上 下
31 / 77
第一章 勇者追放

第三十話 勇者追放

しおりを挟む
事件から五日後。

「ドラニコス・フェールウッム。君を勇者協会から永久除名することが昨日決定した」

鉄格子の向こう側に立っている、協会から来た構成員の一人が公式書類の内容を読んだ。
キリッとした七三分けの茶髪で、黒縁の眼鏡をかけている。
その隣には、不適な笑みを浮かべる勇者がいた。
青いワイルドポニーテールの髪型に、琥珀色の瞳は侮蔑めいたものが宿っていた。

「それにともない各種支援は即時撤廃、君の、もう壊れて使い物にならない神槍も回収。賠償金の方は家が出してくれたそうだよ」

「それが言いたいがためにこんなクソッタレた場所に来やがったのか」

「それが私の仕事だからね。まあゼブラール帝国にずっと居座るだけの勇者には、十分裕福な想いをさせてあげたと、個人的には考えるが」

「俺を誰だと思って」

「ドラニコス・フェールウッム。フェールウッム家五代目の長男。しかし家の実権は長女で姉のクラリッサに握られている。それぐらいは知っている」

男は書類を鞄にしまうと、話題を変えるべく咳払いをした。
勇者専用の独房の廊下は、やけに長いので響く。

「私の仕事はまだ他にもある。その中に、ある二人の勇者の話をしようと思っているんだ」

「…………なんだ、あの役立たずの荷物もちと、それに毒された尻軽がどうしたんだ」

「いや、すでに除名されている二人はどうでもよい。問題はその補充として君のところに渡った方だ」

「ああ、カネハラは良い女だった。勇者に対しての」

「君の感想を求めてはいない。知りたいのはただひとつ。あの二人はどこにいる?」

「…………はあ?」

協会から支給されたスーツのネクタイを緩め、男は再度問う。

「金原礼華と佐藤史郎。この二人の所在を君は知っているのか?」

「知らねぇよ」

「…………やれ」

頷く女勇者は右手をドラニコスへと向けると、青白い電流が流れた。
かつて勇者だった男の叫び声が駆け抜ける。
反響し、帰ってくる頃には死にかけていた。

「答えろ」

「はぁ、はぁ、本当に、知らない…………あいつらは、いつの間にか、消えてた!」

「ふむ……」

協会の男が顎を撫でると、女勇者の行動を腕で止める。
どうも本当に知らないらしい、と判断した。

「…………なるほど。用事はそれだけだ。ではよい生活を」

「まて! あの二人がどうしたんだ!」

「教えなくてもよいんだがなね」

さり際に残す言葉としては、それはあまりにも違いすぎたかもしれない。
なにかを知っても、それが有効活用できないなら知らなくても良いかもしれない。

しかし、ドラニコスの咄嗟な発言に、男は慈悲の代わりに教えた。

「あの二人は、君のところに本来やって来ていた二人を殺した犯人なのさ」


@@@@@@


事件から三ヶ月後。
デリアドの上流階級が済む住宅区画の一角にある、今はもう家主を失った屋敷にて。
その地下、下水道よりさらに下のエリアで、そのダンジョンは存在した。
草薙アギトと朝霧陽菜野が囚われていた場所であり、勇者パーティーのメンバーである、エレーミア・フォン・フィッツネルの持ち家の地下でもある。
本来は、魔法士リーデシアが合成魔獣の研究のために作った施設だったが、後にドラニコスの命令で改造。
もしもの時に逃げ込める地下避難所として使われていた。

しかしその役目も今はなく、フィッツネル家はこの家を放棄し、エレーミアも勾留の身になった上で追放を告げられた。

そんな誰の家でも無くなったこの場所に、踏み入れる一団がいた。
その大半の人数は、冒険者である。
残敵掃討を兼ねて突入したのはいいもの、魔獣のほとんどが拉致された二人を助けに向かった冒険者パーティーや、先んじて調査していた勇者協会の集団によってあらたか攻略されていた。
黒ずんだ残骸が調べていくなかで、最奥にあるエリアに一人の冒険者がたどり着いた。

ルージュよりもずっと深い赤の髪で、それをひとつ結びにして背中へと流している。
蒼い瞳を持つ顔立ちは穏やかでフレンドリーな表情を決して崩さない。
そんな女冒険者が身にまとうのは、紺碧のコートとワイシャツにズボンという格好。
腰には長剣と短剣が吊られて、前者は右腰に、後者は背中に。

「どうでしょうか?」

やってきた冒険者の丁寧な問いに、調査していた冒険者が応えた。

「やはり間違いありません。微弱ですが、魔人の気配が残っています」

「そうですか。これは、どうも急がないと行けなくなりましたね」

「しかしながら奴等、いったいなにが目的だったのでしょうか? 勇者を殺すなら、こんな回りくどい方法でやらなくても」

疑問を抱く調査者に、女冒険者が即答した。

「いや、殺すのが目的ではありませんね。恐らくですが、なにかを確かめたかったのかもしれません」

「確かめる?」
 
「拉致された二人……元々勇者パーティーのメンバーで、かつ、勇者召喚によってこの世界に来た異世界人でしたよね」

「ええ……まさかその二人を?」

「そうとしか考えられません。加えて、奴等はさほど力を行使したと思えない。やりあうつもりはなく、適当に撤退するつもりだったのでしょう。狡猾な奴等です」

「では今すぐあの二人を監視に……」

「いえ、それは止めておきましょう。我々は敵が明確になんであるのか、まだわかっていません。勇者協会の情報提供があれば楽なんですがね」

「かつてからの遺恨は消えずですか」

「下らない話です。本当に。ともあれ引き続き調査お願いします。何かしらの情報が残っているかもしれません」

「了解です、コウサカ=ミヤビ殿」

コウサカ=ミヤビと呼ばれた冒険者は再び歩き出す。
迷宮に響く水音に、耳を澄ませながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...