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第一章 勇者追放

第二十三話 ゆびきりげんまん

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~~~~~~

「ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます♪ ゆびきった!」

「なんだよこれ?」

「やくそく! いつでもアギトが私のことをまもってくれるの!」

「おひめさまごっこのつづき?」

「うん!」

「わかった」


いつだってそうだった。

あいつは、ヒナは俺にとってのお姫様で。

ヒナにとって、俺、草薙アギトは騎士だった。

それでよかった。


~~~~~~


陽菜野はベッドへと押し倒される。
前座など知ったことかと言わんばかりで、ドラニコスはズボンを下ろした。

「そんなに感涙してくれるなんて。俺としてはそこまで期待されると、すこし緊張するなぁ」

「………………」

反応せず、ただ嗚咽が鳴り響く。

「キスしようか」

「…………………嫌……いやぁ……」

「別にいいよ。ただそのときはあそこの醜い馬鹿が魔獣の餌になるだけだ。リーデシアのお手製でね。食欲旺盛で困っていたところなんだよ」

「あ…………あぁ……」

「さあどうする? ああそれともいきなり突っ込まれたほうが」

その瞬間だった。
突然、壁だと思われていた一ヶ所が開かれたのだ。
物音に振り替える面々を迎えたのは、凄まじい勢いの煙幕。

「な、なにが!?」

「カリン、風の魔法で吹き飛ばすんだ!」

ドラニコスの指示は的確で、カリンの放った無詠唱の簡易型風魔法は、煙幕を一瞬で吹き飛ばした。
それを発生させた人物、弓使いの冒険者リサとリティアの姿が露になる。
それだけではない。
彼女達の元には、全裸の陽菜野がいた。
リサに肩をかされ、ローブだけを肩にかけている。

「何者だ」

ドラニコスはズボンを上げて問う。
リサが応じる。

「答えると思う? 腐れ勇者」

「冒険者なんだろ。薄汚い手で俺の女に触るな」

「キモ。虫酸が走るくらい」

と言いつつ、道具袋から弓使いの冒険者が取り出したのは、新たな煙幕玉であった。
投げつけて、この場からの撤退を試みる。

が、玉は破裂する前に、リーデシアの炎の魔法で焼き消されてしまう。
さらに逃がさんと、エレーミアが突貫。
ロングソードを抜き払い、容赦なくリサへと斬りかかった。

しかし、冒険者達の背後から新たな冒険者が飛び出してきて、女騎士の剣戟が弾かれる。
カイトシールドを構える戦士カイロルだ。
体勢を崩したエレーミアに、反撃が放たれる。
カイロルを踏み台にして、槍使いの戦士チュルムがそれを行った。

「おらぁ!」

「ちぃっ!!」

仕方なく、バックステップで回避する女騎士に、両戦士も一度間合いを開けた。

一方、アギトの方でも救援が隠し扉から現れた。
盛大に扉をぶっ壊し、女戦士セシルと魔法士ゼナックがやってくる。

「アギト無事か!?」

「セシルか!」

「……無事には見えないが、死んでねぇなら上等だ! ゼナック!」

呼ばれるまでもないと、詠唱を済ませた彼の治癒術が、アギトの負傷を癒していく。
目立つ外傷が無くなったのを確認して、セシルから太刀を受け取る。

「予備のだが問題ないな!?」

「ああ。こいつがあれば十分だ」

そして、実にスプラッターな窓に二人は向かうと、思いっきり攻撃を叩き込んだ。
砕かれ、破片がきらびやかに舞う。

「…………なるほど。リーデシア、どうやらはめられたようだね」

「ええ。荷物持ちとボロ雑巾どもが考えそうなことね。でもどうしてここがわかったのかしら?」

「ふん、それは後で調べていいだろう。今はこいつらを殲滅する。魔獣を放つんだ」

ドラニコスの言葉に従い、リーデシアはリモコンを操作。
魔獣の檻が開かれて、獅子型の合成魔獣が餌達を見つめて咆哮をあげた。
その力量は経験のあるセシルからみて、明らかに高いと判断できるだろう。

「ちっ、こいつは骨が」

「五月蝿い」

だが、アギトは有無を言わさずに飛び込んだ。
迅速に、そして勢いよく。
止めようとするセシルの手は遅く、三歩目を歩いたところで、双方は間合いに入っていた。

獣の前足が凪払われる。
絶大な風圧を帯びるそれは、合成魔獣特有の魔法攻撃であった。
回避困難な一撃に、アギトは避ける素振りなどない。
諦めることは無いだろうから、おそらくは判断ミスだ。
怒りに身を任せた突撃とも言える。

なんにせよ確実に殺せると、獅子が思った刹那だった。
前足が敵に届く、数歩手前で視界が真っ二つになったのだ。

アギトの太刀筋は誰の目にもとまらなかった。
あまりにも速く、剛い。
強靭な合成魔獣を真っ二つにするほどに。

「なに!?」

リーデシアだけではなく、誰もが驚愕した。
それは、太刀で叶うはずのない行為だったからだ。
しかし現実に、眼前で魔獣は両断された。
返り血を浴びて、真っ赤になったアギトが振り返る。

灰色の瞳ただ真っ直ぐ、憎い敵をとらえていた。

「そこで待ってろ」

それだけ言うとアギトはゆっくりと歩み、陽菜野の元へ向かい、彼女を抱き締めた。

「…………あぎ、と?」

「ごめん。ごめんな。俺は、約束を」

「えっと…………みんな?」

「ああ。セシル達に依頼していたんだ。おかげで報酬金が大体パーになった。それもごめん。相談もしないで、勝手にやった」

「…………そっか、そうなんだ」

ようやく、噛み締めるように理解すると、陽菜野の手がアギトの背中に回る。

「あんなに、血塗れになって」

「すまなかった」

「やめてよって、言ったのに」

「悪かったよ」

「馬鹿、ばか、ばかぁ…………」

「ごめんなさい」

嬉しい感情が高ぶり、陽菜野はまた嗚咽を漏らした。
流れる涙を指でとってやり、アギトが笑みを浮かべる。

「もう大丈夫だ。あとは任せろ」

そして、仲間達に彼女を預けて、かつてのパーティメンバーへと振り返った。
太刀をなんどか握り直して、しっくり馴染ませる。



「殺す」
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