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第一章 勇者追放
第十一話 依頼開始
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三日後、依頼者より承諾の応答があった。
集合場所にたどり着くと、トランスト・フォン・ハルコヴィルが馬車と共に待っていた。
トランストは中年の何処にでも居そうな商人という風体だった。
美食の匂いを漂わせているのは、貴族ゆえだからなのか。
体型も肥満気味であり、しかし完全にまん丸という程ではない。
なんであれ、アギトの第一印象は、デブという以外になかった。
「君達二人が私の護衛かね?」
貴族らしい態度にアギトは額のしわを増やしたのかもしれない。
苛立つ幼馴染を尻目に、陽菜野が前にたつ。
「初めましてトランストさん。私が朝霧陽菜野。こっちが草薙アギトです」
「うむ、話に聞いているが……しかし若いなぁ。いくつだい?」
「17歳です。二人とも」
「17か。なんとも頼りないように見えるが……しかし、君らは勇者パーティの一員であったのだともきく。あの担当者が出鱈目を言ってないこと、期待しておくよ」
そう言ってトランストの重たい足並みが馬車へと運ばれた。
舌打ちをするアギトだが、一応、彼の前でやらなかった分気をつかったのかもしれない。
「アーギートー」
と、陽菜野の目線が突き刺さる。
「解っている。気にしない。ほっておけばいい」
「それを維持すること。ドラニコスとの日々を思い出して」
「あそこで培った忍耐力をみせてやる」
「そのいきで、お願いね」
そんな空気で出発する一行。
ルートは事前の打ち合わせ通りで、街道を中心にゆったりと進む。
途中、山間部の浅い所へと踏み入れるが、そこを抜ければすぐに都市境の門へと到達する。
そこから先は、また別の冒険者が引き継ぐことになる。
何もなければ二日間の旅路だが、言うほどそこまで危険なものではなかった。
しかし、護衛の行軍と言うのは想像以上に辛いものである。
スローペースであれ、馬車と同じ速度で歩かなければならず、更に周辺を警戒しなくてはならない。
気を張り巡らせるのは、それなりの精神力と集中力が求められた。
しかもこれを長い間休みなしに続けろと言うのだから、二人だけというのは厳しくもある。
せめて、あと一人居れば交代などをして楽にできるが、そこは依頼者の財布事情が絡む。
確実に守ってほしいなら、もっと高位な冒険者を雇えば良かったが、報酬が見合ってないものをわざわざ受けるものはいない。
ともあれ、文句の一つぐらい口にしたくなっていたアギトは、無言で歩き続けた。
陽菜野も決してあるわけではない体力をふるって、足を動かし、視線を回す。
そのなかで、呑気に馬車の手綱を振るうのは、トランストであった。
貴族にしては、わりかしとケチである彼は、従者も連れずに街道に出たのは理由がある。
それが、父親との喧嘩だった。
デリアドの帝国貴族は百家ほど存在し、そのなかで、上位が二十程度。
ハルコヴィル家は下位にあたり、名声らしきものもない。
およそ四百年前程度に起きた十字軍戦役という戦乱にて、敵の聖騎士団長を討ち取ったことで、騎士の称号を得るまでは良かった。
しかしそれ以降なんらかの武勲がたてられずに下位貴族へと没落。
以後、代々受け継いだ商会のみにしがみついて、安い取引で食い繋いでいる。
最近、その商会も先行きが良くない。
このままでは明日の食事が危ういかもしれないということで、急遽隣接都市の商人との交易を作ることになった。
そのための名代がトランストであった。
トランストはハルコヴィル家の次男坊で、やや自堕落な性格かつ、活力を持っていない男だった。
それは外見からも解るがその理由として、過去に数回想い人に告白し、そのことごとくが手痛くフラれたからだという。
最低限の騎士礼法と貴族としての勉学だけを学び、あとはひたすら引きこもるような生活を続けていた。
が、それも支えることが出来なくなったらしい。
家の命令で自費でこの任務を達成できない限りは、敷地を跨ぐことを禁じられたのだ。
言いようによっては、可愛い我が子を武者修行に無理矢理出されたとも言えなくもないか?
陽菜野は昨日調べた事前情報を思い出しながら、そう結論づけた。
ただし、その我が子は、中年の恰幅がいい男だ。
あわれみは持てなかった。
そうこうして三時間経った。
流石に疲れを覚えた陽菜野は、馬車に向かって口を開く。
「そろそろ休憩にしましょう。馬が歩き続けて疲れているみたいです」
「なにをいう。私が大枚をはたいて買った馬だ。行商が言うには一日中歩いても疲れしらずと言っていた」
馬は、言うほどではないが、確かに疲れていた。
よく見ると相当な老馬ではないか?
陽菜野は動物が大好きで、それなりの知識と見識を持っていた。
少なくとも、見るだけで動物の年齢が大体解る程度には。
「恐らく嘘ですそれ。この馬達は相当使われてきたんでしょうね。見てください」
「む?」
「例えば足。もし行商の言葉通りに一日中歩いても疲れしらずというほど若いのであれば、こんなに細く筋肉量が少ないのはおかしいです。むしろもっと太く、力強い印象があります」
「なるほど」
「あとは、口元に髭が生えてますね。手入れがきちんとされていないんでしょう。蹄はきられていますが、細かいところが手抜きです。ほら、身体も傷だらけで汚れだらけ。可哀想に…………ちょっとお手入れしないと」
「お、おい何をしようとしている?」
「馬車から取って、適当な湖で水浴びを……ああそれからブラッシングもしないと。鬣もごわごわだ。痛いよね? 大丈夫、ちゃんと」
と、そこでアギトが陽菜野の頭を軽く叩いた。
「なにやってんだ」
「…………え? あ、っ~~!!」
我に帰った陽菜野が顔を真っ赤にすると、アギトがトランストに言った。
「疲れているのはこいつの方みたいだ。馬も含めて休憩したい。いいな」
「う、うむ……だがなぁ……」
チラッと、馬をみるトランスト。
彼の目にはまだ馬が疲れているように見えない。
だが、顔を紅潮している彼女は、確かに疲れているのかもしれない。
そう思考すると、ため息混じりに応えた。
「仕方ない。しばし休憩しよう」
集合場所にたどり着くと、トランスト・フォン・ハルコヴィルが馬車と共に待っていた。
トランストは中年の何処にでも居そうな商人という風体だった。
美食の匂いを漂わせているのは、貴族ゆえだからなのか。
体型も肥満気味であり、しかし完全にまん丸という程ではない。
なんであれ、アギトの第一印象は、デブという以外になかった。
「君達二人が私の護衛かね?」
貴族らしい態度にアギトは額のしわを増やしたのかもしれない。
苛立つ幼馴染を尻目に、陽菜野が前にたつ。
「初めましてトランストさん。私が朝霧陽菜野。こっちが草薙アギトです」
「うむ、話に聞いているが……しかし若いなぁ。いくつだい?」
「17歳です。二人とも」
「17か。なんとも頼りないように見えるが……しかし、君らは勇者パーティの一員であったのだともきく。あの担当者が出鱈目を言ってないこと、期待しておくよ」
そう言ってトランストの重たい足並みが馬車へと運ばれた。
舌打ちをするアギトだが、一応、彼の前でやらなかった分気をつかったのかもしれない。
「アーギートー」
と、陽菜野の目線が突き刺さる。
「解っている。気にしない。ほっておけばいい」
「それを維持すること。ドラニコスとの日々を思い出して」
「あそこで培った忍耐力をみせてやる」
「そのいきで、お願いね」
そんな空気で出発する一行。
ルートは事前の打ち合わせ通りで、街道を中心にゆったりと進む。
途中、山間部の浅い所へと踏み入れるが、そこを抜ければすぐに都市境の門へと到達する。
そこから先は、また別の冒険者が引き継ぐことになる。
何もなければ二日間の旅路だが、言うほどそこまで危険なものではなかった。
しかし、護衛の行軍と言うのは想像以上に辛いものである。
スローペースであれ、馬車と同じ速度で歩かなければならず、更に周辺を警戒しなくてはならない。
気を張り巡らせるのは、それなりの精神力と集中力が求められた。
しかもこれを長い間休みなしに続けろと言うのだから、二人だけというのは厳しくもある。
せめて、あと一人居れば交代などをして楽にできるが、そこは依頼者の財布事情が絡む。
確実に守ってほしいなら、もっと高位な冒険者を雇えば良かったが、報酬が見合ってないものをわざわざ受けるものはいない。
ともあれ、文句の一つぐらい口にしたくなっていたアギトは、無言で歩き続けた。
陽菜野も決してあるわけではない体力をふるって、足を動かし、視線を回す。
そのなかで、呑気に馬車の手綱を振るうのは、トランストであった。
貴族にしては、わりかしとケチである彼は、従者も連れずに街道に出たのは理由がある。
それが、父親との喧嘩だった。
デリアドの帝国貴族は百家ほど存在し、そのなかで、上位が二十程度。
ハルコヴィル家は下位にあたり、名声らしきものもない。
およそ四百年前程度に起きた十字軍戦役という戦乱にて、敵の聖騎士団長を討ち取ったことで、騎士の称号を得るまでは良かった。
しかしそれ以降なんらかの武勲がたてられずに下位貴族へと没落。
以後、代々受け継いだ商会のみにしがみついて、安い取引で食い繋いでいる。
最近、その商会も先行きが良くない。
このままでは明日の食事が危ういかもしれないということで、急遽隣接都市の商人との交易を作ることになった。
そのための名代がトランストであった。
トランストはハルコヴィル家の次男坊で、やや自堕落な性格かつ、活力を持っていない男だった。
それは外見からも解るがその理由として、過去に数回想い人に告白し、そのことごとくが手痛くフラれたからだという。
最低限の騎士礼法と貴族としての勉学だけを学び、あとはひたすら引きこもるような生活を続けていた。
が、それも支えることが出来なくなったらしい。
家の命令で自費でこの任務を達成できない限りは、敷地を跨ぐことを禁じられたのだ。
言いようによっては、可愛い我が子を武者修行に無理矢理出されたとも言えなくもないか?
陽菜野は昨日調べた事前情報を思い出しながら、そう結論づけた。
ただし、その我が子は、中年の恰幅がいい男だ。
あわれみは持てなかった。
そうこうして三時間経った。
流石に疲れを覚えた陽菜野は、馬車に向かって口を開く。
「そろそろ休憩にしましょう。馬が歩き続けて疲れているみたいです」
「なにをいう。私が大枚をはたいて買った馬だ。行商が言うには一日中歩いても疲れしらずと言っていた」
馬は、言うほどではないが、確かに疲れていた。
よく見ると相当な老馬ではないか?
陽菜野は動物が大好きで、それなりの知識と見識を持っていた。
少なくとも、見るだけで動物の年齢が大体解る程度には。
「恐らく嘘ですそれ。この馬達は相当使われてきたんでしょうね。見てください」
「む?」
「例えば足。もし行商の言葉通りに一日中歩いても疲れしらずというほど若いのであれば、こんなに細く筋肉量が少ないのはおかしいです。むしろもっと太く、力強い印象があります」
「なるほど」
「あとは、口元に髭が生えてますね。手入れがきちんとされていないんでしょう。蹄はきられていますが、細かいところが手抜きです。ほら、身体も傷だらけで汚れだらけ。可哀想に…………ちょっとお手入れしないと」
「お、おい何をしようとしている?」
「馬車から取って、適当な湖で水浴びを……ああそれからブラッシングもしないと。鬣もごわごわだ。痛いよね? 大丈夫、ちゃんと」
と、そこでアギトが陽菜野の頭を軽く叩いた。
「なにやってんだ」
「…………え? あ、っ~~!!」
我に帰った陽菜野が顔を真っ赤にすると、アギトがトランストに言った。
「疲れているのはこいつの方みたいだ。馬も含めて休憩したい。いいな」
「う、うむ……だがなぁ……」
チラッと、馬をみるトランスト。
彼の目にはまだ馬が疲れているように見えない。
だが、顔を紅潮している彼女は、確かに疲れているのかもしれない。
そう思考すると、ため息混じりに応えた。
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