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第一章 勇者追放
第二話 冒険者加入
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面接会場として用意されたのは、ごく普通の応接間だった。
そこには恰幅のいい中年男と、装備で身を包む冒険者が待っていた。
「これは初めまして。私はこのデリアド支部の内務管理人を任されているボボネルです。そしてこちらが当支部所属の冒険者で、ホルッテスと言います」
「ホルッテス・マードリックだ。ランクはBで、冒険者は六年程続けている。今回は勇者召喚でやってきた人材というわけで、特別に俺も面接官として呼ばれた。よろしく頼む」
陽菜野は両者を軽く見比べて、応える。
「こちらこそよろしくお願いいたします。あ、私が朝霧陽菜野、彼が草薙アギトです」
「ええ。では早速ですが始めていきましょう。どうぞ楽に座って」
「失礼します」
催促されたソファに座ると、対面にも同じく二人が座り、面接という形が完成する。
可もなく不可もなくというような、簡単な性格診断に近しい内容の質疑応答が行われる。
時間にして30分前後のやりとりが終わり、陽菜野とアギトは再び受け付けカウンターまで案内された。
「はい。面接ご苦労様」
「ほとんどその……確認事項ばかりでしたけど」
「まあね。志願してくる人は基本的に無条件で受け入れているし。形式的なものになっているから。寧ろ、あなたたちは長い方。勇者パーティ関連の質問が多かったでしょ」
「ええ。そこまで勇者パーティというのが重要視されているとは思っても見ませんでした」
「国連が定めた特例勇者法の一つだからね。と、長話をしても仕方ないわ。次に魔力測定と、簡単な講習があるから」
受け付け嬢とのやり取りを適当に切り上げて、二人は新たに別室へと向かう。
魔力測定は、召喚された際に行われたものとほとんど変わらなかった。
結果も変化無く、触れた水晶体から大陸共通数字が浮かぶ。
陽菜野の魔力は1000以上で、これは大魔法士とか賢者とか呼ばれるほどの才覚者が、人生をかけて至れるかどうかの数値である。
召喚されたあのときと変わらない驚愕の声が静かに響く。
一方、アギトの魔力は0だった。
これも変わらず、期待外れなため息が響いた。
講習はギルド内にある、貸出ホールを使って二、三時間の行われた。
内容は冒険者のルールに関係するあれこれであり、ほとんどは陽菜野が理解していたものばかりだった。
復習と、覚え漏れの所を補習するつもりで机に向かう。
一方、アギトは気が付いたら眠っていた。
呆れた彼女が何度か蹴飛ばして起こすものの、それすら面倒になり、結局講習の半分は睡眠に費やされる。
彼にとって幸運なのが、講習内容がほぼ自習のようなもので、テストの類いもなかった。
そうして加入準備を終えた二人に、受け付け嬢がカウンター越しに手帳を受け取る。
「はい、お疲れ様ー。これで二人は冒険者よ」
「……えーと、本当にいいんですか? 私は兎も角その、アギトは……」
「ああ、いいのよ。読んだ、ってことが重要だから。テストとかもしないし、でもまあ定期的に手帳にある国際冒険者法は読み直して。何かしらのトラブルの回避に使えるかもしれないし」
そんなテキトーな……。
そう思う陽菜野だが、こんなに手早くなれるのなら申し分ないことも事実だった。
受け取った手帳を開くと、すぐ最初にライセンスとしての機能を有するページ。
履歴書にかいたプロフィールと冒険者ランクが記載されてある。
書いた文字を消したり変更したりできる魔法羊皮紙で作られているので、更新する手間は少ない。
「それと……あ、いたいた。おーい、セシル!」
受け付け嬢が声をかけた先には、若い女冒険者がいた。
短髪に浅黒い肌と、いかにも戦士というような風貌で、身に付けている軽鎧と背負う両刃斧を鳴らしながら歩いてくる。
「んだよティーシャ。またいたいけな少年とワンナイトを楽しんだのか?」
「違うわよ。こんど入る新しい新人なの。一ヶ月だけ面倒見てくれないかしら」
下ネタを受け流した受け付け嬢ことティーシャが、二人の背中を押す。
なるほど、実践して覚えろと言うのか。
陽菜野はこの時、かなり粗雑な冒険者ギルドの加入者に対する態度を理解した。
理解したからと言って納得まではいかないが。
女冒険者セシルは二人をギロりと見た。
特に、陽菜野の方を。
「なんだこのチビ助は。こんな奴が役に立つわけねぇだろ。後ろのガキはまだまだ見込みがありそうだが」
「あら、そんなこと言っていいのかしら? このヒナノは勇者パーティに所属していた、魔力1000オーバーの魔法士なのよ」
「はあ? こんなのが?」
「それにギルドマスターからのお願いでもあるからさ。ね、ね」
「あのデブ、面倒を押し付けやがって……おい、チビとガキ。名前は?」
傷だらけの顔で凄まれながら、二人は平然と応じた。
「朝霧陽菜野です、よろしくお願いします、セシルさん」
「草薙アギト」
アギトのボツりとした言葉使いに、セシルは気に食わなさそうに舌打ちしながらも振り向く。
「セシル・バージリスだ。ランクはD。今日入ったばかりなら解らねぇだろうから教えてやるが、お前らの二つ上のランクだ。覚えておけ」
冒険者ランクは全部で六段階存在する。
下からFと始まり、続いてEDCBAの順に上がっていく。
Dランクは冒険者として経験を積んだという、いわば一人前の証であった。
そんなセシルは、ふと一瞬だけティーシャの顔を見て、思い付いたように微笑んだ。
「さて、ならばお前らに冒険者とはなんたるかを、直接教えてやらねぇとなぁ。ついてこい」
そこには恰幅のいい中年男と、装備で身を包む冒険者が待っていた。
「これは初めまして。私はこのデリアド支部の内務管理人を任されているボボネルです。そしてこちらが当支部所属の冒険者で、ホルッテスと言います」
「ホルッテス・マードリックだ。ランクはBで、冒険者は六年程続けている。今回は勇者召喚でやってきた人材というわけで、特別に俺も面接官として呼ばれた。よろしく頼む」
陽菜野は両者を軽く見比べて、応える。
「こちらこそよろしくお願いいたします。あ、私が朝霧陽菜野、彼が草薙アギトです」
「ええ。では早速ですが始めていきましょう。どうぞ楽に座って」
「失礼します」
催促されたソファに座ると、対面にも同じく二人が座り、面接という形が完成する。
可もなく不可もなくというような、簡単な性格診断に近しい内容の質疑応答が行われる。
時間にして30分前後のやりとりが終わり、陽菜野とアギトは再び受け付けカウンターまで案内された。
「はい。面接ご苦労様」
「ほとんどその……確認事項ばかりでしたけど」
「まあね。志願してくる人は基本的に無条件で受け入れているし。形式的なものになっているから。寧ろ、あなたたちは長い方。勇者パーティ関連の質問が多かったでしょ」
「ええ。そこまで勇者パーティというのが重要視されているとは思っても見ませんでした」
「国連が定めた特例勇者法の一つだからね。と、長話をしても仕方ないわ。次に魔力測定と、簡単な講習があるから」
受け付け嬢とのやり取りを適当に切り上げて、二人は新たに別室へと向かう。
魔力測定は、召喚された際に行われたものとほとんど変わらなかった。
結果も変化無く、触れた水晶体から大陸共通数字が浮かぶ。
陽菜野の魔力は1000以上で、これは大魔法士とか賢者とか呼ばれるほどの才覚者が、人生をかけて至れるかどうかの数値である。
召喚されたあのときと変わらない驚愕の声が静かに響く。
一方、アギトの魔力は0だった。
これも変わらず、期待外れなため息が響いた。
講習はギルド内にある、貸出ホールを使って二、三時間の行われた。
内容は冒険者のルールに関係するあれこれであり、ほとんどは陽菜野が理解していたものばかりだった。
復習と、覚え漏れの所を補習するつもりで机に向かう。
一方、アギトは気が付いたら眠っていた。
呆れた彼女が何度か蹴飛ばして起こすものの、それすら面倒になり、結局講習の半分は睡眠に費やされる。
彼にとって幸運なのが、講習内容がほぼ自習のようなもので、テストの類いもなかった。
そうして加入準備を終えた二人に、受け付け嬢がカウンター越しに手帳を受け取る。
「はい、お疲れ様ー。これで二人は冒険者よ」
「……えーと、本当にいいんですか? 私は兎も角その、アギトは……」
「ああ、いいのよ。読んだ、ってことが重要だから。テストとかもしないし、でもまあ定期的に手帳にある国際冒険者法は読み直して。何かしらのトラブルの回避に使えるかもしれないし」
そんなテキトーな……。
そう思う陽菜野だが、こんなに手早くなれるのなら申し分ないことも事実だった。
受け取った手帳を開くと、すぐ最初にライセンスとしての機能を有するページ。
履歴書にかいたプロフィールと冒険者ランクが記載されてある。
書いた文字を消したり変更したりできる魔法羊皮紙で作られているので、更新する手間は少ない。
「それと……あ、いたいた。おーい、セシル!」
受け付け嬢が声をかけた先には、若い女冒険者がいた。
短髪に浅黒い肌と、いかにも戦士というような風貌で、身に付けている軽鎧と背負う両刃斧を鳴らしながら歩いてくる。
「んだよティーシャ。またいたいけな少年とワンナイトを楽しんだのか?」
「違うわよ。こんど入る新しい新人なの。一ヶ月だけ面倒見てくれないかしら」
下ネタを受け流した受け付け嬢ことティーシャが、二人の背中を押す。
なるほど、実践して覚えろと言うのか。
陽菜野はこの時、かなり粗雑な冒険者ギルドの加入者に対する態度を理解した。
理解したからと言って納得まではいかないが。
女冒険者セシルは二人をギロりと見た。
特に、陽菜野の方を。
「なんだこのチビ助は。こんな奴が役に立つわけねぇだろ。後ろのガキはまだまだ見込みがありそうだが」
「あら、そんなこと言っていいのかしら? このヒナノは勇者パーティに所属していた、魔力1000オーバーの魔法士なのよ」
「はあ? こんなのが?」
「それにギルドマスターからのお願いでもあるからさ。ね、ね」
「あのデブ、面倒を押し付けやがって……おい、チビとガキ。名前は?」
傷だらけの顔で凄まれながら、二人は平然と応じた。
「朝霧陽菜野です、よろしくお願いします、セシルさん」
「草薙アギト」
アギトのボツりとした言葉使いに、セシルは気に食わなさそうに舌打ちしながらも振り向く。
「セシル・バージリスだ。ランクはD。今日入ったばかりなら解らねぇだろうから教えてやるが、お前らの二つ上のランクだ。覚えておけ」
冒険者ランクは全部で六段階存在する。
下からFと始まり、続いてEDCBAの順に上がっていく。
Dランクは冒険者として経験を積んだという、いわば一人前の証であった。
そんなセシルは、ふと一瞬だけティーシャの顔を見て、思い付いたように微笑んだ。
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