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第一章 勇者追放
第三十話 勇者追放
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事件から五日後。
「ドラニコス・フェールウッム。君を勇者協会から永久除名することが昨日決定した」
鉄格子の向こう側に立っている、協会から来た構成員の一人が公式書類の内容を読んだ。
キリッとした七三分けの茶髪で、黒縁の眼鏡をかけている。
その隣には、不適な笑みを浮かべる勇者がいた。
青いワイルドポニーテールの髪型に、琥珀色の瞳は侮蔑めいたものが宿っていた。
「それにともない各種支援は即時撤廃、君の、もう壊れて使い物にならない神槍も回収。賠償金の方は家が出してくれたそうだよ」
「それが言いたいがためにこんなクソッタレた場所に来やがったのか」
「それが私の仕事だからね。まあゼブラール帝国にずっと居座るだけの勇者には、十分裕福な想いをさせてあげたと、個人的には考えるが」
「俺を誰だと思って」
「ドラニコス・フェールウッム。フェールウッム家五代目の長男。しかし家の実権は長女で姉のクラリッサに握られている。それぐらいは知っている」
男は書類を鞄にしまうと、話題を変えるべく咳払いをした。
勇者専用の独房の廊下は、やけに長いので響く。
「私の仕事はまだ他にもある。その中に、ある二人の勇者の話をしようと思っているんだ」
「…………なんだ、あの役立たずの荷物もちと、それに毒された尻軽がどうしたんだ」
「いや、すでに除名されている二人はどうでもよい。問題はその補充として君のところに渡った方だ」
「ああ、カネハラは良い女だった。勇者に対しての」
「君の感想を求めてはいない。知りたいのはただひとつ。あの二人はどこにいる?」
「…………はあ?」
協会から支給されたスーツのネクタイを緩め、男は再度問う。
「金原礼華と佐藤史郎。この二人の所在を君は知っているのか?」
「知らねぇよ」
「…………やれ」
頷く女勇者は右手をドラニコスへと向けると、青白い電流が流れた。
かつて勇者だった男の叫び声が駆け抜ける。
反響し、帰ってくる頃には死にかけていた。
「答えろ」
「はぁ、はぁ、本当に、知らない…………あいつらは、いつの間にか、消えてた!」
「ふむ……」
協会の男が顎を撫でると、女勇者の行動を腕で止める。
どうも本当に知らないらしい、と判断した。
「…………なるほど。用事はそれだけだ。ではよい生活を」
「まて! あの二人がどうしたんだ!」
「教えなくてもよいんだがなね」
さり際に残す言葉としては、それはあまりにも違いすぎたかもしれない。
なにかを知っても、それが有効活用できないなら知らなくても良いかもしれない。
しかし、ドラニコスの咄嗟な発言に、男は慈悲の代わりに教えた。
「あの二人は、君のところに本来やって来ていた二人を殺した犯人なのさ」
@@@@@@
事件から三ヶ月後。
デリアドの上流階級が済む住宅区画の一角にある、今はもう家主を失った屋敷にて。
その地下、下水道よりさらに下のエリアで、そのダンジョンは存在した。
草薙アギトと朝霧陽菜野が囚われていた場所であり、勇者パーティーのメンバーである、エレーミア・フォン・フィッツネルの持ち家の地下でもある。
本来は、魔法士リーデシアが合成魔獣の研究のために作った施設だったが、後にドラニコスの命令で改造。
もしもの時に逃げ込める地下避難所として使われていた。
しかしその役目も今はなく、フィッツネル家はこの家を放棄し、エレーミアも勾留の身になった上で追放を告げられた。
そんな誰の家でも無くなったこの場所に、踏み入れる一団がいた。
その大半の人数は、冒険者である。
残敵掃討を兼ねて突入したのはいいもの、魔獣のほとんどが拉致された二人を助けに向かった冒険者パーティーや、先んじて調査していた勇者協会の集団によってあらたか攻略されていた。
黒ずんだ残骸が調べていくなかで、最奥にあるエリアに一人の冒険者がたどり着いた。
ルージュよりもずっと深い赤の髪で、それをひとつ結びにして背中へと流している。
蒼い瞳を持つ顔立ちは穏やかでフレンドリーな表情を決して崩さない。
そんな女冒険者が身にまとうのは、紺碧のコートとワイシャツにズボンという格好。
腰には長剣と短剣が吊られて、前者は右腰に、後者は背中に。
「どうでしょうか?」
やってきた冒険者の丁寧な問いに、調査していた冒険者が応えた。
「やはり間違いありません。微弱ですが、魔人の気配が残っています」
「そうですか。これは、どうも急がないと行けなくなりましたね」
「しかしながら奴等、いったいなにが目的だったのでしょうか? 勇者を殺すなら、こんな回りくどい方法でやらなくても」
疑問を抱く調査者に、女冒険者が即答した。
「いや、殺すのが目的ではありませんね。恐らくですが、なにかを確かめたかったのかもしれません」
「確かめる?」
「拉致された二人……元々勇者パーティーのメンバーで、かつ、勇者召喚によってこの世界に来た異世界人でしたよね」
「ええ……まさかその二人を?」
「そうとしか考えられません。加えて、奴等はさほど力を行使したと思えない。やりあうつもりはなく、適当に撤退するつもりだったのでしょう。狡猾な奴等です」
「では今すぐあの二人を監視に……」
「いえ、それは止めておきましょう。我々は敵が明確になんであるのか、まだわかっていません。勇者協会の情報提供があれば楽なんですがね」
「かつてからの遺恨は消えずですか」
「下らない話です。本当に。ともあれ引き続き調査お願いします。何かしらの情報が残っているかもしれません」
「了解です、コウサカ=ミヤビ殿」
コウサカ=ミヤビと呼ばれた冒険者は再び歩き出す。
迷宮に響く水音に、耳を澄ませながら。
「ドラニコス・フェールウッム。君を勇者協会から永久除名することが昨日決定した」
鉄格子の向こう側に立っている、協会から来た構成員の一人が公式書類の内容を読んだ。
キリッとした七三分けの茶髪で、黒縁の眼鏡をかけている。
その隣には、不適な笑みを浮かべる勇者がいた。
青いワイルドポニーテールの髪型に、琥珀色の瞳は侮蔑めいたものが宿っていた。
「それにともない各種支援は即時撤廃、君の、もう壊れて使い物にならない神槍も回収。賠償金の方は家が出してくれたそうだよ」
「それが言いたいがためにこんなクソッタレた場所に来やがったのか」
「それが私の仕事だからね。まあゼブラール帝国にずっと居座るだけの勇者には、十分裕福な想いをさせてあげたと、個人的には考えるが」
「俺を誰だと思って」
「ドラニコス・フェールウッム。フェールウッム家五代目の長男。しかし家の実権は長女で姉のクラリッサに握られている。それぐらいは知っている」
男は書類を鞄にしまうと、話題を変えるべく咳払いをした。
勇者専用の独房の廊下は、やけに長いので響く。
「私の仕事はまだ他にもある。その中に、ある二人の勇者の話をしようと思っているんだ」
「…………なんだ、あの役立たずの荷物もちと、それに毒された尻軽がどうしたんだ」
「いや、すでに除名されている二人はどうでもよい。問題はその補充として君のところに渡った方だ」
「ああ、カネハラは良い女だった。勇者に対しての」
「君の感想を求めてはいない。知りたいのはただひとつ。あの二人はどこにいる?」
「…………はあ?」
協会から支給されたスーツのネクタイを緩め、男は再度問う。
「金原礼華と佐藤史郎。この二人の所在を君は知っているのか?」
「知らねぇよ」
「…………やれ」
頷く女勇者は右手をドラニコスへと向けると、青白い電流が流れた。
かつて勇者だった男の叫び声が駆け抜ける。
反響し、帰ってくる頃には死にかけていた。
「答えろ」
「はぁ、はぁ、本当に、知らない…………あいつらは、いつの間にか、消えてた!」
「ふむ……」
協会の男が顎を撫でると、女勇者の行動を腕で止める。
どうも本当に知らないらしい、と判断した。
「…………なるほど。用事はそれだけだ。ではよい生活を」
「まて! あの二人がどうしたんだ!」
「教えなくてもよいんだがなね」
さり際に残す言葉としては、それはあまりにも違いすぎたかもしれない。
なにかを知っても、それが有効活用できないなら知らなくても良いかもしれない。
しかし、ドラニコスの咄嗟な発言に、男は慈悲の代わりに教えた。
「あの二人は、君のところに本来やって来ていた二人を殺した犯人なのさ」
@@@@@@
事件から三ヶ月後。
デリアドの上流階級が済む住宅区画の一角にある、今はもう家主を失った屋敷にて。
その地下、下水道よりさらに下のエリアで、そのダンジョンは存在した。
草薙アギトと朝霧陽菜野が囚われていた場所であり、勇者パーティーのメンバーである、エレーミア・フォン・フィッツネルの持ち家の地下でもある。
本来は、魔法士リーデシアが合成魔獣の研究のために作った施設だったが、後にドラニコスの命令で改造。
もしもの時に逃げ込める地下避難所として使われていた。
しかしその役目も今はなく、フィッツネル家はこの家を放棄し、エレーミアも勾留の身になった上で追放を告げられた。
そんな誰の家でも無くなったこの場所に、踏み入れる一団がいた。
その大半の人数は、冒険者である。
残敵掃討を兼ねて突入したのはいいもの、魔獣のほとんどが拉致された二人を助けに向かった冒険者パーティーや、先んじて調査していた勇者協会の集団によってあらたか攻略されていた。
黒ずんだ残骸が調べていくなかで、最奥にあるエリアに一人の冒険者がたどり着いた。
ルージュよりもずっと深い赤の髪で、それをひとつ結びにして背中へと流している。
蒼い瞳を持つ顔立ちは穏やかでフレンドリーな表情を決して崩さない。
そんな女冒険者が身にまとうのは、紺碧のコートとワイシャツにズボンという格好。
腰には長剣と短剣が吊られて、前者は右腰に、後者は背中に。
「どうでしょうか?」
やってきた冒険者の丁寧な問いに、調査していた冒険者が応えた。
「やはり間違いありません。微弱ですが、魔人の気配が残っています」
「そうですか。これは、どうも急がないと行けなくなりましたね」
「しかしながら奴等、いったいなにが目的だったのでしょうか? 勇者を殺すなら、こんな回りくどい方法でやらなくても」
疑問を抱く調査者に、女冒険者が即答した。
「いや、殺すのが目的ではありませんね。恐らくですが、なにかを確かめたかったのかもしれません」
「確かめる?」
「拉致された二人……元々勇者パーティーのメンバーで、かつ、勇者召喚によってこの世界に来た異世界人でしたよね」
「ええ……まさかその二人を?」
「そうとしか考えられません。加えて、奴等はさほど力を行使したと思えない。やりあうつもりはなく、適当に撤退するつもりだったのでしょう。狡猾な奴等です」
「では今すぐあの二人を監視に……」
「いえ、それは止めておきましょう。我々は敵が明確になんであるのか、まだわかっていません。勇者協会の情報提供があれば楽なんですがね」
「かつてからの遺恨は消えずですか」
「下らない話です。本当に。ともあれ引き続き調査お願いします。何かしらの情報が残っているかもしれません」
「了解です、コウサカ=ミヤビ殿」
コウサカ=ミヤビと呼ばれた冒険者は再び歩き出す。
迷宮に響く水音に、耳を澄ませながら。
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