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終
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「悪い、遅くなった」
仲間と待ち合わせた店に辿り着いたのは、正午を少しまわった頃だった。
テーブルには、すでに旅装に着替えた仲間が待っている。
「……遅い」
「よかった、今から探そうかと思っていたの」
仲間の1人が心配そうにこちらを覗き込む。
「もしかして、国の人とかに無理を言われてるんじゃないかって、心配してて」
ドキリとして、つい目を逸らす。間違ってはいない。
「それとは関係ない用事だから」
努めて明るく言う。今朝までのあれこれが一瞬脳裏を掠め、頬が少し熱くなる。幸い彼女は気づかなかったようで、安堵して微笑んだ。
「それなら、良かった」
「………………」
しかし、その後ろに立っていた男がスタスタと歩いてくると、腕を掴んで手を引いた。
「ちょっと来い」
「なんだよ、痛いって!」
驚いて怯える少女に、男はぶっきらぼうに言葉を足す。
「すぐ戻る……大丈夫だ」
腕を引かれて連れてこられたのは、店の廊下だった。
「お前、アイツに会ってたな?」
「……アイツ?」
「白い建物に入っただろう」
男の表情は険しく、確信を持った言い方だった。言い逃れはできないかもしれない。
「……つけてたのか?」
「お前の様子がおかしかったから、皆で尾行した」
怪しまれてたのか、とようやく気づく。
(そうだよな……俺自身あの時は動揺していたし)
ただ、彼らは建物内部には入れなかったはずだ。だから……。
考えていたら、男は真横の壁に手をついた。
「アイツに何されたか言ってみろ」
「……っ、言えない」
男が何か言いかけた途端、その当のアイツの声がする。
「おや、どなたのお話ですか?」
振りかえると、旅装姿の青年が立っていた。
「お前……」
「なぜここにいる」
「あ、僕、先遣隊として派遣されました。しばらく皆さんにお供しようかと思いまして」
「「は??」」
非難の混じった疑問符のシンクロにも全くめげず、彼は愛想よく続ける。
「またお世話になりますね」
「どの面下げて戻ってきた?」
「まあまあ。これでも腕利きの魔法士なので、戦況打破には欠かせない駒だと思いますよ? 個人間では一時休戦ということで手打ちにしませんか?」
「勝手な事を……」
その場で口論を始める2人を見て、密かに頭を抱える。決着がどうあれ、新たな頭痛の種が増えそうだった。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※ 途中で出てきたエリプシの実は創作です。
ピンクペッパーに見た目が似ており、噛み砕くと強い辛みと独特の刺激と香りが広がります。肉との相性は抜群。軽い興奮作用があります。
仲間と待ち合わせた店に辿り着いたのは、正午を少しまわった頃だった。
テーブルには、すでに旅装に着替えた仲間が待っている。
「……遅い」
「よかった、今から探そうかと思っていたの」
仲間の1人が心配そうにこちらを覗き込む。
「もしかして、国の人とかに無理を言われてるんじゃないかって、心配してて」
ドキリとして、つい目を逸らす。間違ってはいない。
「それとは関係ない用事だから」
努めて明るく言う。今朝までのあれこれが一瞬脳裏を掠め、頬が少し熱くなる。幸い彼女は気づかなかったようで、安堵して微笑んだ。
「それなら、良かった」
「………………」
しかし、その後ろに立っていた男がスタスタと歩いてくると、腕を掴んで手を引いた。
「ちょっと来い」
「なんだよ、痛いって!」
驚いて怯える少女に、男はぶっきらぼうに言葉を足す。
「すぐ戻る……大丈夫だ」
腕を引かれて連れてこられたのは、店の廊下だった。
「お前、アイツに会ってたな?」
「……アイツ?」
「白い建物に入っただろう」
男の表情は険しく、確信を持った言い方だった。言い逃れはできないかもしれない。
「……つけてたのか?」
「お前の様子がおかしかったから、皆で尾行した」
怪しまれてたのか、とようやく気づく。
(そうだよな……俺自身あの時は動揺していたし)
ただ、彼らは建物内部には入れなかったはずだ。だから……。
考えていたら、男は真横の壁に手をついた。
「アイツに何されたか言ってみろ」
「……っ、言えない」
男が何か言いかけた途端、その当のアイツの声がする。
「おや、どなたのお話ですか?」
振りかえると、旅装姿の青年が立っていた。
「お前……」
「なぜここにいる」
「あ、僕、先遣隊として派遣されました。しばらく皆さんにお供しようかと思いまして」
「「は??」」
非難の混じった疑問符のシンクロにも全くめげず、彼は愛想よく続ける。
「またお世話になりますね」
「どの面下げて戻ってきた?」
「まあまあ。これでも腕利きの魔法士なので、戦況打破には欠かせない駒だと思いますよ? 個人間では一時休戦ということで手打ちにしませんか?」
「勝手な事を……」
その場で口論を始める2人を見て、密かに頭を抱える。決着がどうあれ、新たな頭痛の種が増えそうだった。
おわり
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※ 途中で出てきたエリプシの実は創作です。
ピンクペッパーに見た目が似ており、噛み砕くと強い辛みと独特の刺激と香りが広がります。肉との相性は抜群。軽い興奮作用があります。
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