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「もう時間なので、上がります」
「え、あ。はい。おつかれ、っす」
非現実の存在から現実のような言葉を聞いて、ダークナイトは素の反応をする。
「黒、くん……?」
雪くんが困惑する。黒山くん設定も忘れているほど。
僕は背を向けて歩き出す。
私も上がります! と雪くんの声が聞こえて、雪くんが走ってくる。
私って言おうね。
ボロいアパートの二階の、奥から3番目の部屋。
隙間風が冷たく吹いて部屋の中に寒さを溜める。
「悪魔、なの?」
雪くんが僕に訊いた。
「それ以外の何に見える?」
「……天使?」
「僕は天使じゃない!」
思わず大声が出る。
僕は天使じゃない。
「何があったのか、教えてくれる?」
「僕のお母さんは、悪魔だった」
「お父さんの方は?」
「父さんは天使だった」
僕の父さんは天使だった。
僕の母さんは悪魔だった。
母さんが人間界で死にそうになっているときに父さんに助けられた。
ふたりは当たり前のように恋に落ちた。
母さんが回復して魔界に戻れる頃には、そのお腹には僕がいた。
母さんは僕を産んで、すぐに死んだ。
僕は魔界で虐められた。
「なんで、虐められたの?」
「異質だから、排除したいんだよ」
「排除……?」
「自分より下の存在を見つけて安心したいのもあると思う」
「みんなで頑張らないの?」
「天使にはわかんないよ」
僕は虐められた。
ある日、魔界から逃げようと思った。
悪魔の中にも僕を助けてくれるのもいて、その人を頼って僕は魔界から逃げ出した。
人間界に来て、雪くんと出会った。
「私に声かけたのって、なんで?」
「魔界に連れて行こうとしたから。そうしたら閻魔様も認めてくれるから」
「私を助けようとしたの?」
「違う!」
違う。
「自分のために。全部自分のためだけにしてたんだよ」
自分が閻魔様に認められるために、雪くんを利用しようとした。
助ける、なんていう概念は僕にない。
僕は悪魔だ。
「でも、」
雪くんが口籠る。
「でも、何?」
「……なんでもない」
雪くんは哀しげな表情を浮かべる。
「それより、これからどうするの?」
「僕が悪魔ってこと、バレたわけだし。雪くんを魔界に連れて行けそうもないから、」
僕は死んでくるよ。
「待って!」
「雪くんは何ができるの? 僕を魔界から解放してくれる?」
「それは……」
僕は部屋を出る。一層凍えた世界が、僕の心を冷やす。
「え、あ。はい。おつかれ、っす」
非現実の存在から現実のような言葉を聞いて、ダークナイトは素の反応をする。
「黒、くん……?」
雪くんが困惑する。黒山くん設定も忘れているほど。
僕は背を向けて歩き出す。
私も上がります! と雪くんの声が聞こえて、雪くんが走ってくる。
私って言おうね。
ボロいアパートの二階の、奥から3番目の部屋。
隙間風が冷たく吹いて部屋の中に寒さを溜める。
「悪魔、なの?」
雪くんが僕に訊いた。
「それ以外の何に見える?」
「……天使?」
「僕は天使じゃない!」
思わず大声が出る。
僕は天使じゃない。
「何があったのか、教えてくれる?」
「僕のお母さんは、悪魔だった」
「お父さんの方は?」
「父さんは天使だった」
僕の父さんは天使だった。
僕の母さんは悪魔だった。
母さんが人間界で死にそうになっているときに父さんに助けられた。
ふたりは当たり前のように恋に落ちた。
母さんが回復して魔界に戻れる頃には、そのお腹には僕がいた。
母さんは僕を産んで、すぐに死んだ。
僕は魔界で虐められた。
「なんで、虐められたの?」
「異質だから、排除したいんだよ」
「排除……?」
「自分より下の存在を見つけて安心したいのもあると思う」
「みんなで頑張らないの?」
「天使にはわかんないよ」
僕は虐められた。
ある日、魔界から逃げようと思った。
悪魔の中にも僕を助けてくれるのもいて、その人を頼って僕は魔界から逃げ出した。
人間界に来て、雪くんと出会った。
「私に声かけたのって、なんで?」
「魔界に連れて行こうとしたから。そうしたら閻魔様も認めてくれるから」
「私を助けようとしたの?」
「違う!」
違う。
「自分のために。全部自分のためだけにしてたんだよ」
自分が閻魔様に認められるために、雪くんを利用しようとした。
助ける、なんていう概念は僕にない。
僕は悪魔だ。
「でも、」
雪くんが口籠る。
「でも、何?」
「……なんでもない」
雪くんは哀しげな表情を浮かべる。
「それより、これからどうするの?」
「僕が悪魔ってこと、バレたわけだし。雪くんを魔界に連れて行けそうもないから、」
僕は死んでくるよ。
「待って!」
「雪くんは何ができるの? 僕を魔界から解放してくれる?」
「それは……」
僕は部屋を出る。一層凍えた世界が、僕の心を冷やす。
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