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第一章 勇者追放

第十二話 休憩の暇

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コロニクス平原からみて北部、スバーリック平野の街道から少し離れた草原。
そこに休憩をするアギトと陽菜野の冒険者と、依頼者トランスト。
馬達は草を食べたりしながら、陽菜野から軽い手入れを受けていた。
馬車に備え付けられていたブラッシング器具と魔法を用いて馬達を綺麗にしていく。

「えへへー。気持ちいいー?」

ひひーん。
長年こびりついた汚れが落ちていき、馬達が気持ち良さそうにいなないた。

「そっかそっかぁー。うんうんいいこだねぇー」

嬉々として行うそれに、遠目から眺めるトランストは、近場で寝転がっているアギトに声をかけた。

「馬にあそこまで熱心になるとは」

「…………相方は動物とかが好きなので」

「そうなのか。しかし私は騙されていたのか」

「………………」

会話が続かない。
先程からトランストはアギトに色々と話題をかけているが、数言交わしたらすぐにどちらかが沈黙してしまっていた。

「ふむ、ふぅむ…………」

「………………」

何か意味ありげに唸ってみるが、アギトは昼寝を続ける。
無愛想とはここに極まりと言った様子で、貴族の次男坊のコミュニケーション歴に置いて、類をみない相手だった。
故に生じた不安感は、積み重なっていくうちに苛立ちへと変わっていく。

「なあ君、そろそろ休憩を終わりにしないか?」

「…………まだ洗っているでしょう。中途半端にすると、馬にも悪影響だ」

「それは解るんだが……そのなんだ、私はそろそろ飽きてきた」

「………………」

「……あー、そうだ! 君、なにか面白い話をしらないか?」

「…………知らねぇよ」

「そうか、そうだよなぁ……はぁ…………」

どうして自分がこんな目に遭わなくてはならないのか。
トランストの言葉なき嘆きが、青々とした空に向けられた。
早く家に帰りたい。
ひたすら自堕落に住んで、明日のことなど考えなくてもいいようになりたい。
そんな考えが幾つか反芻させて、それでも変化させることが難しい現実に項垂れるしかなかった。

いっそのこと、こいつを叩いてみるか?
とも考えるが、冒険者相手に真正面で喧嘩したら、たとえ武器を使われなくてもどうなるか彼はよく理解していた。

一方、うだつの上がらない自分に嫌気をさしていく中年に、若者たるアギトもイライラしていた。

ハイペースで行ってもさして時間は変わらない道のり。
ならば、堅実に難しくないルートとリズムで歩むのが最善策。
なのに急ぐことしか考えられないこの男は、どれだけ思慮にかけているのかと思わざるおえない。

結局、四十分ほどで馬の手入れが済み、それまで草原の風を浴びることになったトランストへ陽菜野が申し訳無いようにやってきた。

「ごめんなさい、その、手入れが終わりましたので行きましょうか」

「まったく……私は早くこの仕事を終わらせて、家に帰りたいのだ。その協力をしてほしいのだがね」

「その分ならば、馬達はきっと応えてくれますよ。すっきりさせていい気分になっているはずです」

馬車に繋がれた二匹の馬は、老齢いえどもピカピカとした印象を纏っていた。
休憩前よりも漲っているようだ。

「うむ、まあ、その辺は感謝しておこう。では進むとしよう」

馬車に乗り、手綱を握る。
歩き出すよう指示をあたえると、馬達は楽しそうに歩きだした。
左右にアギトと陽菜野が護衛について、その足取りはそれなりに軽い。

「…………」

トランストからみて、何かが変わったのかよく解らなかった。
しかし時間をかけた分にはなにかしら良くなっているのだろうと考えることにした。
そうしなければ、時間を無為にかけたと思ってしまうからだ。

街道は長く、まだまだ先がある。


@@@@@@


その頃、勇者パーティが居座るホテルの部屋で、新たなパーティメンバーが到着していた。

「初めまして勇者ドラニコス様。僕の名は____」

「男はどうでもいい。問題は、そっちのほうだ」

ソファにふんぞり返ってそう言うと、室内にいる面々の視線が一人の少女に向けられる。

「お初にお目にかかります勇者ドラニコス様。私の名は金原礼華。勇者召喚によってこの世界に呼ばれたものでございます」

金原礼華は深々と、ゼブラール帝国貴族の礼法に習って頭を下げた。
腰まで伸びたプラチナブロンドのロングストレートで、やや鋭い目元と鼻先がチャーミングな彼女は、貸与されたゼブラール帝国軍の魔法士軍服に身を包んでいた。
平均的な身長であるが、抜群なプロポーションは男の視線を釘付けにするほどである。
実際、ドラニコスは彼女の乳房に目線を向けていた。

すると、金原はくすりと微笑んだ。
それは、少女がするにはあまりにも魔性というものだろうか。
視線が向けすぎたと気がついたらドラニコスは顔を背けた。

「勇者様、どこをみていらっしゃるんですか?」

「失礼、気分を悪くしたなら謝罪する」

「いえ、勇者様も男性ですから仕方ありませんし、それに」

金原は続けて、軍服の胸元のボタンを数個外した。
黒い下着に収まるたわわな果実が、確かな質量として露になる。
その行為に、勇者パーティの女性陣は度肝を抜かれたような表情になり、新たな男のメンバーは変わらない笑みを浮かべていた。

「ふふ、どうやらお気に召すことが叶った様子ですね」

「…………誘っているのか、この淫乱女が」

「お恥ずかしながら、私は趣味として肉欲を満たしているので」

「そうか。なら幾らでも可愛がってやる」

そうして、勇者パーティは再び活動を再開した。
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