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大きく村名が書かれた木製の門をくぐる。
『ようこそ、アウステンラウトへ!』
村内には、畑と小さな家が点々とあった。ほとんど人の姿は見えない。
「ふぅ……一休みするか」
旅人であるオレは、迷わず宿の方角へと足を向けた。
歩きながら空中に半透明の地図を展開し、辿ってきた道のりを確認した。
「マップは……全部、埋まってるな。問題ない」
同時にステータスも隣の空中に展開。
こちらの数値も異常はない。体力だけはさすがに消耗しているが、予想の範囲内だ。
オレは、前世でいうゲームみたいな世界に転生した――それもすでに25年前のことだ。もはや前の名前を忘れるほどに世界に馴染んでしまっている。
藍色の髪と瞳に、平均的な成人男性の体格。平凡な姿で平凡な両親からこの世界に生まれたオレは、それなりの冒険をして世界を救い、今は自由気ままに世界を旅していた。
辺境の村アウステンラウトは、メインシナリオには登場すらしない村だ。
有名なイケメンNPCの生まれ故郷。だから、この村は主にイケメンキャラのファンのために存在しているといってもいい。村で唯一の道具屋では、必需品に混ざってファングッズまで売っている有り様だ 。
それ以外の村の売りといえば、取り放題のキノコぐらいなものだった。
道のりは遠いし、テレポートも禁止区域、ステータス異常をつけてくる敵もわんさか出るしで、まぁ、ほぼ旅人は来ない。まさに辺境の地だ。
村から下界を見下ろせば雄大な景色が広がっている。ひたすら広い緑の大地、連なる山々、そして空。鳥が高く鳴きながらゆっくりと旋回していた。
個人的に、村で一番気に入っているのがこの眺めだ。
……景色を眺めていたら、無性にカップラーメンが恋しくなった。
その昔、アウトドアが趣味だったオレは、登山の度こういう景色のいい場所で、手軽にラーメンを作って食べた。懐かしい。山の上だと格別旨いんだよな。
旅が一区切りついたら、調理スキルを上げて懐かしい料理の再現でもしようか。
――などと考えていたら、宿のカウンターの前に来ていた。
人の良さそうな宿の主人が出迎える。
「いらっしゃい、一泊10Gだよ」
案の定、宿にも人の気配がほとんどなかった。言われた金額のコインをカウンターに置く。
「まいど」
「客はオレ1人か?」
「いや、もう1人綺麗な顔の子が来てるよ。ついさっき着いたばかりでね」
「へぇ」
聖地巡礼の女子だろうか。それにソロとは珍しい。皆、だいたいは用心してパーティを組んで登ってくるものだ。
奥の大部屋に向かうと、白いローブを着込んだ人物がこちらに背を向け、ベッドに腰掛けていた。
(なんだ、男か……)
宿の主人の話から、疑いもなく美女を想像していたオレは、その背を見て何となくガッカリした。小柄で細身だが女ではない。短いふわふわのホワイトブロンドが、いかにも僧侶職らしかった。
その頭がくるんと振り返る。
「あ、こんにちは」
律儀にお辞儀して挨拶した彼は、確かに見惚れるほどの美形だった。主人がわざわざ綺麗と形容したくなった気持ちもわかる。
「ども」
「ユーロムです、よろしくお願いします」
「ツォルだ。よろしく」
軽く挨拶して離れた端のベッドに腰を下ろす。
「ここは、初めてか? 珍しいな、僧侶1人で登って来るなんて」
「ここまで来たのは初めてです。噂には聞いてましたけど、たいへんですね。峠道、死ぬかと思いました」
「だよな。あ、道具とか足りてるか? オレ余分にあるから、もし切らしてたら」
「あっ、え、大丈夫です! 多めに持ってきたんで」
「そっか」
「あ、えと、ありがとうございます」
かぶせ気味に断られ、そのあと慌てて笑顔を向けられた。キラキラした笑顔だ。眩しい。
「ツォルさんは、観光ですか?」
「いや、レアクエストを探してる」
この世界では、村人も門番も皆が当たり前に人としての生活を送っている。だから関わりを持つと稀に変わったクエストが発生した。時間帯に持ち物……発生条件にはさまざまなパターンがある。
そしてその報酬の多くが、他では入手できないレアなアイテムなのだ。ゴミみたいなイベントアイテムだったりもするが、中にはとんでもなく価値の高いアイテムもある。秘密の扉の鍵とか、珍しいアクセサリーだとか。
繰り返しの日常に退屈し始めていたオレは、その新たな発見に生き甲斐を感じていた。ゲームクリア後のやり込み要素やってる感覚かもな。
「何か知らないか?」
「え、僕は……えっと……あまり……」
「そういえば、ユーロムはどんな目的でこの村に?」
「クエスト、ですね」
さっきからユーロムの視線が露骨に泳いでいるのが気になる。
「じゃあ、おつかいイベントか? 道具屋まで?」
「いえ、そうでは、なくて」
「それ以外にこの村にクエストなんてあったか……?」
「え、ええと……」
「あ、手っ取り早くクエストリスト見せてくれたら」
「そ、それは……」
ユーロムは心底困ってオレを見た。
『ようこそ、アウステンラウトへ!』
村内には、畑と小さな家が点々とあった。ほとんど人の姿は見えない。
「ふぅ……一休みするか」
旅人であるオレは、迷わず宿の方角へと足を向けた。
歩きながら空中に半透明の地図を展開し、辿ってきた道のりを確認した。
「マップは……全部、埋まってるな。問題ない」
同時にステータスも隣の空中に展開。
こちらの数値も異常はない。体力だけはさすがに消耗しているが、予想の範囲内だ。
オレは、前世でいうゲームみたいな世界に転生した――それもすでに25年前のことだ。もはや前の名前を忘れるほどに世界に馴染んでしまっている。
藍色の髪と瞳に、平均的な成人男性の体格。平凡な姿で平凡な両親からこの世界に生まれたオレは、それなりの冒険をして世界を救い、今は自由気ままに世界を旅していた。
辺境の村アウステンラウトは、メインシナリオには登場すらしない村だ。
有名なイケメンNPCの生まれ故郷。だから、この村は主にイケメンキャラのファンのために存在しているといってもいい。村で唯一の道具屋では、必需品に混ざってファングッズまで売っている有り様だ 。
それ以外の村の売りといえば、取り放題のキノコぐらいなものだった。
道のりは遠いし、テレポートも禁止区域、ステータス異常をつけてくる敵もわんさか出るしで、まぁ、ほぼ旅人は来ない。まさに辺境の地だ。
村から下界を見下ろせば雄大な景色が広がっている。ひたすら広い緑の大地、連なる山々、そして空。鳥が高く鳴きながらゆっくりと旋回していた。
個人的に、村で一番気に入っているのがこの眺めだ。
……景色を眺めていたら、無性にカップラーメンが恋しくなった。
その昔、アウトドアが趣味だったオレは、登山の度こういう景色のいい場所で、手軽にラーメンを作って食べた。懐かしい。山の上だと格別旨いんだよな。
旅が一区切りついたら、調理スキルを上げて懐かしい料理の再現でもしようか。
――などと考えていたら、宿のカウンターの前に来ていた。
人の良さそうな宿の主人が出迎える。
「いらっしゃい、一泊10Gだよ」
案の定、宿にも人の気配がほとんどなかった。言われた金額のコインをカウンターに置く。
「まいど」
「客はオレ1人か?」
「いや、もう1人綺麗な顔の子が来てるよ。ついさっき着いたばかりでね」
「へぇ」
聖地巡礼の女子だろうか。それにソロとは珍しい。皆、だいたいは用心してパーティを組んで登ってくるものだ。
奥の大部屋に向かうと、白いローブを着込んだ人物がこちらに背を向け、ベッドに腰掛けていた。
(なんだ、男か……)
宿の主人の話から、疑いもなく美女を想像していたオレは、その背を見て何となくガッカリした。小柄で細身だが女ではない。短いふわふわのホワイトブロンドが、いかにも僧侶職らしかった。
その頭がくるんと振り返る。
「あ、こんにちは」
律儀にお辞儀して挨拶した彼は、確かに見惚れるほどの美形だった。主人がわざわざ綺麗と形容したくなった気持ちもわかる。
「ども」
「ユーロムです、よろしくお願いします」
「ツォルだ。よろしく」
軽く挨拶して離れた端のベッドに腰を下ろす。
「ここは、初めてか? 珍しいな、僧侶1人で登って来るなんて」
「ここまで来たのは初めてです。噂には聞いてましたけど、たいへんですね。峠道、死ぬかと思いました」
「だよな。あ、道具とか足りてるか? オレ余分にあるから、もし切らしてたら」
「あっ、え、大丈夫です! 多めに持ってきたんで」
「そっか」
「あ、えと、ありがとうございます」
かぶせ気味に断られ、そのあと慌てて笑顔を向けられた。キラキラした笑顔だ。眩しい。
「ツォルさんは、観光ですか?」
「いや、レアクエストを探してる」
この世界では、村人も門番も皆が当たり前に人としての生活を送っている。だから関わりを持つと稀に変わったクエストが発生した。時間帯に持ち物……発生条件にはさまざまなパターンがある。
そしてその報酬の多くが、他では入手できないレアなアイテムなのだ。ゴミみたいなイベントアイテムだったりもするが、中にはとんでもなく価値の高いアイテムもある。秘密の扉の鍵とか、珍しいアクセサリーだとか。
繰り返しの日常に退屈し始めていたオレは、その新たな発見に生き甲斐を感じていた。ゲームクリア後のやり込み要素やってる感覚かもな。
「何か知らないか?」
「え、僕は……えっと……あまり……」
「そういえば、ユーロムはどんな目的でこの村に?」
「クエスト、ですね」
さっきからユーロムの視線が露骨に泳いでいるのが気になる。
「じゃあ、おつかいイベントか? 道具屋まで?」
「いえ、そうでは、なくて」
「それ以外にこの村にクエストなんてあったか……?」
「え、ええと……」
「あ、手っ取り早くクエストリスト見せてくれたら」
「そ、それは……」
ユーロムは心底困ってオレを見た。
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