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下.甘夢の残滓

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「……!?」

 ベッドから半身飛び起きる。
 まだ薄暗い部屋。いくつか並んだベッド。サイドテーブルに灯りの入ったカンテラが置いてある。

「お、元気そうじゃないか?」

 隣のベッドに腰かけていたのはエルフの女だった。

「っつーか、介抱してやってくれって頼んだのに、なんでお前が介抱されてんだよ」

 カラカラ笑って足を組む。

「……」

  笑い声がなんだか頭に響く。
  服は……着てる。そのままバフンと後ろに倒れこんだ。気だるさを感じる。
 なんだか、とても、恥ずかしい夢を見た気がする。どういう状況なんだっけと必死で記憶を手繰り寄せる。そうだ、コイツが妙な男と酒場に居たんだ。

「……お前、あの男なんなんだよ」
「ん?」
「一緒にいた場違いの小綺麗なオッサン」
「あら、何、妬いてくれてるの?」
「そういうのいらねーから」

 何一つ変わらない調子で女が答える。

「ロイデル・ケルセムート・グラデル・アグスティエル殿下」

 思わず半身を起こす。長たらしい名前の最後には聞き覚えがある。

「アグス……は? どうやって連れ込んだんだよ」
「え、だって居たんだもの」
「いやいや、皇子様がそんなホイホイ出歩くか」

 女が微笑んで、胸を張り、片目を瞑って得意気に自分を指差す。

「いや、お前は例外だろ」
「えー」

 ギイ、カチャリとドアが開いて銀髪のエルフが入ってくる。

「なぁ、聞けよ、コイツ皇子様を連れ込んだんだと」
「やだぁ、連れ込まれたのはアタシのほうなのにぃ」
「そんなわけないだろ」
「まぁ、ひどい」
「その、お前じゃないほうのエルフっぽいしゃべり方やめろよ」
「何言ってるのよ、アタシこそが紛うことなきエルフじゃない」
「お前はなんか違う生き物だろ」
「やだぁ、偏見。太古の思考だわ」
「単におま……むっ」

 スタスタと歩いてきた銀髪の男がなんの前触れもなく軽口を叩いていた男に口付ける。

「っ……ん、ちょ、おまえ、いきなり何す……ん、どこ触って、やめっ」
「あらあら」 

 そのまま見物していた女は、チラリとよこした銀髪の男の視線を受けて、重い腰をあげた。

「はいはい、じゃあ、ごゆっくり、ど・う・ぞ」

 カンテラを持って鼻歌混じりに部屋を出る。

「っ待て、たすけ……っ……!」

 パタン。

「……アイツ、蜜酒のどさくさに紛れて、あんな開き直ると思わなかったな~。ってか、あんな睨まなくてもよくない?」

 ちょっとムカついたので邪魔してやろうか、

「…………」

 と、思ったが、おもしろそうな策も思い付かないので、一瞬で諦めた。

「さ、飲みにいこ~っ♪」

 ブロンドの髪を翻し、酒場へと向かう。まだまだ夜は長くなりそうだった。



 おわり
 




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おまけの人物紹介

・金髪のエルフ(女)

貞操観念のない自由なエルフ。
見た目の良さを自覚しており、最大限にそれを武器とする。
黒髪の男をよくからかって遊ぶため、純朴だった彼もさすがに擦れた様子。


・黒髪の男

登場人物の中では一番ノーマルな青年。比較的愛想がよく、裏表がないので可愛がられたり、時にからかわれがち。
はっちゃけたエルフの女を最初こそ叱っていたが、一向に素行が改善せずにほぼ諦めている。
実は別のエルフの少女にほのかな恋心を抱いていた。
銀髪のエルフとは性格が真逆で口論になりがちだが、なんだかんだで行動をともにすることも多い。今回も2人で買い出しに行った帰りだった。


・銀髪のエルフ(男)

無口でクールなエルフの魔術師。他人を寄せ付けず、冷酷とも思える行動をとることも。
黒髪の男とはよく口論になるが、何かと共に行動することが多い。
エルフの女には嫌悪感すら感じており、一定の距離を置いている。一時はどうにか更正させようと目論んだが、あの手この手で応戦してくるため、面倒になって諦めた。


・体力自慢

パーティの前衛となる戦士。
頼れる兄貴分であり現パーティ唯一の良心だが、今回はたまたま別行動している。次の町で合流予定。


・皇子様

皇位継承権第3位の皇子。もはや権力争いの外におり、大っぴらではないものの割と自由に生活している。その甘いマスクと声で浮き名を流す人物である。


・エルフの蜜酒

琥珀色の酒。
人にはただの酒だが、エルフには媚薬効果がある。


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 ※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・名称等とは一切関係ありません。
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