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第一章 勇者追放
第三話 個人テスト
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セシルの意気揚々とした足取りに連れられて、アギトと陽菜野は街区の中央道を進んでいた。
「いいか新人ども。アタシは口でどうのこうの言う奴が嫌いだ。そういう意味で、ドラニコスの野郎が大嫌いだ。奴は実績を戦果じゃなく、論説で証明してくる屑野郎だ。そして、そんなのにホイホイついていく奴も情けないとおもっている」
「私達が元々ドラニコスのパーティメンバーだったのが、それほど気に食わないですか?」
「ああそうだ。んで、そんな奴らの面倒を見ろってんだから腹が立つにきまってんだよ」
こりゃ派手に嫌われたものだ。
そう思う陽菜野であるが、セシルの考えには納得と同意を示したいとも思っていた。
ドラニコスが自分達にしてきたことや、周囲に対する行動など。
これを細かく語ればきっと二晩はそれで持ちきりになるぐらいの、様々な経験談を持っているが、今ここで話しても仕方無い。
「大体おめぇだよガキ」
「草薙アギト」
「てめぇなんざガキで十分だっての。なんだおめぇ、まさか童貞か?」
「聞きたいことはそれだけか」
「ちっ、おめぇこのクソガキ。そのふざけているような態度と目付きを改めろや。一ヶ月と相手してもらえるアタシに失礼だとは思わないのか?」
詰め寄るそれは明らかな恫喝や恐喝に近いものだった。
みなぎる殺意をちらつかせて、ビビらせるための表情を眼前に押し出す、圧迫的な言葉遣い。
しかしアギトは平然と、さながら死んだ魚の目と言えるような眼光で応える。
「思わない」
「…………へぇ、すこしはいい度胸があるじゃねぇか。ならまずはそいつがどれだけのものか、見せてもらおうか」
それからしばらく歩き、都市西部門を抜けた先にある”コロニクス平原”へと出た。
魔獣の存在はほとんど皆無であり、種的にも多くが手を出さなければ無害なものばかり。
定期的な魔獣駆逐が行き届いているからである。
セシルはそんな連中を見て、腕を組みながら見定めた。
そして、とある魔獣を指差す。
「個人テストの開始と洒落こむぜ。まずはアギト。てめぇはなんでもいいからあいつを倒しにいけ」
「武器がない」
「はあ?」
「武器を持っていないんだ」
セシルが後ろにいるヒナノへと振り向く。
「本当です。アギトはその……荷物持ち、でしたので」
「ぷっ、ふははは! 荷物持ちか! まあ似合いの地味な面構えだもんなぁ!」
腹を抱えて笑い上げるセシルだが、アギトは、やはり無反応だった。
笑う彼女を乾いた目線で貫く。
そうして、ひとしきり笑い終えたセシルは、彼に短剣を一本手渡した。
「そいつであいつを殺れ」
「これでか」
「荷物持ちだといえ、それぐらい使ってみせろ。女抱くときはもっと繊細になるんだぜ?」
いちいち喩えに肉体関係を提示したがる彼女に、ほどほどの嫌気が混じったため息をつき、アギトは受け取った短剣を鞘から抜き払った。
刃渡りおよそ50cm。
戦闘用のものであれ、トドメなどに使う代物。
これで相対するのは、周囲の魔獣のなかで、最も脅威度が高い”サイクロプス”である。
一つ目一つ角をもつ、巨岩のような体躯は全長3m程度。
二足歩行を行い、五指をもつ霊長型魔獣であるが、器用さは皆無。
しかしその代わり、生命科学を否定するようなほどに引き締められた膂力は、人間を一撃で仕留めることができた。
セシルはこの時、アギトが行えるのは、サイクロプスの弱点である眼球を狙うことぐらいしか考えていなかった。
まずは相手の視界を奪い、バランスを崩させた後、喉元に突っ込みトドメを指す。
そんな感じだろうと、鼻で嗤っていた。
彼女からすれば、そういう教科書通りな戦いは、センスが無いと思っている。
生まれと教育がそう導かせたのだろうが、戦士として力で全部ねじ伏せるべし、という考えだった。
もっとも、与えた短剣で力ずくというのも無理難題。
せいぜいお綺麗に倒してみせろ。
期待とは言えない感情で見物に腕組む。
アギトは短剣を何度か握り直して、どういうものかを幾度と無く確認。
マチェットのようなサイズ感だが、刀身の形そのものは直剣である。
「…………もう少し長ければな…………」
だが仕方無し。
むしろこんなものでもあるだけ良い方だろう。
そんな納得をして、サイクロプスへと歩みだした。
魔獣は接近者の存在を認知し、即座にそれが自分に害意があると判断した。
アギトを睨み下ろしながら、全身を戦闘態勢へと移行。
貧弱な小さい生き物が、さらに小さいなにかを持ってやって来ている。
それぐらいは理解し、サイクロプスの咆哮が風を撫でた。
アギトの足が強く蹴りだされたのは、そのときだった。
地面を抉るかのような勢いで走りだし、即座にサイクロプスの足元へと突き進む。
「馬鹿が!?」
セシルは驚き叫んだ。
ほぼ無意識に背中の両刃斧についているスリングを引っ張り、手元へともっていった。
正面突破など愚の骨頂。
ましてや彼が持っているのは、単なる短剣。
あれでは股ぐらを切り裂くにもリーチが足りない。
さらに言えば、その策はサイクロプスが股を閉じた瞬間に終わる代物。
ヘタを取れば挟まって圧殺されること間違いないだろう。
馬鹿っぽいと思ったがここまでとは!?
思考が神経を走り抜けて、一気に駆けようとする。
その、瞬間であった。
サイクロプスは悲鳴を上げて、地面に這ったのは。
「いいか新人ども。アタシは口でどうのこうの言う奴が嫌いだ。そういう意味で、ドラニコスの野郎が大嫌いだ。奴は実績を戦果じゃなく、論説で証明してくる屑野郎だ。そして、そんなのにホイホイついていく奴も情けないとおもっている」
「私達が元々ドラニコスのパーティメンバーだったのが、それほど気に食わないですか?」
「ああそうだ。んで、そんな奴らの面倒を見ろってんだから腹が立つにきまってんだよ」
こりゃ派手に嫌われたものだ。
そう思う陽菜野であるが、セシルの考えには納得と同意を示したいとも思っていた。
ドラニコスが自分達にしてきたことや、周囲に対する行動など。
これを細かく語ればきっと二晩はそれで持ちきりになるぐらいの、様々な経験談を持っているが、今ここで話しても仕方無い。
「大体おめぇだよガキ」
「草薙アギト」
「てめぇなんざガキで十分だっての。なんだおめぇ、まさか童貞か?」
「聞きたいことはそれだけか」
「ちっ、おめぇこのクソガキ。そのふざけているような態度と目付きを改めろや。一ヶ月と相手してもらえるアタシに失礼だとは思わないのか?」
詰め寄るそれは明らかな恫喝や恐喝に近いものだった。
みなぎる殺意をちらつかせて、ビビらせるための表情を眼前に押し出す、圧迫的な言葉遣い。
しかしアギトは平然と、さながら死んだ魚の目と言えるような眼光で応える。
「思わない」
「…………へぇ、すこしはいい度胸があるじゃねぇか。ならまずはそいつがどれだけのものか、見せてもらおうか」
それからしばらく歩き、都市西部門を抜けた先にある”コロニクス平原”へと出た。
魔獣の存在はほとんど皆無であり、種的にも多くが手を出さなければ無害なものばかり。
定期的な魔獣駆逐が行き届いているからである。
セシルはそんな連中を見て、腕を組みながら見定めた。
そして、とある魔獣を指差す。
「個人テストの開始と洒落こむぜ。まずはアギト。てめぇはなんでもいいからあいつを倒しにいけ」
「武器がない」
「はあ?」
「武器を持っていないんだ」
セシルが後ろにいるヒナノへと振り向く。
「本当です。アギトはその……荷物持ち、でしたので」
「ぷっ、ふははは! 荷物持ちか! まあ似合いの地味な面構えだもんなぁ!」
腹を抱えて笑い上げるセシルだが、アギトは、やはり無反応だった。
笑う彼女を乾いた目線で貫く。
そうして、ひとしきり笑い終えたセシルは、彼に短剣を一本手渡した。
「そいつであいつを殺れ」
「これでか」
「荷物持ちだといえ、それぐらい使ってみせろ。女抱くときはもっと繊細になるんだぜ?」
いちいち喩えに肉体関係を提示したがる彼女に、ほどほどの嫌気が混じったため息をつき、アギトは受け取った短剣を鞘から抜き払った。
刃渡りおよそ50cm。
戦闘用のものであれ、トドメなどに使う代物。
これで相対するのは、周囲の魔獣のなかで、最も脅威度が高い”サイクロプス”である。
一つ目一つ角をもつ、巨岩のような体躯は全長3m程度。
二足歩行を行い、五指をもつ霊長型魔獣であるが、器用さは皆無。
しかしその代わり、生命科学を否定するようなほどに引き締められた膂力は、人間を一撃で仕留めることができた。
セシルはこの時、アギトが行えるのは、サイクロプスの弱点である眼球を狙うことぐらいしか考えていなかった。
まずは相手の視界を奪い、バランスを崩させた後、喉元に突っ込みトドメを指す。
そんな感じだろうと、鼻で嗤っていた。
彼女からすれば、そういう教科書通りな戦いは、センスが無いと思っている。
生まれと教育がそう導かせたのだろうが、戦士として力で全部ねじ伏せるべし、という考えだった。
もっとも、与えた短剣で力ずくというのも無理難題。
せいぜいお綺麗に倒してみせろ。
期待とは言えない感情で見物に腕組む。
アギトは短剣を何度か握り直して、どういうものかを幾度と無く確認。
マチェットのようなサイズ感だが、刀身の形そのものは直剣である。
「…………もう少し長ければな…………」
だが仕方無し。
むしろこんなものでもあるだけ良い方だろう。
そんな納得をして、サイクロプスへと歩みだした。
魔獣は接近者の存在を認知し、即座にそれが自分に害意があると判断した。
アギトを睨み下ろしながら、全身を戦闘態勢へと移行。
貧弱な小さい生き物が、さらに小さいなにかを持ってやって来ている。
それぐらいは理解し、サイクロプスの咆哮が風を撫でた。
アギトの足が強く蹴りだされたのは、そのときだった。
地面を抉るかのような勢いで走りだし、即座にサイクロプスの足元へと突き進む。
「馬鹿が!?」
セシルは驚き叫んだ。
ほぼ無意識に背中の両刃斧についているスリングを引っ張り、手元へともっていった。
正面突破など愚の骨頂。
ましてや彼が持っているのは、単なる短剣。
あれでは股ぐらを切り裂くにもリーチが足りない。
さらに言えば、その策はサイクロプスが股を閉じた瞬間に終わる代物。
ヘタを取れば挟まって圧殺されること間違いないだろう。
馬鹿っぽいと思ったがここまでとは!?
思考が神経を走り抜けて、一気に駆けようとする。
その、瞬間であった。
サイクロプスは悲鳴を上げて、地面に這ったのは。
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