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「えっと、昨日、……一昨日、はすみませんでした」
「あぁ、うん」
本屋に来るのは久しぶりのような感じがした。
僕とゆきくんはstaff onlyの内側で店長と向き合っている。
ダークナイトと美優さんは店に出ていた。
「なんか、強盗とか来ちゃった感じ?」
「はい」
ゆきくんが柔らかく答える。
ふわりとした心地よい空気が充満して、僕の肩から力が抜ける。
「みんなは大丈夫だった?」
強盗、という単語が出て、店長の額に薄く汗が浮かんで、さくらんぼのハンカチで拭われる。
「……大丈夫、でしたよ」
「何なの、今の間は」
「いえ、大丈夫です完璧です」
ゆきくんが言い淀んで、店長が訊いて、焦ったゆきくんが慌てて言う。
なにそれ怪しい。
「黒山くん、本当に大丈夫だったの?」
「僕は悪魔なんで、大丈夫すよ」
「え。……うん」
厨二病は躯村くんだけにしてほしいなぁ、と店長が呟く。
そういう病気だと思ったらしい。
ツノとか見せてもいいのだけど。
それはやめたほいがいいよ、こそっと雪くんが言う。
五月蠅いな。
「盗られた物とかは?」
「特になかった、って美優さんが言ってました」
「よかった……」
店長は気のいい人から経営者の顔になり、安堵する。
「今日は働ける感じかな?」
「ぷ、わた、私はいいんですけど……」
「黒山くんは無理だったりするの?」
「大丈夫ですよ」
黒山くんはいつも大丈夫だね、と店長が苦笑する。
いつも大丈夫ですね。
「前と逆で、ゆきくんと美優ちゃん、黒山くんと堕悪夜でいいかな?」
「いいですよ」「はい」
「黒山くんは店出られる?」
「その、……」
「フードはそのままでもいいからさ」
「……じゃ、やります」
ありがと、とまた店長はさくらんぼのハンカチを使う。
デブだから汗かくんじゃね。
「黒、くん」
staff onlyのドアを開けようとして、雪くんに止められた。
僕の真っ黒な布をきゅ、と引いている。
あ、それかわい、かわいくはない。
全然かわいくない。
「何?」
とりあえず睨んだけど、身長の差で上目遣いっぽくはなってしまったけど、天使な雪くんは負の感情を読み取れないらしい。
迷ったような不安そうな、触ったら消えてしまう雪のような表情で、僕を見ている。
角度的に見下ろしている。
悔しい。
「あの、さ……」
今にも泣き出しそうな顔になる。
なんで泣きそうなの。
「……すき、だよ」
すき、だよ。
頭の中で反復して、好き、に変換される。
好き?
「は?」
「好き……!」
「なんで、今?」
「今言っておかないと、もう言えないような気がして」
不吉なこと言わないで。
悪魔がいる時点で不吉だけど。
僕は雪くんから眼を逸らして、staff onlyを出る。
顔が熱いのは多分、僕がデブになったからだ。
耳までデブだ。
「あぁ、うん」
本屋に来るのは久しぶりのような感じがした。
僕とゆきくんはstaff onlyの内側で店長と向き合っている。
ダークナイトと美優さんは店に出ていた。
「なんか、強盗とか来ちゃった感じ?」
「はい」
ゆきくんが柔らかく答える。
ふわりとした心地よい空気が充満して、僕の肩から力が抜ける。
「みんなは大丈夫だった?」
強盗、という単語が出て、店長の額に薄く汗が浮かんで、さくらんぼのハンカチで拭われる。
「……大丈夫、でしたよ」
「何なの、今の間は」
「いえ、大丈夫です完璧です」
ゆきくんが言い淀んで、店長が訊いて、焦ったゆきくんが慌てて言う。
なにそれ怪しい。
「黒山くん、本当に大丈夫だったの?」
「僕は悪魔なんで、大丈夫すよ」
「え。……うん」
厨二病は躯村くんだけにしてほしいなぁ、と店長が呟く。
そういう病気だと思ったらしい。
ツノとか見せてもいいのだけど。
それはやめたほいがいいよ、こそっと雪くんが言う。
五月蠅いな。
「盗られた物とかは?」
「特になかった、って美優さんが言ってました」
「よかった……」
店長は気のいい人から経営者の顔になり、安堵する。
「今日は働ける感じかな?」
「ぷ、わた、私はいいんですけど……」
「黒山くんは無理だったりするの?」
「大丈夫ですよ」
黒山くんはいつも大丈夫だね、と店長が苦笑する。
いつも大丈夫ですね。
「前と逆で、ゆきくんと美優ちゃん、黒山くんと堕悪夜でいいかな?」
「いいですよ」「はい」
「黒山くんは店出られる?」
「その、……」
「フードはそのままでもいいからさ」
「……じゃ、やります」
ありがと、とまた店長はさくらんぼのハンカチを使う。
デブだから汗かくんじゃね。
「黒、くん」
staff onlyのドアを開けようとして、雪くんに止められた。
僕の真っ黒な布をきゅ、と引いている。
あ、それかわい、かわいくはない。
全然かわいくない。
「何?」
とりあえず睨んだけど、身長の差で上目遣いっぽくはなってしまったけど、天使な雪くんは負の感情を読み取れないらしい。
迷ったような不安そうな、触ったら消えてしまう雪のような表情で、僕を見ている。
角度的に見下ろしている。
悔しい。
「あの、さ……」
今にも泣き出しそうな顔になる。
なんで泣きそうなの。
「……すき、だよ」
すき、だよ。
頭の中で反復して、好き、に変換される。
好き?
「は?」
「好き……!」
「なんで、今?」
「今言っておかないと、もう言えないような気がして」
不吉なこと言わないで。
悪魔がいる時点で不吉だけど。
僕は雪くんから眼を逸らして、staff onlyを出る。
顔が熱いのは多分、僕がデブになったからだ。
耳までデブだ。
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