追放された荷物持ち~魔法は使えないけど、最強剣術で冒険者SSSランク!?完全回復魔法が使える幼馴染は一緒についてきてくれるそうです~

柳原猫乃助

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第二章 勇者降臨

第三十一話 ランクS

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幻魔暦1563年9月。
地方都市デリアドにも秋の季節がきた。

夏の熱気に日々参っていた冒険者達に、秋模様は木枯らしとして表現する。

「わあ!」

朝霧陽菜野は被っている帽子を押さえて、ノースリーブな魔法士のローブ姿で風を受けていた。
それを、草薙アギトは袖を引きちぎった剣士用のコート姿で見ていた。

「もう秋か」

「そだねー」

「なんというか、あっという間だったな」

「元の世界ならもう二学期だけど」

「一学期の範囲全部忘れた」

「もー。元の世界に帰った時にどうするの?」

「そんときはそんときだ」

他愛もない雑談を交わしながら、冒険者ギルドへと足を運ぶ。
いつものルートをいつものペースで歩いていると通りかかった人から声をかけられた。

「やあ二人ともおはよう」

「おはようございますマリオさん」

「先日は助かったよ。年寄りじゃ難しくてね」

「それは良かったです。またなにかあったら依頼してくださいね」

「ああ、その時は割引で頼むよ」

先日の依頼者である老人や。

「あらやだアギトにヒナノちゃん!」

「デージーさん、おはようございます。今日も朝のセールですか?」

「そうなのよぉー! 全く、たまには夫にも手伝ってほしいわ!」

「あははは、また逃げられちゃったんですね」

「一度ぐらいもみくちゃにされただけでなんだって言うのよねぇー! と、こうしてはいられないわ。それじゃ今度美味しい紅茶の入れ方教えてあげるわ!」

「ありがとうございます、また今度お願いします」

「アギトっ、少しは愛想良くするのよ! あー急がないと!」

近くに済む中年の奥さんや。

「これでも愛想良くしているつもりなんだが」

「まだ無口でぶすーって顔してるよ」

「むっ……んん、これか?」

指摘された表情を変えながら歩いていると、今度は巡回中の治安兵と出会った。

「おはよう若手の冒険者諸君」

「あ、おはようございます。オルムさんは今日も巡回任務ですか?」

「うむ。都会はどうあれここ地方都市にも治安軍がきちんと仕事していることをアピールしないと、ならんからなぁ。まあ、実際は冒険者もいるし。治安軍の人員は予備役ばかりだし。士気が低いたっらなんのって」

「でも私達がなにか事件に関わると、被害者や被疑者からお金を要求しないといけないんですよ。依頼書は無くても依頼になっちゃうので」

「そうだよなぁ。うん。頑張るか。ところでアギトはなにをしているんだい?」

そう聞かれて、新たに顔を変えながら応える。

「無愛想か、俺は?」

「…………ぼかぁ、君以上の無愛想を見たこと無いからわからんけど、変顔しても君は睨み付けてくる感じがするなぁ。それで子供を脅かすなよ。じゃあな」

そうしてすれ違う人々と交流していった。

「…………俺はそんなに怖いのか?」

「表情筋が死んでんじゃない」

軽口を挟みつつ、ギルド前にたどり着いた時である。
酒場の方が、いつもより妙に賑やかなことに気がついた。

「なんだ?」

「入ればわかるよ」

扉を開き、いつものエントランスの光景に添えられるように、酒場の一角が大きく乾杯をあげていた。
受付嬢ティーシャがそれを暇潰しのために眺めている。

「よう」

アギトが声をかけた。

「あら、二人ともおはよう」

「おはよう。で、あれはなんだ?」

「うん、ランクSの冒険者来たのよ」

「ランクS? たしかランクはF~Aまでだったはず。Sとは、Fよりも下なのか? それとも上なのか? スペシャルのSだから」

「スペシャルね。非公認の呼び名なんだけど」

「非公認……Aランクの上位ってことか」

「そうともいう」

そのSランク冒険者は人混みの奥にいるらしく、簡単には出会えそうにない。
ある種の芸能人というところなんだろうか。
そう結論づけると、二人は興味をすぐに依頼書のボードへと向けた。

「今日どうする?」

「日帰りの奴でもいいけど」

「街道の魔獣討伐でもするか」

「そだね」

そうして、アギトが依頼書へと手を伸ばしたその時。
急に騒ぎ声の方向が変わったので振り向くと、背後に一人の女冒険者が立っていた。
接近する気配を感じさせなかった彼女は、ひとつ結びの紅い髪と蒼い瞳にエルフ特有の長い耳を持っている美女であった。

これがSランク、なるほど。
名前負けをしていない、その実力を僅かに見せた冒険者はゆったりとやんわりとした口調で切り出した。

「もしかしてその依頼、受領するのですか?」

「え、あ、まあ」

思った以上に馬鹿丁寧で、アギトはまたしても不意を突かれてしまう。

「よろしかったら、私も同行させていただけないでしょうか?」

その発言に、周囲は驚く。
先日Dランクになれたばかりの二人が受けるのは、Sランクでは報酬金が足りないとされる依頼であり、また強さ的にもオーバーパワーだ。
新人からようやく這い上がったばかりの若手に、何かしらの手解きをするつもりなのだろうか?
それとも単にこの辺のことを、知りたいだけなのだろうか?

疑問に満ちた周囲のざわめきに狼狽える陽菜野に、アギトは即断即決の如く了承した。

「構わない。だが報酬金は少ないぞ」

「報酬金については要りません。どうぞお二人で分けあってください」

「なに?」

「初心に帰りたいだけですので。邪魔はいたしません。どうかよろしくお願いいたします」

上位者である相手から頭を下げられ、二人は見合わせる。

「あ、それと自己紹介が遅れました。私、コウサカ=ミヤビと申します」

顔を上げると同時に、コウサカ=ミヤビは名乗った。

「コウサカ……いや、草薙アギトだ」

「朝霧陽菜野です。えっと、コウサカさんは……」

ここ最近、自分達ばかりが使っていた名前の方式に、ミヤビは当てはまっていた。

「はい。生まれは大和なので、ファミリーネームが前にきます」

彼女は微笑んでいた。
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