上 下
14 / 23

16

しおりを挟む
「えっと、昨日、……一昨日、はすみませんでした」
「あぁ、うん」

本屋に来るのは久しぶりのような感じがした。
僕とゆきくんはstaff onlyの内側で店長と向き合っている。
ダークナイトと美優さんは店に出ていた。

「なんか、強盗とか来ちゃった感じ?」
「はい」

ゆきくんが柔らかく答える。
ふわりとした心地よい空気が充満して、僕の肩から力が抜ける。

「みんなは大丈夫だった?」

強盗、という単語が出て、店長の額に薄く汗が浮かんで、さくらんぼのハンカチで拭われる。

「……大丈夫、でしたよ」
「何なの、今の間は」
「いえ、大丈夫です完璧です」

ゆきくんが言い淀んで、店長が訊いて、焦ったゆきくんが慌てて言う。
なにそれ怪しい。

「黒山くん、本当に大丈夫だったの?」
「僕は悪魔なんで、大丈夫すよ」
「え。……うん」

厨二病は躯村くんだけにしてほしいなぁ、と店長が呟く。
そういう病気だと思ったらしい。
ツノとか見せてもいいのだけど。
それはやめたほいがいいよ、こそっと雪くんが言う。
五月蠅いな。

「盗られた物とかは?」
「特になかった、って美優さんが言ってました」
「よかった……」

店長は気のいい人から経営者の顔になり、安堵する。

「今日は働ける感じかな?」
「ぷ、わた、わたしはいいんですけど……」
「黒山くんは無理だったりするの?」
「大丈夫ですよ」

黒山くんはいつも大丈夫だね、と店長が苦笑する。
いつも大丈夫ですね。

「前と逆で、ゆきくんと美優ちゃん、黒山くんと堕悪夜でいいかな?」
「いいですよ」「はい」
「黒山くんは店出られる?」
「その、……」
「フードはそのままでもいいからさ」
「……じゃ、やります」

ありがと、とまた店長はさくらんぼのハンカチを使う。
デブだから汗かくんじゃね。



「黒、くん」

staff onlyのドアを開けようとして、雪くんに止められた。
僕の真っ黒な布をきゅ、と引いている。
あ、それかわい、かわいくはない。
全然かわいくない。

「何?」

とりあえず睨んだけど、身長の差で上目遣いっぽくはなってしまったけど、天使な雪くんは負の感情を読み取れないらしい。
迷ったような不安そうな、触ったら消えてしまう雪のような表情で、僕を見ている。
角度的に見下ろしている。
悔しい。

「あの、さ……」

今にも泣き出しそうな顔になる。
なんで泣きそうなの。

「……すき、だよ」

すき、だよ。
頭の中で反復して、好き、に変換される。
好き?

「は?」
「好き……!」
「なんで、今?」
「今言っておかないと、もう言えないような気がして」

不吉なこと言わないで。
悪魔がいる時点で不吉だけど。
僕は雪くんから眼を逸らして、staff onlyを出る。
顔が熱いのは多分、僕がデブになったからだ。
耳までデブだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...