れるのも解るが」
 
「何をいってるのかさっぱりだが、これだけは言える。そんなわけない」

そう言い返しながら、カウンターの上に置かれた報酬金を手に取り確認した、その時だった。
突然、扉が荒々しく開かれて、何者かがやってきたのだ。

ランクE冒険者のエドモである。
アギト達と接点はないが、名前程度なら人づてで知り合っていた。
肩にはスリングでライフルが担がれている。
魔導技術の産物で、火薬で弾丸を飛ばすのではなく、圧縮した魔力を打ち出すアメリア式のボルトアクションライフルであった。

「はあっ! はあっ! アサギリ=ヒナノはいるか!!」

酒場からも注目を浴びる冒険者エドモは、年相応の若い顔立ちを汗だくにして呼び出す。

「あ、はい。どうしたんですか?」

「大変なんだ! セシルパーティのチュルムが猛毒でもう死にそうなんだよ!!」

「え」

「ともかく来てくれ! パーティメンバーがあんたを呼んでいたんだ!」

状況を説明する暇がない様子に、陽菜野はとりあえず頷く。

「解りました。場所は?」

「コロニクス平原方面を二百mのところに馬車の一団が停まっている!」

それだけ聞くと、陽菜野は走り出した。
外に出て杖にまたがると、素早く無詠唱式の風魔法を最大出力で起動させる。
例えるなら、箒で飛ぶ魔法使いのように、魔法士たる彼女は飛翔。
あっという間に飛んでいく姿に、エドモは唖然としていた。

「アギトは行かなくていいのかい?」

そう問われると、陽菜野の幼馴染たる剣士は頷く。

「あれは一人専用なんだよ。おい、あんた」

呼ばれたエドモが呆気にとられたまま振り向いた。

「ん、ああ。なんだ?」

「馬で来たんだろ? 俺も乗せて連れてってくれ」


@@@@@@


コロニクス平原の街道から少し離れた位置では、懸命な治療が行われていた。
セシルパーティーのメンバーリティアとゼナックによる、二人の魔法士の回復魔法が負傷したチュルムに行使されるが、根本的解決に至っていない。
せいぜい進行を抑えるのが精一杯で、それも徐々に隙間を抜かれるように押されている。

「くそ! なんなんだよこの毒は!!」

「構成体がまだ変わりましたぞ! リティア殿!」

「解ってる!! 畜生っ! チュルム! 反応しろチュルム!! 黙っていられると死んだと思っちまうだろうが!」

叫ばれても呼ばれても、チュルムに反応はない。
力なく、ぐったりと仰向けになり、肌から血色が薄れていく。
僅かな肺の動きだけが生存の証だが、それもいつまであるのか。
次の瞬間呼吸が止まっても不思議ではない状況に、二人は焦り、もう一人の仲間であるリサが青ざめて絶望する。
なぜなら、チュルムが毒を受けた理由は、油断していたリサが襲われたのを盾になったからであった。
意味がないと知りながら、いよいよ覚悟しなくてはならない顔色に、彼女は守ってくれた仲間の手を握った。

「お願い……目を覚ましてよ……いつもみたいに、無駄に元気に……軽口を……」

魔法反応の輝きが、魔力の消費量と比例して小さくなっていく。
長時間の魔法の行使は、魔法士本人に負担がかかる。
このままでは何れにせよ、チュルムは死ぬだろう。
魔法が切れるのが先か、毒が回りきるのが先か。

それを、否定するかのように、陽菜野が降り立った。
リサが振り返ると、ずっと来て欲しいと願っていた後輩冒険者の姿に、奇跡を感じた。

「ヒナノぉっ!!」

「リサ! チュルムは!?」

「はやく!!」

駆け寄る陽菜野。
一目でチュルムの容態を確認。
医学の専門的な知識がなくとも、危険域にあると解るほどだ。

「この毒は特殊だ!! 構成体を変えてきやがる!!」

というリティアの助言に、陽菜野は頷いた。

「解った。とりあえず引き継ぐ形で二人は魔法を切って。一気にやるから」

帽子をかぶり直し、翡翠色の瞳を瞬かせる。
握る杖をかざし、魔力を込めた。
人体に走る魔力回路を全開にし、それをこれから行使する魔法へと投入していく。

風は震え、自然が歌い、水を波立たせる。

「____万象より来たりし根源たる鼓動、巡る生命の転輪の調べよ、今こそ合わさりて無垢なる生命の唄を作れ。”ライフ・リザレクション”」

詠唱が迸ると、光輝くそれは、継ぎ元の魔法よりもより強い魔力が反応した。
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