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第一章 勇者追放
第六話 太刀
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アギトと陽菜野が冒険者になり、一週間後。
コロニクス平原よりさらに東進した先にある”アーネス森林”で、二人は冒険者の先輩と共に依頼をこなしていた。
高純度な魔力産出地特有の薬草等の採取が依頼内容であるが、魔力に釣られて魔獣や魔物が多く集まりやすく、単純な山草採りではなかった。
戦士のセシルが大声で叫ぶ。
女性とは思えぬほどの響きで、接敵している魔獣達の注意を引くことができた。
魔獣は狼型の種族でフォレストウルフという。
持ち前の敏捷と、集団で狩りをする習性は、緑色の群影となって木々の間を器用に走り抜けてくる。
それに対して、弓使いのリサが短弓をもって迎撃。
素早く放たれた矢は空気ごと迫り来る一匹を射抜くことに成功した。
フード付きのレンジャーマントに軽装な革鎧で、腰に吊り下げてある矢筒から、新たに矢を取り出して弦にかけて引き放っていく。
しかし、集団の数を減らすにはすこしばかり手数が足りない。
間合いがそう、遠くない状況に詰められた時。
セシルともう一人の戦士カイロルが互いに武器を手にして突貫する。
両刃斧を振るい上げて、狼の頭を真っ二つに潰すセシルに続いて、カイロルはカイトシールドのバッシュで畳み掛けながらロングソードを押さえつけた相手の喉元に突き立てた。
両者はそれで止まることなく、続く敵を迎撃し、四匹の獣の死体を地面に転がした。
前衛が蹴散らされたことで、リーダーである一頭は散開指示の合図を吠えた。
どうもテリトリーに接敵した奴等はそれなりにやるようだと、判断したからである。
単調に突っ込むことは止めて、包囲せん滅を仕掛けるのが得策とかけたのだった。
しかし、それは愚行極まったというべきか。
戦力が分散したフォレストウルフの集団は、突っ込んでくる一人の戦士を見つけた。
そいつは、見たことのない剣を担いで走り、こちらにがむしゃらな感じで突っ込んできている。
馬鹿め、こちらが何体いると思っているのか。
そう思ったのかは定かではないが、明らかに嘲笑したような雰囲気で、魔獣たちは敵の迎撃のため陣形を広げていく。
戦士、もとい剣士は、草薙アギトである。
彼の狙っている相手はただ一匹。
集団中央にいるフォレストウルフ。
牙を晒し、息が響く。
両方は互いにぶつかり合い、そして、アギトの放った斬撃は一瞬にして中央の一匹を両断せしめる。
僅かな数コンマのニアミスだったが、彼の太刀筋はフォレストウルフの首もとから、そのまま止まることなく腰に抜けていった。
見切れることかなわなかった魔獣たちは彼の刃の鋭さに驚くよりも先に、殺られた仲間を悼み、そして仇を憎んだ。
この一匹が集団のリーダーだったからだ。
頭目の無念を晴らすべく、獣の群影は走り出した。
しかし、その軌道は若干単純で素直すぎた。
アギトは迫り来る脅威に対し、冷静で冷酷だった。
太刀を肩に担ぐような構えで、前傾姿勢のまま突貫し、袈裟斬り。
先頭を切り伏せて、その勢いを今度は殺さずに、二匹目の首を切り上げではねる。
三匹、四匹…………と、多数の優位性を使うことができなかった手下たちはそのほとんどがアギトによって切り捨てられた。
そして気がつけば、フォレストウルフの数は片手で数えるだけとなった。
ようやく相手の力量を悟る残党。
身を翻し、命あっての物種と言わんばかりに逃走する。
その姿を見送り、アギトは太刀の刃から血を払い落として鞘に収めた。
「流石だぜアギト」
振り向くとそこには返り血を浴びまくったセシルがいた。
「まさかここまでやるなんてな。本当に荷物持ちだったのか?」
「運が良かっただけかもしれない。こいつらは集団なら強いが、単体ではさほどのものだ。それを狙ったに過ぎない」
「フォレストウルフはそんなもんだからな。さて、とりあえず採取している奴等の所に戻るか」
「残りは?」
「アタシらで片付けた」
「そうか」
そうして、二人は採取している仲間達の元へ向かう。
採取している薬草はニフラム草というもので、調合すれば良い回復ポーションを作ることができた。
それを規定数ほど採取し終えた面々が、迎撃していた仲間達を出迎える。
その中には陽菜野の姿もあった。
先に戻っていたメンバーの返り血を払って、負傷を癒していたようで、魔法の残光を掌に漂わせていた。
「アギトーっ」
幼馴染の帰還に手を振り駆け寄る。
フォレストウルフの返り血を頭から浴びていた彼に、即座と血を払って負傷の確認。
「どこか痛いところはない?」
「ない」
「苦しいとかは?」
「ない」
「無理はしちゃ駄目だよ」
「してない」
やや鬱陶しいそうに対応するアギトに、セシルを初めとして冒険者達の笑い声が響く。
「おいおい新婚夫婦のコツは、女の要望に応えることだぜアギト」
「幼馴染の奥さまにきちんと見てもらえよー」
この一週間で随分と馴れた野次に、アギトが反論する。
「誰と誰が夫婦だ」
「いやいやお前ら、最早この二人に夫婦なんて言葉は既に乗りきったのさ」
と、セシルがいう。
「すなわち、夫婦なんて当たり前。私達はもう家族なんですぅー。って、アギトの奴はいいたいのさ。アタシには解る!」
「なにも解ってねぇよ」
「へ、んで。赤ん坊はいつこさえるんだよ?」
「ぶっ飛ばすぞ」
「あらこわぁーい。奥様聞きました? あろうことか女に向かってこの言い種ですよ」
ふざけるパーティリーダーの返り血を払ってやっていた魔法士リティアは、面倒臭い表情で応じた。
「そりゃリーダーがしつこいからでしょ」
「あら、リティアったらアギトのフォローに回ってる?」
「五月蝿いのが嫌いなだけ」
「ふふーん」
「意味深に追求してもなにもないから」
負傷箇所に回復魔法をかけて、その後額へとデコピンをお見舞いしたリティアに、セシルは軽快な笑みを浮かべていた。
「まあなんにせよ、アギトとヒナノには助かってるよ。これからもよろしく頼むぜ」
そうして、パーティは依頼を達成した。
コロニクス平原よりさらに東進した先にある”アーネス森林”で、二人は冒険者の先輩と共に依頼をこなしていた。
高純度な魔力産出地特有の薬草等の採取が依頼内容であるが、魔力に釣られて魔獣や魔物が多く集まりやすく、単純な山草採りではなかった。
戦士のセシルが大声で叫ぶ。
女性とは思えぬほどの響きで、接敵している魔獣達の注意を引くことができた。
魔獣は狼型の種族でフォレストウルフという。
持ち前の敏捷と、集団で狩りをする習性は、緑色の群影となって木々の間を器用に走り抜けてくる。
それに対して、弓使いのリサが短弓をもって迎撃。
素早く放たれた矢は空気ごと迫り来る一匹を射抜くことに成功した。
フード付きのレンジャーマントに軽装な革鎧で、腰に吊り下げてある矢筒から、新たに矢を取り出して弦にかけて引き放っていく。
しかし、集団の数を減らすにはすこしばかり手数が足りない。
間合いがそう、遠くない状況に詰められた時。
セシルともう一人の戦士カイロルが互いに武器を手にして突貫する。
両刃斧を振るい上げて、狼の頭を真っ二つに潰すセシルに続いて、カイロルはカイトシールドのバッシュで畳み掛けながらロングソードを押さえつけた相手の喉元に突き立てた。
両者はそれで止まることなく、続く敵を迎撃し、四匹の獣の死体を地面に転がした。
前衛が蹴散らされたことで、リーダーである一頭は散開指示の合図を吠えた。
どうもテリトリーに接敵した奴等はそれなりにやるようだと、判断したからである。
単調に突っ込むことは止めて、包囲せん滅を仕掛けるのが得策とかけたのだった。
しかし、それは愚行極まったというべきか。
戦力が分散したフォレストウルフの集団は、突っ込んでくる一人の戦士を見つけた。
そいつは、見たことのない剣を担いで走り、こちらにがむしゃらな感じで突っ込んできている。
馬鹿め、こちらが何体いると思っているのか。
そう思ったのかは定かではないが、明らかに嘲笑したような雰囲気で、魔獣たちは敵の迎撃のため陣形を広げていく。
戦士、もとい剣士は、草薙アギトである。
彼の狙っている相手はただ一匹。
集団中央にいるフォレストウルフ。
牙を晒し、息が響く。
両方は互いにぶつかり合い、そして、アギトの放った斬撃は一瞬にして中央の一匹を両断せしめる。
僅かな数コンマのニアミスだったが、彼の太刀筋はフォレストウルフの首もとから、そのまま止まることなく腰に抜けていった。
見切れることかなわなかった魔獣たちは彼の刃の鋭さに驚くよりも先に、殺られた仲間を悼み、そして仇を憎んだ。
この一匹が集団のリーダーだったからだ。
頭目の無念を晴らすべく、獣の群影は走り出した。
しかし、その軌道は若干単純で素直すぎた。
アギトは迫り来る脅威に対し、冷静で冷酷だった。
太刀を肩に担ぐような構えで、前傾姿勢のまま突貫し、袈裟斬り。
先頭を切り伏せて、その勢いを今度は殺さずに、二匹目の首を切り上げではねる。
三匹、四匹…………と、多数の優位性を使うことができなかった手下たちはそのほとんどがアギトによって切り捨てられた。
そして気がつけば、フォレストウルフの数は片手で数えるだけとなった。
ようやく相手の力量を悟る残党。
身を翻し、命あっての物種と言わんばかりに逃走する。
その姿を見送り、アギトは太刀の刃から血を払い落として鞘に収めた。
「流石だぜアギト」
振り向くとそこには返り血を浴びまくったセシルがいた。
「まさかここまでやるなんてな。本当に荷物持ちだったのか?」
「運が良かっただけかもしれない。こいつらは集団なら強いが、単体ではさほどのものだ。それを狙ったに過ぎない」
「フォレストウルフはそんなもんだからな。さて、とりあえず採取している奴等の所に戻るか」
「残りは?」
「アタシらで片付けた」
「そうか」
そうして、二人は採取している仲間達の元へ向かう。
採取している薬草はニフラム草というもので、調合すれば良い回復ポーションを作ることができた。
それを規定数ほど採取し終えた面々が、迎撃していた仲間達を出迎える。
その中には陽菜野の姿もあった。
先に戻っていたメンバーの返り血を払って、負傷を癒していたようで、魔法の残光を掌に漂わせていた。
「アギトーっ」
幼馴染の帰還に手を振り駆け寄る。
フォレストウルフの返り血を頭から浴びていた彼に、即座と血を払って負傷の確認。
「どこか痛いところはない?」
「ない」
「苦しいとかは?」
「ない」
「無理はしちゃ駄目だよ」
「してない」
やや鬱陶しいそうに対応するアギトに、セシルを初めとして冒険者達の笑い声が響く。
「おいおい新婚夫婦のコツは、女の要望に応えることだぜアギト」
「幼馴染の奥さまにきちんと見てもらえよー」
この一週間で随分と馴れた野次に、アギトが反論する。
「誰と誰が夫婦だ」
「いやいやお前ら、最早この二人に夫婦なんて言葉は既に乗りきったのさ」
と、セシルがいう。
「すなわち、夫婦なんて当たり前。私達はもう家族なんですぅー。って、アギトの奴はいいたいのさ。アタシには解る!」
「なにも解ってねぇよ」
「へ、んで。赤ん坊はいつこさえるんだよ?」
「ぶっ飛ばすぞ」
「あらこわぁーい。奥様聞きました? あろうことか女に向かってこの言い種ですよ」
ふざけるパーティリーダーの返り血を払ってやっていた魔法士リティアは、面倒臭い表情で応じた。
「そりゃリーダーがしつこいからでしょ」
「あら、リティアったらアギトのフォローに回ってる?」
「五月蝿いのが嫌いなだけ」
「ふふーん」
「意味深に追求してもなにもないから」
負傷箇所に回復魔法をかけて、その後額へとデコピンをお見舞いしたリティアに、セシルは軽快な笑みを浮かべていた。
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