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第一章 勇者追放

第二十四話 殺す

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相対するアギト達とドラニコス達。
しかし実際には、アギトと勇者パーティという構図だろうか?
セシルとカイロルが続こうと前に出ようとするが、アギトがそれを制止する。

「悪いが手出ししないでくれ。あいつらは全部俺が殺す」

「そうかい。だがな、殺すことは見逃せねぇ。冒険者は殺人集団じゃないんでな」

そういうセシルの眼に当てられて、多少は頭が冷えたのか。

「…………ああ、そうだったな。なら半殺しにするから手を出すな」

アギトは誰かに介入されずに、勇者パーティを倒したかった。
そこだけは譲れないと、言わんばかりの表情を浮かべている。

しかし無茶振りにも程があると、セシルは思う。
勇者がどこまで腐っていようが、その実力は本物である。
第一あれほどの余裕。
合成魔獣が殺されても、まだなんとかなると思っているらしい。

「わかった。だがヤバくなったらアタシらは無条件で突っ込むからな」

「頼む」

「やってこいアギト」

勝てるかどうかも解らない戦いに行かせてよいものか?
その判断は完全にできていないが、 しかし、仲間のことを信じていたいセシルの心が決断させた。

アギトが前に出ると、ドラニコスは不敵に笑った。

「ふはははは!! まさか荷物持ちごときが俺とやりあうというのか? 力だけは自信があるそうだが、魔力がない奴が勇者に勝てるわけがねぇだろうに。どうせなら雑魚ども全員でかかってこい。どうせ殺すんだからよ」

「五月蝿いっていってんだろ。耳が腐ってんのか豚野郎。それとも言葉が理解できないのか」

「…………ああ?」

「不愉快極まるんだよてめぇの鳴き声は。その舌の根を抜き取ってやるから、待ってろ」

「はっ! 屑の分際が俺とすぐに戦えると思っているのか?」

その言葉を合図に、エレーミアがドラニコス達の壁となるかのように前へ踏み出した。

「ふん……私の騎士剣術をみせて」

剣を構えた時には、すでにアギトは女騎士を間合いへとつめていた。

「へ? あ、この!!」

遅い。
対応も把握も。

そう言わんばかりにアギトの太刀が素早く右に払われる。
鍔迫り合うこともなく、エレーミアのロングソードは火花と金属音を奏でて、折れた先端部位の刀身が床に転がった。

「…………なっ、ぐはっ!?」

武器を無力化すると、続いて容赦なく蹴りを繰り出す。
鎧の上から腹部に突き刺さる衝撃が、彼女の内臓を幾つか潰し、吐血させながら床に倒した。
仰向けになるエレーミアの姿に、ドラニコスは叫ぶ。

「エレーミア!!」

「あ、がはっ、どら、にこ」

潰される。
顔面に目掛けての踏みつけ。
草薙アギトは脚力の全てを込める勢いで、エレーミアの顔を粉砕せしめた。

「アギトっ…………」

苦い顔になるセシル。
しかし、止めることはできない。
敬意はどうあれ、やられていたのはアギト達であり、報復する権利はある。
さらに言えば、今の彼に制止の言葉など耳にはいらないだろう。

その時のアギトは無愛想な表情だった。
いつもと変わらない、怖いくらいに普段通りの目付き。

それがどうしても畏怖させる。
彼にとって、こんなこと些細だと思うほどに、怒りに満ち足りているのだから。

やられたエレーミアにリーデシアが続く。
こいつはヤバイ。
ドラニコスの脅威になる。
そんな思考から来た、特攻じみた突撃は、魔法の効果を付与した鞭で行う。
まるで蛇のようなしなりを見せつけて、放たれる一撃がアギトの太刀に巻き付いた。

「武器を抑えたわ! ドラニコス! 今のう、ぎゃあ!!」

言いかけたところに、アギトが太刀を放り投げ、腰に差していた鞘を抜き取って振り下ろした。
頭を殴られたリーデシアは意外な打撃に混乱する。
敵の誰かが横槍をいれたのか?
そうとも考えた。

たしかに、流石にまずいと感じた冒険者の何人かが反応し、踏み込みかけていた。
けれど、助けがさしこまれることはなく、アギト自身ですべて解決していたのだ。
なによりも、鞘で殴り付けるというのは誰も考えたことのない発想だった。
その武術には息を飲まざるおえない。
厳密に言えば、ユグドラシェル大陸出身者には馴染みのない、東方武術の一端ではあるが。

ともあれ、頭部を激しく揺らされたリーデシアはふらつくと、更に殴打が叩きつけられた。
右左と交互に横からの打撃に、彼女はすぐに膝を屈する。

しかし倒れることをアギトはよしとしない。
空を舞う顎にむけて今度は蹴りあげ、胸ぐらを掴み、鞘を握りしめた拳で殴った。
勇者パーティの女魔法士も、顔面が変形し、この時点で気絶していた。

「リーデシア!! き、貴様ぁあ!!」

ドラニコスも怒りが溢れた。
自らの女達をここまで傷つけられ、我慢できるわけがない。
そんな正義感を胸に宿して。

ドラニコスは次元空間に収納していた武器を手に取る。
輝かしい栄光によって構築されているといっても、過言ではないほどに美しいランス。
その切っ先をアギトへと向けた。

「赦さん……断じて! お前は決めたぞ……ヒナノの目の前でなぶり殺しにしてやる!!」

ぐったりとしたリーデシアを放り捨て、ついでにその右腕を踏み砕き、鞭に送られている魔力を切断する。
単なる硬い縄になったそれを切り捨てて、アギトの太刀はドラニコスに向けられた。

「やってみろよ」

挑発に応える形だが、勇者は止まらない。
飛び出したランスの刺突が閃光と同じ速度で放たれて、アギトの心臓に目掛けて迫る。

寸前で、回避に成功。
鞘を囮にしてくるりと身体を横に回し、受け流すようにして凌いだ。
結果的に盾にされた鞘は粉砕し、ドラニコスは戦闘不能の二人を拾い上げることに成功した。

強い。
勇者の名前は伊達でなかった。
セシル達が素直に認める一方で、アギトの反応はほぼ無いに等しい。

「運がいいな。しかし、次はうまくいかせねぇ。カリン、二人の治療を頼む」

「はい! 二人ともしっかり!!」

聖職者カリンは頷いて治癒魔法を発動する。
横にされた二人の負傷が徐々に治っていくが、ダメージそのものは無くならない。

それを見ることなく、アギトは応えた。

「そうだな。次はお前潰すからな」

太刀を大上段に構えると、それを背負うようにしながら、身を低くする。
クラウチングスタートのような体勢で、灰色の瞳は真っ直ぐに向けた。

「どんなことをしても無意味だ! 俺のほうが速いんだよ!! 神槍ヴァル・デ・バラの錆びになることを、幸福に思いながら死ねぇえ!!」

再び、ドラニコスは突撃した。
さながら砲弾のような勢いで。
神槍の名に恥じぬ攻撃力を、あらゆる防御を無意味だろう。
ましてや太刀で受け止めるなど不可能に近い。
絶体絶命は確実で、最早どうにかできることはない。

しかし、セシル達が手を伸ばした、その瞬間である。

アギトが、吠えたのだ。
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