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第一章 勇者追放
プロローグ 追放勇者
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「草薙アギト、お前を俺達の勇者パーティから追放させてもらう」
それは、あまりにも唐突、ではなく予想の範疇の言葉だった。
夜、地方都市デリアドにある高級ホテルの勇者パーティ専用VIP部屋で、そう言われたのは一人の少年。
黒髪に灰色の瞳の彼は、告げられた事を深く噛み砕くことなく飲み込んで、即応した。
「そうか。いままでどうも」
踵を返し、部屋へと出ようとする。
「ちっ、おい。理由とか気にしねぇのかよ」
「解りきっていることを聞くつもりはない。俺はこの勇者パーティの荷物持ちだったが、その役目を今日の探索で見つけた物が代わりにやってくれるんだろ」
草薙アギトなる少年は、勇者である男の手にする黒紫に赤色が斑と散りばめられている麻袋を見つつそう言った。
「そうだ! お前は勇者召喚で呼ばれたにも関わらず、魔法が使えない! かつてより勇者召喚されたものはどんなに魔力が少なくとも使えたのにだ!」
「かといって召喚から帰す方法もないから、荷物持ちとして連れてもらっていた」
「そこまで解っているなら感謝の言葉はねぇのかよ! 悔しくもねぇのか!」
「感謝は口にした。悔しいの意味が解らん。俺がお前の何に悔しがらないといけない」
「て、てめぇはいつもいつも……ムカつくんだよその口のききかたが!!」
「……と言われてもな。なら、むしろ行かせてくれないか? ムカつくんだろう?」
会話にならないと判断したアギトは、色々と文句を言われながら退室する。
こうして勇者パーティから、異世界からきた一人の少年が追放された。
@@@@@@
剣と魔法によって文明が構築され16世紀。
幻魔暦1563年、ユグドラシェル大陸中央西部に位置するゼブラール帝国の帝都スレイプニルにて、勇者召喚という儀式型魔法が発動された。
異世界より素養がある人材を招来するという、まことしやかに噂されたそれは確かに作動し、莫大な魔力触媒と引き換えとして多数の老若男女が召喚されることになる。
草薙アギトはその中の一人だった。
しかし、彼には何故か素養がなかった。
素養とはすなわち、絶大なほどの魔力である。
この世界の魔法行使には、どのような方式であっても魔力が必要であり、それがない場合は魔法を使うことが出来なかった。
事前に魔力が込められた道具を使い、小規模かつ低出力の魔法を行使するのは可能であるが、戦闘用としては明らかな力不足だった。
故に、魔力総量の多さは強さとイコールにするものが少なくなかった。
そもそも帝国が勇者召喚を行った理由として、国際的な問題である異常な魔獣繁殖における駆除や、魔界から侵略しに来たと自称する魔人との戦いのためであった。
必然として、勇者召喚された人材は絶大な魔力を求められる。
その期待から離れていた彼は失望されていた。
とは言え彼に直接的な原因があるわけでもなければ、召喚した分、なにかしら役に立てなくてはいけなくもあった。
その白羽の矢がたったのが、勇者の子孫であるドラニコス・フェールウッムの設立したばかりであるパーティ。
なんでもいいから雑用でもやらせておけ、という言葉通り、アギトはこのパーティの荷物持ちとして加入した。
勿論、ほかにもきちんと素養がある者も一緒にである。
そうでなければ不公平だと、ドラニコスが口にしたからだ。
かくして、ドラニコスのパーティは申請可能人数となり、それなりの冒険と実績を積み重ねることができた。
名前もある程度売れて、追加のパーティーメンバーも何人か見繕うことができた。
と、ここまで来れば嫌に目立つのが、非戦闘員であるアギトの存在だった。
ドラニコスはこの、草薙アギトという少年が嫌っている。
能力に見合わない立場というのもあるが、なによりもその態度と性格が気に食わない。
よくも悪くもマイペースかつ口数も少なく、積極的に誰かと関わろうとしない。
汗一つ掻かず、淡々と荷物を運ぶだけの姿に、男として情けなさを感じていたのもある。
だが、なによりもこいつは、同じ異世界より召喚された少女と仲良く話しているのだ。
いや、彼女だけと親密に話している。
彼女もアギトには特別な雰囲気で語り合っていた。
それがドラニコスは気に食わなかった。
だからあえて告げるように言ったのに。
草薙アギトは平然と、さして驚くことなく去った。
「クソッタレ」
ベッドの上に身を投げて、ふて寝でもしてやるかと、彼が思った時。
ドアがノックされた。
「誰だ?」
『陽菜野です。ちょっとお話があってきました』
「アサギリっ…………。ああ、入ってくれ」
ドラニコスは心が高ぶるのを抑えながら、されども嬉しさは抑えきれずに起き上がって応えた。
ドアが開かれ、やってきたのは、白銀の長髪に翡翠色の瞳をもつ少女。
勇者召喚によってこの世界に来訪した存在、つまりアギトの加入と引き換えに加入した勇者である。
「珍しいな、お前から来てくれるなんて。ああ、お茶でも淹れるよ。座って」
「ううん。ここで結構だから。それにお話も一言二言で終わりにするつもりなの」
白銀の髪に合わせて拵えた、魔法士の衣装姿はドラニコスにとってどれだけ魅力的に映ったのか。
鼻息を少々荒くしながらも、紳士的な振る舞いを忘れないように頷いた。
「そうか、で、話ってのは」
「私、このパーティから離脱したいの」
「…………え?」
「ごめんなさいドラニコス。でも、決めたことだから」
勇者パーティのリーダーの思考が、少女のたった二言で真っ白になった。
それは、あまりにも唐突、ではなく予想の範疇の言葉だった。
夜、地方都市デリアドにある高級ホテルの勇者パーティ専用VIP部屋で、そう言われたのは一人の少年。
黒髪に灰色の瞳の彼は、告げられた事を深く噛み砕くことなく飲み込んで、即応した。
「そうか。いままでどうも」
踵を返し、部屋へと出ようとする。
「ちっ、おい。理由とか気にしねぇのかよ」
「解りきっていることを聞くつもりはない。俺はこの勇者パーティの荷物持ちだったが、その役目を今日の探索で見つけた物が代わりにやってくれるんだろ」
草薙アギトなる少年は、勇者である男の手にする黒紫に赤色が斑と散りばめられている麻袋を見つつそう言った。
「そうだ! お前は勇者召喚で呼ばれたにも関わらず、魔法が使えない! かつてより勇者召喚されたものはどんなに魔力が少なくとも使えたのにだ!」
「かといって召喚から帰す方法もないから、荷物持ちとして連れてもらっていた」
「そこまで解っているなら感謝の言葉はねぇのかよ! 悔しくもねぇのか!」
「感謝は口にした。悔しいの意味が解らん。俺がお前の何に悔しがらないといけない」
「て、てめぇはいつもいつも……ムカつくんだよその口のききかたが!!」
「……と言われてもな。なら、むしろ行かせてくれないか? ムカつくんだろう?」
会話にならないと判断したアギトは、色々と文句を言われながら退室する。
こうして勇者パーティから、異世界からきた一人の少年が追放された。
@@@@@@
剣と魔法によって文明が構築され16世紀。
幻魔暦1563年、ユグドラシェル大陸中央西部に位置するゼブラール帝国の帝都スレイプニルにて、勇者召喚という儀式型魔法が発動された。
異世界より素養がある人材を招来するという、まことしやかに噂されたそれは確かに作動し、莫大な魔力触媒と引き換えとして多数の老若男女が召喚されることになる。
草薙アギトはその中の一人だった。
しかし、彼には何故か素養がなかった。
素養とはすなわち、絶大なほどの魔力である。
この世界の魔法行使には、どのような方式であっても魔力が必要であり、それがない場合は魔法を使うことが出来なかった。
事前に魔力が込められた道具を使い、小規模かつ低出力の魔法を行使するのは可能であるが、戦闘用としては明らかな力不足だった。
故に、魔力総量の多さは強さとイコールにするものが少なくなかった。
そもそも帝国が勇者召喚を行った理由として、国際的な問題である異常な魔獣繁殖における駆除や、魔界から侵略しに来たと自称する魔人との戦いのためであった。
必然として、勇者召喚された人材は絶大な魔力を求められる。
その期待から離れていた彼は失望されていた。
とは言え彼に直接的な原因があるわけでもなければ、召喚した分、なにかしら役に立てなくてはいけなくもあった。
その白羽の矢がたったのが、勇者の子孫であるドラニコス・フェールウッムの設立したばかりであるパーティ。
なんでもいいから雑用でもやらせておけ、という言葉通り、アギトはこのパーティの荷物持ちとして加入した。
勿論、ほかにもきちんと素養がある者も一緒にである。
そうでなければ不公平だと、ドラニコスが口にしたからだ。
かくして、ドラニコスのパーティは申請可能人数となり、それなりの冒険と実績を積み重ねることができた。
名前もある程度売れて、追加のパーティーメンバーも何人か見繕うことができた。
と、ここまで来れば嫌に目立つのが、非戦闘員であるアギトの存在だった。
ドラニコスはこの、草薙アギトという少年が嫌っている。
能力に見合わない立場というのもあるが、なによりもその態度と性格が気に食わない。
よくも悪くもマイペースかつ口数も少なく、積極的に誰かと関わろうとしない。
汗一つ掻かず、淡々と荷物を運ぶだけの姿に、男として情けなさを感じていたのもある。
だが、なによりもこいつは、同じ異世界より召喚された少女と仲良く話しているのだ。
いや、彼女だけと親密に話している。
彼女もアギトには特別な雰囲気で語り合っていた。
それがドラニコスは気に食わなかった。
だからあえて告げるように言ったのに。
草薙アギトは平然と、さして驚くことなく去った。
「クソッタレ」
ベッドの上に身を投げて、ふて寝でもしてやるかと、彼が思った時。
ドアがノックされた。
「誰だ?」
『陽菜野です。ちょっとお話があってきました』
「アサギリっ…………。ああ、入ってくれ」
ドラニコスは心が高ぶるのを抑えながら、されども嬉しさは抑えきれずに起き上がって応えた。
ドアが開かれ、やってきたのは、白銀の長髪に翡翠色の瞳をもつ少女。
勇者召喚によってこの世界に来訪した存在、つまりアギトの加入と引き換えに加入した勇者である。
「珍しいな、お前から来てくれるなんて。ああ、お茶でも淹れるよ。座って」
「ううん。ここで結構だから。それにお話も一言二言で終わりにするつもりなの」
白銀の髪に合わせて拵えた、魔法士の衣装姿はドラニコスにとってどれだけ魅力的に映ったのか。
鼻息を少々荒くしながらも、紳士的な振る舞いを忘れないように頷いた。
「そうか、で、話ってのは」
「私、このパーティから離脱したいの」
「…………え?」
「ごめんなさいドラニコス。でも、決めたことだから」
勇者パーティのリーダーの思考が、少女のたった二言で真っ白になった。
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